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米中間選挙の結果を読む
持田直武 国際ニュース分析

2002年11月12日 持田直武

 ブッシュ大統領が中間選挙で勝ち、議会両院を傘下に入れた。国 連安保理も満場一致でイラク査察決議を採択。同大統領が国内外で 権力基盤を固め、世界政治の主導権を強化したことは疑う余地がな い。だが、この無敵のアキレスにも弱点がある。経済である。来年 以降の景気が悪ければ、大統領再選はおぼつかないだろう。


・経済にかかる不透明感

 11月7日選挙後初の記者会見で、ブッシュ大統領はイラク、経 済の双方について強気の発言に終始した。イラクが大量破壊兵器の 破棄に応じなければ、「世界平和のために我々が武装解除する」と強 調。また、懸念される米経済の先行きについては、「低金利、低イン フレ、しかも高い生産性など、経済のファンダメンタルズは健全」 と述べ、ブッシュ政権の看板政策、大型減税の恒久化推進を約束し た。減税で景気を刺激、経済を安定成長の軌道に乗せようというの だ。

 しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)は慎重だ。同理事会は6 日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.5%の大幅利下げを決 めた。この結果、フェデラル・ファンド(FF)金利は年1.25%、 公定歩合は0.75%。FF金利はケネディ大統領時代の1961年 7月以来、また公定歩合は46年5月以来の低水準。同理事会が最 後のカードを切って背水の陣を敷いたとみてよいだろう。景気に対 する同理事会の見方が極めてきびしいことを示している。

 米景気は昨年7−9月の第3四半期に修正値でマイナス1.1% を付けたあと回復基調をみせ、今年の第3四半期は3.1%だった。 しかし、その後は再びスピードが落ち、暮のクリスマス・セールな どの好条件にも拘わらず、第4四半期は1%台になるとの悲観論が 出ている。株価低迷、企業の設備投資減少、個人消費の低下、そし てパソコンなどを中心に物価が下落。連邦準備制度理事会は、こう した状況から米経済は「不透明感が強まった」と指摘している。ブ ッシュ大統領の「ファンダメンタルズは健全」とする楽観論と噛み 合うのかどうか疑問なのだ。


・イラク攻撃計画が不安心理を刺激

 不透明感を強めるもう一つの要因がブッシュ政権のイラク攻撃計 画である。連邦準備制度理事会は6日の声明で「地政学上のリスク」 という表現でイラク攻撃が実行された場合の経済面への影響を懸念 している。戦争になれば、景気低迷の上に石油価格が上がり、株価 が一層不安定になるだろう。それに戦費がかさみ連邦予算の赤字拡 大は必至だ。同政権の看板政策、減税が当面は財政赤字を生む恐れ がある上に戦費が重なるのだ。

 これに加え、ブッシュ政権は赤字州の財政支援の問題もかかえて いる。連邦予算は02年度1,590億ドルの赤字、03年度はさら に大幅赤字の予想だが、各州も多少の差はあれ同じだ。州は連邦と 違い、赤字の累積を認めない場合が多く、知事は連邦にその穴埋め のグラントを要求している。この額が今年度は巨額になり、連邦の 赤字幅を拡大させそうなのだ。かといって、グラントの額を減らす ため州に支出削減を求めれば、地方の景気が冷え込む恐れがある。

 ブッシュ政権はまだイラク攻撃を決定したわけではない。だが、 査察の実施をめぐって瀬戸際の駆け引きがフセイン政権との間で続 くことは間違いない。中東には20万から25万人の部隊が派遣さ れるほか、国内でも各州の州兵や予備役軍人26万人の招集がすで に決まっている。これからしばらくの間、いつ戦闘が開始されても おかしくない状態が続くことは確実で、当分は国民の買い控えから 消費の低迷が続くことも考えられる。


・米国民の最大の関心は景気

 CNNが中間選挙投票日の5日に発表した世論調査によれば、有権 者の関心の第1は「経済」という答えが25%。次が「教育問題」、 「イラク攻撃」は16%で3位。「テロ」が13%で5位だった。有 権者は経済に関心を持ちながら、イラク攻撃やテロ対策を強調した 共和党に投票したことになる。

 実は、この選挙結果はブッシュ政権がホワイトハウスを中心に展 開した巧みな選挙戦略の勝利だった。国民の関心が経済に向く一方 で、ブッシュ大統領は60%を超える高い支持率を維持している。

 9・11事件以後、対テロ戦争を推進する大統領への高い支持率が まだ続いているのだ。ホワイトハウスの選挙参謀は選挙戦でテロや フセイン政権の危険を強調することによって、この高支持率を支え ている有権者の発掘をねらった。

 ブッシュ大統領も選挙戦最後の2週間余り全国を飛び回って、接 戦中の共和党候補を重点的に応援。フセイン政権の危険なことを訴 えて大統領支持の有権者を投票に駆り出す作戦を展開した。民主党 の選挙戦略が焦点を欠いていたこともあって、共和党はこれで勝っ た。しかし、国民の最大の関心が依然経済の動向にあることは、CNN の世論調査が示すとおりである。


・ブッシュ大統領再選は来年以降の景気次第

 好景気は大統領が再戦を果たす上で必須の条件でもある。197 0年代以降、好景気の中で再選を求めたレーガン、クリントンの両 大統領は楽々と再選を果たした。しかし、フォード、カーター、ブ ッシュの3大統領は再選時の景気が悪化していたため落選した。大 統領選挙戦は投票の1年前から本格化する。そして、この選挙期間 の景気の動向が選挙の結果を決めるとみてよい。ブッシュ大統領の 場合2003年から4年にかけての経済動向、中でも新聞、テレビ が大見出しで報じる成長率が決定的な影響を持つのだ。

 ブッシュ大統領の父大統領の場合は再選の選挙の前年、1991 年の景気悪化で経済成長率がー1.2%。失業者が増え、連邦財政 赤字、貿易赤字も膨張して結局再選を逸した。同大統領は91年の 湾岸戦争に勝利、当時の支持率が90%を超える。しかし、この高 支持率は国民が戦争に際して大統領のもとに団結したことを示した ものだった。翌年の大統領選挙では、有権者は過去の湾岸戦争では なく、足元の景気を判断の基準にしたのである。

 ブッシュ大統領は今回の中間選挙で上院と下院の双方を制し、2 年後の再選を有利にしたと評価されている。今後、イラク攻撃で成 果を挙げれば、その評価は一層高まるかもしれない。しかし、問題 は経済である。来年から始まる選挙戦の期間、景気が悪ければ、有 権者は現職大統領には厳しい眼を向けると思わなければならない。


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