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6カ国協議(2) 協議の行方
持田直武 国際ニュース分析

2005年8月15日 持田直武

核の平和利用の問題が協議の行方に暗い影を投げている。北朝鮮は今回の6カ国協議で、核の平和利用の権利と軽水炉建設の再開を要求。中国、韓国も条件付で平和利用の権利を認める仲介案を示した。しかし、米は軍事目的に転用できると強く反対。その一方で、米はイランに対して平和利用を認めた。米の二重基準、中韓との足並みの乱れ、混乱が続けば、北朝鮮は核の長期保有をねらうだろう。


・中国の仲介案を北朝鮮が拒否、韓国案は米が拒否

 6カ国協議は、北朝鮮に核の平和利用を認めるか、どうかの問題をめぐって調整がつかず、休会に追い込まれた。これまでの協議で一致したのは、朝鮮半島の非核化を究極目標とすること。そのために、北朝鮮は核計画を廃棄し、他の各国はその見返りの措置をとるという大枠でもほぼ合意した。しかし、北朝鮮が廃棄する核の範囲の中に平和利用を加えるかどうかをめぐって、米朝間の調整がつかなかった。

 この問題に関する北朝鮮の要求は次の3つである。
1、核兵器とそれに関連する計画を放棄するが、核の平和利用は認めること。
2、94年の米朝枠組み合意で、米が約束した軽水炉2基の建設再開をすること。
3、以上の2項を中国がまとめる合意文書に書き込むこと。

 しかし、米はこの要求を拒否。理由は平和利用を隠れ蓑にして、北朝鮮は核兵器を作ると疑っているのだ。今度の核危機でも、北朝鮮は実験用原子炉から取り出したプルトニウムで核兵器を製造したと自ら認めている。この米朝の対立に対し、8月9日の朝鮮日報によれば、中国と韓国が仲介に乗り出した。両国とも「北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)に復帰すれば、平和利用の権利を持つ」という趣旨の案を示したが、中国の仲介案は北朝鮮が拒否。韓国の案は米が拒否して、結局休会に追い込まれたという。


・韓国統一相が米の主張に真っ向から反論

 核の平和利用の問題では、中国、韓国、ロシア3国が以前からNPTの枠内で認めるべきだと主張し、米と対立していた。この意見の違いが合意文書作りの過程で表面化し、休会に入ってからは、米韓の間の対立に発展することになる。ブッシュ大統領は8月9日、テキサス州の休暇先で記者団に「北朝鮮には核の平和利用の権利を認めない」とあらためて強調し、韓国や中国の動きを牽制した。これに対し、韓国の鄭東泳統一相が真っ向から反論したのだ。

 ブッシュ発言から2日後の11日、同統一相はインターネット情報誌メディア・ダウムとのインタビューで、「農業用、医療用、発電用など核の平和利用の権利は北朝鮮も当然持つべきだ」と主張。さらに「米は、北朝鮮が米朝枠組み合意を破って核兵器を作ったとして、平和利用も認めないと主張しているが、韓国の認識はこれとは異なる」と述べた。同統一相はこの認識の違いについて、詳しく説明しなかった。しかし、盧武鉉大統領もかつて「北朝鮮の核開発には一理ある」と発言したことがあり、同統一相の発言もこうした韓国政府内の雰囲気を反映したものと見られている。

 潘基文外交通商相は訪問先の北京で12日、この鄭東泳統一相の発言について、「一般論を述べたものだが、米韓の間に違いがあるという誤解を生むのは好ましくない」と述べて沈静化をはかった。しかし、同統一相の発言が、ブッシュ政権の平和利用拒否の立場に打撃を与えたことは間違いない。同政権は、北朝鮮には、核の平和利用を拒否する一方で、イランには認めるという二重基準に陥っている。いわばアキレス腱をかかえた立場であり、加えて韓国との意見の対立が続けば、利益を得るのは北朝鮮ということになりかねない。


・北朝鮮は、核計画と米の核戦略の同時廃棄を要求

 6カ国協議は核の平和利用で足踏みしているが、難題はこれだけではない。米朝がその存在をめぐって対立している北朝鮮のウラン核開発計画の問題もある。7月29日のニューヨーク・タイムズによれば、今回の協議2日目、米側は情報機関が収集したウラン核計画の証拠を北朝鮮当局者に見せた。北朝鮮の反応は明らかにされていないが、米側が示したパキスタンのカーン博士の証言に、北朝鮮側は反論したという。同計画については02年10月、当時のケリー国務次官補が訪朝して証拠を示したときには、北朝鮮は存在を認めたというが、その後は否定している。北朝鮮がこの姿勢を続ければ、協議の進展はおぼつかないだろう。

 このほか、北朝鮮が、北朝鮮の核だけでなく、米が朝鮮半島周辺に展開している核も同時に撤去すべきだと主張している問題もある。これに関連して、北朝鮮の労働新聞は9日、「朝鮮半島を非核化するには、朝鮮戦争の休戦協定をあらたな平和維持メカニズムに変えることが必要」とする論評を掲げた。そして、「米が北朝鮮に対する敵対政策と核の脅迫を中止すれば、それが原因で起きた核問題も消滅し、朝鮮半島は非核化する」と述べた。いわば、北朝鮮の核開発と米の極東核戦略を対置し、双方の同時廃棄を要求しているのだ。

 北朝鮮の金桂寛外務次官は協議が休会に入った8日、北京で記者会見し、今回の協議で、参加国が「朝鮮半島の非核化を達成するため、言葉には言葉で応え、行動には行動で応えることで合意した」と述べた。北朝鮮がかねてから主張してきた「同時行動原則」で非核化を進めるというのだ。これは、北朝鮮が核施設の凍結宣言、凍結実施、施設解体と進む段階で、他の5カ国もそれに対応する行動を取り、北朝鮮が核廃棄の最後の措置を取ったときには、米との国交正常化なども完了するという原則である。しかし、北朝鮮以外の協議参加国は、この件について何も明らかにしていない。


・北朝鮮がねらうのは核の長期保有

 これらの北朝鮮の要求に対し、米韓はじめ関係国も対応策を準備していることも事実である。朝鮮日報によれば、韓国政府関係者は、北朝鮮が要求するなら在韓米軍の軍事基地も公開するとの立場だという。これは北朝鮮が核の廃棄にあたって、米軍が保有している韓国内の核も廃棄すべきだと主張していることに答える措置で、米側も同意しているという。また、北朝鮮が米軍の核潜水艦や空母の寄港中止を要求していることについても、この政府関係者は「米側と協議し事前通告することを考えている。しかし、米軍の撤退や米韓同盟の廃棄につながる要求には応じられない」と述べた。

 また、北朝鮮が要求している休戦協定をあらたな平和維持メカニズムの変える問題についても、今回の6カ国協議の過程で関係国のフォーラムを組織することが決まった。中央日報によれば、韓国、北朝鮮、それに米中の関係4カ国が6カ国協議と並行して論議する予定という。北朝鮮が主張してきた「同時行動原則」に沿った進め方のようだ。そのシナリオに従えば、北朝鮮が核兵器と核計画の廃棄の最終段階を実施するとき、米の核の脅威は消え、日本や米との国交正常化や経済交流が実現するときということになる。

 しかし、そのような順調な展開を予想する見方はほとんどない。核の平和利用をめぐって、米朝の対立に加え、米韓が対立しているのをみても、それはわかる。北朝鮮の人権問題、日本が求める拉致問題の解決などもある。これらがからめば、6カ国協議の長期化は避けられないか、あるいは決裂の恐れも消えない。北朝鮮もそれを予想して、核を最後まで手放さない構えなのだろう。「同時行動原則」にこだわるのは、そのためと見なければならない。 


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