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6カ国協議(1) 孤立した北朝鮮
持田直武 国際ニュース分析

2005年8月8日 持田直武

6カ国協議は、中国がまとめた合意文書を、米など5カ国が受け入れ、北朝鮮が拒否する展開になった。中国と北朝鮮が、核政策をめぐって意見の対立を表面化させたのだ。今回の協議で、北朝鮮は日本を含めた朝鮮半島周辺を非核地帯化することを主張した。だが、中国がこうした動きに神経を尖らせていることも周知の事実である。北朝鮮は虎の尾を踏んだのか。


・合意文書に米は賛成、北朝鮮は不満

 中国政府は合意文書の内容を公表していないが、韓国の中央日報など各紙は同文書の草案は次のようなものだと伝えている。

 ▽北朝鮮の核廃棄と検証。
核廃棄の範囲は、「すべての核兵器と核に関する計画」と規定、査察によって廃棄を検証するとなっている。北朝鮮に平和利用の核開発を認めるかどうかの争点となっている項目。米は賛成したが、北朝鮮は「核に関する計画」の部分を「核兵器に関する計画」とし、平和利用の余地を残すよう主張している。

 ▽日朝、米朝の関係正常化。
具体的な事項は両国間の協議によって決めると規定。

 ▽対北朝鮮エネルギー支援。
韓国が提案した電力200万キロワットの供給。これが実施されるまでの間、関係国が重油を供給すると約束。

 ▽人権、拉致問題。
人権、拉致という言葉で直接言及していないが、関係国間の協議によって解決を目指すとの間接表現で触れている。

 ▽多国間安保構築問題。
北朝鮮の核問題解決を前提に北東アジアの平和と安定のため各国が共同して努力。この項目は、北朝鮮が米の敵視政策転換、核の脅威除去などを要求したのに対し、答えるもの。各国が多国間安全保障の形で北朝鮮の安全を保障し、さらに、今後は恒久的な北東アジア多国間安保秩序構築に向けた足がかりにするという。


・北朝鮮が合意文書に反対する理由

 中国がまとめたこの合意文書に対し、日米はじめ5カ国は賛成した。しかし、北朝鮮は強く反対し、中国の説得にもかかわらず態度を変えない。北朝鮮の主席代表、金桂寛外務次官は8月4日の協議終了後、報道陣に対して、反対する理由を列挙した。

 その1つが、核の平和利用の権利を認めるかどうかの問題である。今回の6カ国協議で、北朝鮮はKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)が中断した軽水炉原発の建設再開を要求したが、これは平和利用の権利要求と表裏一体をなす主張だ。その一方で、北朝鮮は、韓国が示した200万キロワットの電力供給提案については、受け入れるかどうか回答せず、供給の安定性などの問題点だけを指摘したという。

 200万キロワット電力提案は、その費用を軽水炉の建設費用でまかなうことになっている。つまり、200万キロワットの電力供給は軽水炉の代わりに提供するものだったが、北朝鮮は核の平和利用と軽水炉の再開を選択した。北朝鮮は、スイッチを韓国が握る電力供給よりも、北朝鮮が自主的に操業できる軽水炉のほうを選んだと言えるだろう。また、インタファクス通信によれば、ロシアは北朝鮮が核廃棄に応じれば、原子力発電所建設の支援をする可能性があるという。北朝鮮とすれば、これらの点からも核の平和利用の禁止を受け入れることはできないということになる。

 もう1つ、金桂寛外務次官が合意文文書に対する不満としてあげたのが、「非核化に対応する措置をとる問題」である。同次官は「我々が非核化をするのに対応して、米国は我々に対する敵視政策をやめ、関係を正常化し、核の脅威を感じさせないようにしなければならない。しかし、まだ、この問題でも、我々が望んでいる結果が成し遂げられていない」と述べた。今回の6カ国協議で、北朝鮮が核の平和利用とともに強く主張したのが、この問題だった。


・北朝鮮が主張するのは非核地帯化

 朝鮮日報によれば、今回の協議で、北朝鮮は「朝鮮半島を非核地帯化する」という言葉使いをしているという。韓国の専門家は、「非核地帯化」は単なる「非核化」よりは、より包括的な概念だと指摘し、核保有宣言をした北朝鮮の主張の変化がここに表れていると見ている。91年締結の南北非核化共同宣言では、「非核化」は、「核兵器の実験、製造、生産、搬入、保有、貯蔵、配備、不使用のほか、核再処理施設、ウラン濃縮施設を保有しないこと」と規定していた。

 これに対し、「非核地帯化」は「核兵器の実験、製造、生産、搬入・・・など」非核化で禁止している項目のほか、さらに「外国の核基地の設置の禁止、核搭載の艦船や航空機の領土、領海、領空の通過と寄港の禁止」などを加えるもので、この定義は北朝鮮でも刊行物などで一般化している。金桂寛外務次官は今回の6カ国協議で、「米の核の脅威の除去」を実現する措置として、朝鮮半島への核兵器搬入禁止、核の傘の提供廃止などを主張したが、それは「非核地帯化」の意味を込めたものだという。

 北朝鮮がこのような朝鮮半島非核地帯化を打ち出したのは、今年3月31日の外務省声明からだ。この声明で、北朝鮮は「米は核搭載艦船の韓国寄港、戦略核爆撃機の駐屯、核攻撃訓練などをすべて中止して北朝鮮と周辺関係国との信頼関係を構築するべきだ」と主張。さらに、今回の6カ国協議では、北朝鮮に対する「米の核の脅威」は在日米軍基地からも生じていると主張し、非核地帯化の実現には、日本も含めた広範囲にわたる米核戦略の見直しを要求した。しかし、中国がまとめた合意文書はこの北朝鮮の主張を載せていない。金桂寛外務次官が「我々が望んでいる結果が成し遂げられていない」と主張し、合意文書に同意しない背景には、こうした不満がある。


・非核地帯化には、中国も警戒心を抱く

 アジア地域の非核地帯については、東南アジア非核地帯構想がすでに存在しているほか、北東アジアでも日韓を中心に構想を進める動きがある。しかし、米中など核保有国は核戦略への制約が加わることを恐れ、警戒心を隠さない。中国がまとめた合意文書が、「北朝鮮の核の廃棄」に焦点をあて、北朝鮮が主張した「非核地帯化」に言及していないのは、それを反映している。しかし、北朝鮮は不満で、合意文書に同意しないことになった。

 朝鮮日報によれば、北朝鮮は91年の南北非核化共同宣言の際にも、「非核地帯化」を主張した。しかし、それを実施すれば、米軍は韓国で演習もできなくなり、米韓同盟の存続は不可能になる。このため、韓国側が非核地帯化に強く反対し、北朝鮮も単なる「非核化」で折り合うことになった経緯があるという。今後、北朝鮮が非核地帯化の主張をさらに強めれば、米韓同盟や日米同盟にも類が及ぶのは避けられない。また、中国にも問題が波及することも避けられないだろう。

 91年の時、北朝鮮が「非核地帯化」の主張を取り下げ、「非核化共同宣言」が調印された。しかし、北朝鮮はそれを守らず、93−94年の第一次核危機が起きた。今回、北朝鮮はすでに核保有宣言をし、それを踏まえた上で、米の核の脅威の除去と非核地帯化を要求している。合意文書をめぐる中国と北朝鮮の対立は、それを背景にして起きている。今回の協議で、日米韓中ロの5カ国が足並みを揃えたのも、北朝鮮のあらたな動きに対し、危機感を共有したからだと思う。 

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