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イランの核開発問題と原油価格
持田直武 国際ニュース分析

2006年2月27日 持田直武

パレスチナ情勢が険悪な様相を呈してきた。選挙の勝者ハマスが、イスラエル抹殺の主張放棄を拒否。これに不満なイスラエルはパレスチナ自治政府への資金供給を停止。米、EU、ロシアもイスラエルに同調し、ハマスを兵糧攻めする構え。これに対し、イランがハマス支援を宣言、米欧と対決するイスラム勢力の先頭に踊り出た。


・資金の遮断で自治政府は危機

 ハマスは1月25日選挙で、自治評議会の全議席132のうち、74議席を獲得、与党ファタハの45議席を抑えて第一党になった。得票率はハマス44%、ファタハ42%と僅差だったが、ハマス陣営が1選挙区に1人と候補を絞った作戦が成功、乱立のファタハを破った。この結果、ファタハが推進してきたイスラエルとの和平路線は後退、ハマスが掲げてきたイスラエル抹殺、イスラム教の教えに基づいたパレスチナ国家建設という強硬路線が脚光を浴びることになった。

 イスラエル、米欧はじめ関係国に与えた衝撃は大きい。ハマスが政権を握り、イスラエル抹殺を目指せば、パレスチナ和平は吹き飛ぶ。各国は、ハマスに対して、イスラエルの存在を認め、同国との過去の合意の尊重を要求するが、ハマスは拒否。この結果、イスラエルは2月19日、代理徴収した関税や消費税の自治政府の取り分5,000万ドル余の引渡し停止を決めた。米、EU、ロシア、国連も、ハマスが政権担当後もイスラエルの存在を認めなければ、援助を停止する方針を決定。今後兵糧攻めにする構えになった。

 自治政府の年間予算は22億ドル余り。世界銀行によれば、歳入は、イスラエルが徴収する関税や消費税が年間6億ドルのほか、国際社会の援助が、米から2億2,400万ドル、EU1億8,700万ドル、アラブ連盟1億2,400万ドルなど約11億ドル。これらで、自治政府の職員約13万5,000人の給与や行政費をまかなうが、イスラエルが資金供給を停止した結果、2月末には給料の支払いもできないという。これに加え、米、EU、ロシアなどが今後援助を打ち切れば、大混乱になる恐れがある。


・ハマスはイランの支援に期待

 パレスチナ自治政府のアバス議長は2月21日、基本法に基づいて、ハマスが選出した首相候補ハニヤ氏に組閣を正式に要請。同時に、自治政府とイスラエル間で交わした過去の合意の尊重と暴力の放棄を求めた。合意を尊重することは、ハマスがイスラエル抹殺の主張を事実上取り下げることを意味する。しかし、ロイター通信によれば、ハマスの最高指導者メシャル氏は亡命先のイランで、このアバス議長の要求を拒否、「イスラエルのパレスチナ撤退以外のことを話すのは時間の無駄だ」と述べ、抹殺の主張を堅持する姿勢を示した。

 ハマスのこの強気は、イスラエルや欧米が資金を遮断しても、イランやアラブ諸国が補填するとの期待があるからだ。メシャル氏は2月20日から2日間にわたって、イランのアフマディネジャド大統領、ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長と会談。この席で、ラリジャニ事務局長は「米の圧迫に対抗するため、我々は財政支援をする」とハマスに約束したことを明らかにした。メシャル氏も「パレスチナの将来について、イランが果たす役割は今後ますます大きくなる」と述べた。

 一方、エジプトとサウジアラビア両国首脳も21日と22日、訪問した米のライス国務長官に対し、援助を継続する方針を表明した。エジプトのゲイツ外相は同長官との会談のあと記者団に対し、「相手が忍耐を示せば、ハマスも平和な組織になる」と述べ、援助停止ではなく、援助継続によってハマスが強硬路線を放棄するとの見方を示した。イランはハマスの強硬路線を支援するため援助するとの方針を鮮明にしたのに対し、エジプトは、ハマスの柔軟路線への変化を期待して援助するという。


・米欧の圧迫下、イランの勢力拡大は必至

 このエジプトの姿勢には、ハマスの強硬路線に対する警戒心が反映している。ハマスのもともとの出自は、エジプトやシリアに根拠地を置くイスラム原理主義の過激派集団、モスレム同胞団である。同組織はイスラム教の教えに基づく国造りを主張、1954年10月には、エジプトのナセル大統領の暗殺未遂。81年10月には、サダト大統領をパレードの場で暗殺した。過激派テロ組織アルカイダで、リーダーのビン・ラディンに次ぐナンバー2のザワヒリはこの同胞団の出身である。

 エジプトのムバラク政権はじめ、中東の多くの世俗政権にとって、同集団は政権の存立にかかわる重大な脅威である。ところが、エジプトの05年選挙では、このモスレム同胞団が88議席を獲得、野党第1党に躍進した。その兄弟組織であるハマスが今回パレスチナ評議会で過半数をはるかに超える議席を獲得し、政権の座に就くことになった。ムスリム同胞団もハマスも今上げ潮に乗っている。

 この状況下、米欧が援助打ち切りの強硬措置をとっても、あるいはエジプトのゲイツ外相が主張するように当面援助を続けても、ハマスは強硬路線を変えないに違いない。そして、危機が深まれば、ハマスはアラブ諸国より、イランにより多くを頼ることになるだろう。イランはイラクでも、シーア派と結び、混乱に乗じて影響力を拡大している。パレスチナでも、危機に乗じて、ハマスと結び、勢力拡大を図るに違いない。イランが核兵器開発に固執するのは、この勢力拡張の動きと無関係ではないと見なければならない。


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