メインページへ戻る

米軍普天間飛行場代替施設の15年使用期限問題
持田直武 国際ニュース分析

2002年8月8日 持田直武

・地元は15年期限の設定が着工の条件

 政府、沖縄県、名護市などによる協議会が7月29日、米軍普天間飛行場の 代替施設を名護市辺野古沖に建設する基本計画を決定した。沖合を埋め立て、 オーバーラン帯も含め2,500メートルの滑走路を建設、軍民共用で建設費は 3,300億円。ジュゴン、さんご礁などの環境アセスメントに3年、工期に9 年半、予定通り進めば、空港は2,015年に完成する。

 日米両政府が1996年、普天間飛行場を返還し、その代替施設を建設する ことで合意してから6年。ようやく日本側が代替施設の建設基本計画の決定に までこぎ着けた。だが、これで建設への道筋がクリアーになったわけではない。 沖縄県と名護市が工事着工前に、使用期限を15年に設定するよう要求。それ が不可能なら、着工を許さないという強い姿勢を見せているからだ。


・日本政府の腰の引けた取り組み姿勢

 この沖縄県と名護市など地元の要求に対して、川口外相は7月29日の記者 会見で「県民の気持ちを重く受け止め、一歩でも二歩でも県民にとっての理想 の姿に国際情勢が肯定的に変化していくよう引き続き努力し、米国政府と協議 していく」と述べた。

 この政府の説明は1999年12月、小渕内閣が移設について最初の政府方 針を決めた時の説明と全く変わらない。当時の青木幹事長は「知事、市長の強 い要望を受け、早い時期に政府間の話し合いの中で取り上げていきたい。併せ て国際情勢が肯定的に変化するよう外交努力を続けなければならない」と記者 団に説明した。

 2年半を経ても説明が変わらないのは、期限設定問題がこの間、全く進展し ていないことを示している。もともと政府は、15年期限は沖縄県と名護市な ど地元の要望で、政府の主張と言ったことがない。また、その設定は国際情勢 が肯定的に変化しなければ実現不可能と突き放している。小泉首相も7月29 日、基本計画決定のあと記者団に「前から難しい問題でね。国際情勢、米国の 事情、地元の事情、いろいろあるから、全般的な情勢を見ながら対応していき たい」と焦点の定まらない発言をした。


・米政府周辺は使用期限の設定は常識はずれ

 米国務省は7月29日、日本側の基本計画決定によって、「普天間飛行場の 移設が現実に一歩近づいた」と歓迎の声明を出したが、使用期限については触 れなかった。米政府はもともと使用期限の設定については否定的だ。米政府の 安全保障政策に影響力を持つ戦略国際問題研究所のブレアー日本部長は琉球 新報社とのインタービューで、「新設の基地に撤退条件を付けるのは安全保障 上の常識はずれ」と語り、実現の可能性を真っ向から否定した。

 ただ、日本通で知られるアーミテージ国務副長官は副長官就任前の2000 年9月、世界週報とのインタービューで、「使用期限を人為的に区切るのはよ くない」としながらも、代替施設の完成後、「15年の使用を目標とし、10 −12年後に沖縄県のオブザーバーを交えて情勢を再検討する」という案を示 した。再検討の時点で国際情勢が好転していれば、調整可能というのだ。

 アーミテージ副長官以外の有力者が使用期限の設定に好意的な発言をした 例はその後ない。ブッシュ政権は北朝鮮の大量破壊兵器や中国の核戦力増強を 意識し、北東アジアでの警戒態勢を緩める動きはみられない。代替施設の15 年使用期限に同意するとはとても思えないのだ。


・移転計画自体の頓挫の可能性も

 小渕内閣が2年半前、政府方針に15年期限の設定を入れた時、日本国内に は疑問視する見方が強かった。防衛関係者は「期限設定は安全保障の根幹にか かわる問題で、米側が反対するのは明らか」と指摘し、閣議決定は米側への要 求というよりも、地元沖縄に対する慰撫工作という見方をしていた。

 しかし、代替施設協議会が基本計画を決定したことで、その慰撫工作にもタ イムリミットが近づいた。今後、工事着工の前提となる環境アセスメントの作 業が約3年の予定で開始される。この終了後、すぐ着工するためには、この間 に期限問題が解決する必要があるためだ。しかし、現状ではそれは難しいだろ う。今後3年の間に「国際情勢が肯定的に変化する」という見通しはないし、 米側が急遽期限受け入れに傾くこともありえないと思われるからだ。

 となると、残る手段は政府が地元に期限設定の要求取り下げを求めることだ が、これにも問題がある。期限の設定は98年の知事選挙で稲嶺知事が移設の 条件として掲げ、移設反対の大田昌秀前知事を破った。稲嶺知事が県民に対し て示した第一の公約である。琉球新報は「政府が知事に15年使用期限の撤回 を迫れば、県民の理解を得るのは難しく、移転計画自体が頓挫するのは必至」 と伝えている。


・日米同盟の最も脆弱な部分の露呈

 辺野古沖移設の基本計画が決まっても、まだ計画頓挫の可能性が消えないの だ。その背景には、歴代の日本政府が沖縄の過重な基地負担に有効な手が打て なかったことが累積している。日米安保体制を安全保障の柱とする政府と基地 の重圧で苦しむ沖縄。代替施設の使用期限設定は、沖縄がこの重圧から抜け出 そうとする行動の一つだが、政府は経済面の優遇などの迂回路以外に打つ手が 示せない。日本の安全保障を支える日米同盟の最も脆弱な部分がここに露呈し ている。


掲載、引用の場合は持田直武までご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2002 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.