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米大統領選、ブッシュ大統領の再選なるか
持田直武 国際ニュース分析

雑誌「SQUET」2004年1月号掲載 持田直武

・組織と資金でブッシュ有利

 米大統領選は一月から各州の予備選挙が始まり、十一月二日の投票日までほぼ一年間続く。今のところ、共和党のブッシュ大統領が党の唯一の候補として組織を固め、豊富な資金を確保して優位に立っている。一方、民主党は九人の候補が乱立、組織と資金の両面で劣勢は否めない。しかし、イラク情勢と景気の成り行き次第で民主党にも可能性がないわけではない。

 米国は九〇年代から国論二極化の政治状況が進んだ。9・11テロ事件がこの状況を変えたかにみえたが、今また二極状態に戻った。ブッシュ大統領のイラク政策がこれに拍車をかけている。ブッシュ支持派は、同大統領がイラク攻撃で示した決断力、信念、倫理観を賞賛し、強力な大統領として国家の命運を託すに足るとみる。一方、批判派は、ブッシュ大統領が内政、外交の両面で米国を間違った方向に導いているとの疑いを深めている。

 ブッシュ大統領支持層は、保守系のキリスト教各派や大小の企業経営者、納税者団体などを中心に、裾野は全米各地に広がる。そして、政権に密着しているネオ・コン(新保守主義者)や保守系シンクタンクが各団体のオピニオン・リーダーあてにニューズレターを配布し、意思統一をはかっている。また、有力団体の代表は毎週水曜日、ホワイトハウスのカール・ローブ大統領再選担当顧問と会合を開く。この保守派の大同団結は八〇年代のレーガン政権以来で、強力な集票マシーンであることは間違いない。


・民主党の弱みは有力候補の不在

 このブッシュの共和党に較べ、民主党は有力候補に欠け、党の結束や資金力でも見劣りがする。九人の候補のうち上位四人、ディーン前バーモント州知事、ゲッパート下院議員、クラーク元NATO軍最高司令官、ケリー上院議員の支持率は二〇%から一〇%台、知名度も低い。ワシントン・ポストが一〇月末に実施した調査では、有権者のほとんどが一人か、二人の候補者の名前しか言えなかった。

 民主党も労働組合や人権団体、市民運動など各種組織を傘下に持ち、共和党以上に組織政党である。しかし、労働組合がディーン支持派とゲッパート支持派に分裂。党幹部も、クリントン前大統領が自派の選挙担当者をクラーク元司令官の選対に派遣して肩入れすると、ケネディ上院議員はケリー議員を支援するなど足並みが揃わない。ワシントン・ポストの調査では、共和党員の七四%が党指導部を信頼しているのに対し、民主党員のそれは五七%、民主党の結束不足を示す数字である。

 民主党候補は資金面でも、ブッシュ大統領に太刀打ちできない。同大統領は連邦選管が設定した報告期限の〇三年九月末までに八三九〇万ドルの献金を集めた。最終的に献金総額は二億ドルに達する勢いという。一方、民主党の最高額はディーン前知事で〇三年九月末までに二五〇〇万ドル集めた。目標総額は四五〇〇万ドル以上だが、これはブッシュ大統領の四分の一にも及ばない。しかも、民主党候補が予備選で資金を使い果たすのに対し、党内に対立候補のいないブッシュ陣営はその分を浮かし、勝負所で集中的に使える。


・ブッシュの弱点はイラクと景気

 しかし、ブッシュ大統領にも弱点がある。一つはイラク情勢、もう一つは景気だ。四月、米軍がバクダッドを占領した時、大統領の支持率は七〇%を超えた。しかし、夏に入って状況は一変。テロ攻撃が米軍を攪乱、戦死者が続出すると、大統領の支持率は低下。再選不支持が支持を上回ることも多くなる。同大統領は十一月、既定方針を転換してイラク暫定政府を早期に設立、六月末の主権返還と米軍の削減を決めた。選挙戦が加熱する夏、イラクが焦点になるのを避けようとする苦肉の策である。

 イラクと並んで、ブッシュ大統領の鬼門は景気の動向だ。二度の大型減税が景気を刺激し、回復軌道に乗ったかに見えるが、先行きに対する不安は多い。減税とイラク関連費で財政赤字は膨らむ一方だ。〇三年度には、三七四二億ドルの赤字を出し、〇四年度は四八〇〇億ドルに膨らむ。実は、同大統領の就任時、議会予算局は〇三年度から〇八年度までの累積黒字が二兆九〇〇〇億ドルに達するとのバラ色の予測を出した。ところが、実際は赤字が一兆九〇〇〇億ドルも累積する見通しなのだ。

 累積赤字の急激な膨張が経済のバランスを崩して金利上昇を生み、景気低迷を招かないのかとの不安がある。減税は一握りの富裕層を潤すだけで、低所得層は恩恵にあずかれない。むしろ、景気低迷の結果、職を失う恐れが増すという不満もある。民主党がこのブッシュ大統領の弱点を衝き、共和党離れした有権者層を取り込むことができれば勝てるだろう。それには、予備選挙の早い段階で、候補の一本化と党組織の結束、それに資金の確保が必須の条件となる。


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