メインページへ戻る

イラク混乱の責任者は誰か
持田直武 国際ニュース分析

2004年7月12日 持田直武

米ブッシュ政権が、イラク戦争開始の理由として挙げた情報の大半は誤りだったと、上院情報特別委員会が断定した。ブッシュ大統領は、フセインを倒し、米国をより安全にしたと反論しているが、追い詰められた感は免れない。すでにCIAのテネット長官は辞任。マスメディアの関心は、戦争推進派の大御所、チェイニー副大統領の進退問題に向いている。


・追い詰められるブッシュ政権

 同情報特別委員会は9日の中間報告で、イラク開戦前の米情報の大半は誤りだったとして、次のような3点を指摘、開戦の正当性に疑問を提起した。1、ブッシュ政権が開戦の理由としたフセイン政権の大量破壊兵器保有の情報はほとんど根拠がなかった。2、フセイン政権が国際テロ組織アルカイダと連携しているとの情報も根拠薄弱だった。3、従って、フセイン政権の軍隊が中東地域の安定と米国の利益にとって脅威になっているとの主張も根拠がないことが明白である。

 同特別委員会のロバーツ委員長(共和党)は報告公表後の記者会見で、「この誤った情報が米国のみでなく、同盟国や国連にも伝わり、フセインが大量破壊兵器を持っていると皆が信じ込んだ」と述べ、影響の大きさを強調した。また、民主党筆頭委員のロックフェラー議員は、「開戦前、この事実がわかっていれば、米議会は軍事力行使を容認しなかったはずだ」と主張した。開戦5ヶ月前の02年10月、議会はブッシュ大統領の要請に答え、上院は77対23、下院は296対133の圧倒的多数で軍事力行使を認める決議をした。この雰囲気が今はまったく逆になったのだ。

 この議会の動きに対し、ブッシュ大統領は選挙遊説先でただちに反論、「我々がフセインを倒した結果、米国はより安全になった」とフセイン除去の意義を強調した。そして、「フセインは米国に公然と敵対し、大量破壊兵器を作る力を持っていた。そして、それをテロ組織に渡す恐れがあった」と主張。イラク戦争によって、大量破壊兵器がテロ組織に渡る将来の可能性を防いだという論理を展開した。情報機関の誤った情報に基づいて、ブッシュ政権は戦争に突き進んだというのが、今や常識化しつつある時だ。ブッシュ大統領の反論は、いかにも苦しい。


・トカゲの尻尾切りですむか

 ブッシュ政権は9・11テロ事件、イラク戦争という2つの戦争を戦ってきたが、いずれも情報機関の活動に問題があり、イラクは混乱状態が続いている。これが原因で、テネットCIA長官ら同政権の高官2人がこの責任をとって政権を去った。9・11事件では、議会の9・11テロ事件調査委員会が4月、「事件前の情報をCIAが適切に処理していれば、犯人の何人かを逮捕できたはず」とCIAを厳しく批判する報告を公表。テネット長官は「我々は間違っていた」と責任を認めて7月8日に辞任した。ブッシュ政権の1人目のトカゲの尻尾切りである。

 2人目は、イラク占領当局のブレマー行政官。同行政官は6月28日、予定を早めてイラク暫定政府を組織、主権委譲を行ったあと帰国した。03年5月、陥落後のバグダッドに乗り込み、占領当局の最高指揮官として戦後復興にあたったが、混乱は増すばかり、最後には投げ出すように主権委譲をして逃げるように帰国した。6月28日のタイムは、ブレマー行政官の失政として、フセイン政権を支えていた軍隊とバース党の解散を就任早々に命令。この結果、武装軍人20万人とバース党幹部3万人が地下に潜り、その後のイラク混乱の原因をつくったと批判した。

 ブレマー氏は外交官出身だが、ホワイトハウスや国防総省幹部と親密な付き合いをすることで知られ、イラクで実績をあげれば、ブッシュ政権2期目の国務長官という声もあった。イラクでも、現地の軍幹部に意見を求めるよりは、ワシントンに長時間電話して、ラムズフェルド国防長官、ウオルフォビッツ副長官と直接話すことのほうが多かったという。イラク国内の混乱が増すにつれ、こうした同長官の政治手法に対する反発が強まり、帰国に際して見送ったのは、イラク新政府の次官が1人だった。イラク混乱の責任を背負って去ったトカゲの尻尾の2人目である。


・チェイニー副大統領の進退問題の憶測広がる

 こんな中、チェイニー副大統領の進退がマスメディアの関心を引いている。いわば、3人目のトカゲの尻尾切りとして同副大統領が浮上しているのだ。同副大統領自身は続投を目指し、選挙戦も大統領と連携して進め、ブッシュ陣営内ではだれも2人が揃って2期目を目指していることを疑わない。しかし、マスメディアの中には、違う見方も強まっている。ワシントン・ポストの7月7日付けインターネット版は、最近流れている「チェイニーはずし」のうわさについて次のように書いている。

 「ブッシュ支持率の低下、選挙キャンペーンの不評が伝わるに伴い、チェイニー副大統領の口汚いという欠点、社長をしていたハリバートン社の利権がらみの動き、それにフセイン政権とアルカイダの協力関係について、否定にもめげずに続ける主張、これらがチェイニーはずしの噂を次第に膨らませている」。9・11テロ事件、イラク戦争を通じ、チェイニー副大統領は一貫して強硬姿勢を貫いてきたが、今やその姿勢が現政権にはマイナスとの見方が広まっているのだ。

 ブッシュ大統領が副大統領候補を変えるとすれば、8月30日から開かれる共和党大会までに決め、同大会で代議員の承認を得る必要がある。だが、同大統領にそれを実行する力があるのか、また、実行した場合、影響がどう出るか、問題は単純ではない。同副大統領は飾り物の存在が多かった歴代政権の副大統領とは違う。ブッシュ(父)大統領のもとで国防長官を務め、現政権内ではラムズフェルド国防長官、ウオルフォビッツ副長官らのネオコン系人脈の上に君臨、イラク戦争推進の中枢、同時に共和党保守派の重鎮だ。情報機関混乱の責任をとるとすれば、トカゲの尻尾にはない重みがあることも間違いない。しかし、ブッシュ政権が致命傷を負うことになりかねない。大統領選挙まで4ヶ月、これからの政権の混乱は命取りになる。


掲載、引用の場合は持田直武までご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2004 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.