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北朝鮮の核実験情報の背景
持田直武 国際ニュース分析

2006年9月3日 持田直武

北朝鮮が核実験をするとの情報が流れている。米が金融制裁を拡大、窮地に立った北朝鮮が核実験で対抗すると見られるのだ。北朝鮮外務省も「あらゆる対抗措置をすべて講じ、我々の体制と尊厳を守る」と実験を示唆するような声明を出した。


・実験強行の可能性は5分5分

 核実験準備の報道は8月17日の米ABCテレビの報道がきっかけで始まった。ブッシュ政権高官が、北朝鮮咸鏡北道吉州郡の山地で、「核実験用と見られる大量のケーブルを車両から下ろすなど不審な動きがある」と語った。翌日には、韓国政府関係者もこれらの事実を確認していることを認めた。同山地には、1958年にソ連の援助で建設した核訓練センターがあり、90年代に大規模な掘削工事が行われた。それ以来、米韓の情報機関は核実験用の地下壕ではないかと疑っていた。

 だが、今回実験準備の証拠があるわけではない。中央日報によれば、韓国情報院の金昇圭院長は28日の議会情報委員会で、「準備と断定できる直接的な情報は無い」と認めた。しかし、同院長は「金正日総書記が実験の指示を出せば、何時でも実験に着手できる技術的な力量を備えている」との判断を示し、「その指示をする可能性は現在5分5分」と語った。同院長はまた、「北朝鮮は現在核兵器1−2個を持ち、プルトニウムも40−50キロ保有している」と推定していることも明らかにした。

 北朝鮮は05年2月の外務省声明で「核兵器を製造した」と宣言した。しかし、外部で確認した者はなく、疑問を抱く向きも多い。北朝鮮がもし、核実験をすれば、この疑問は消え、核保有は現実として認められる。だが、その場合の波紋は、19日の朝鮮日報(電子版)が言うように「予想することさえ困難」である。東アジアの安保秩序は混乱し、米はじめ各国ともこれまでのカードは使えなくなる。上記の朝鮮日報はそうなった時、「米は軍事力以外の方法で、金正日総書記を排除する政策に転換する」という北朝鮮専門家の意見を紹介している。


・銀行の有志連合が北朝鮮を排除

 北朝鮮が核実験に走る背景には、米の金融制裁の圧迫がある。北朝鮮外務省は8月26日の声明で、「米財務省が東南アジアなど10カ国余りの銀行に対し、北朝鮮との金融取引中止を呼びかけ、北朝鮮の対外経済活動を妨害している」と非難。「米が今後も金融制裁を拡大し続けるなら、我々は必要なあらゆる対応措置をすべて講じて、自国の思想と体制、自主権と尊厳を守る」と強調した。対応措置が何を指すのか、声明は触れていないが、核実験も含まれることは間違いない。

 これに対し、米財務省の金融制裁担当レビー次官は8月28日AP通信のインタビューで、金融制裁の拡大を認め、「北朝鮮の不正行為に加担したくない各国の銀行がある種の『有志連合』を形成し、北朝鮮を排除している」と強調した。また、米議会調査局のパール調査官も自由アジア放送で、米が金融制裁を発動したあと、「北朝鮮は中国、ロシア、ベトナム、モンゴルなど10カ国23行に新口座を開設したが、今はこれら諸国の銀行も米に全面的に協力している」と述べ、中国、ロシアなど北朝鮮の友好国の銀行も金融制裁に加わっていると強調した。

 北朝鮮は上記26日の声明で、米が金融制裁を解除すれば、6カ国協議に復帰するという従来からの主張を繰り返した。しかし、ブッシュ政権が今の状況で、金融制裁を解除することはまず考えられない。むしろ、上記朝鮮日報が伝える北朝鮮専門家の意見のように「金正日総書記を排除する」軍事力以外の方法として、金融制裁を今後さらに強化する可能性が強い。その場合、中国やロシアはじめ、どの国も、北朝鮮の不正行為を排除し、国際金融体制を守るという米国の主張には逆らえないだろう。


・状況は予断を許さず

 今回の核実験情報に関連して、中朝関係の変化も注目されている。中国の銀行が米の金融制裁に協力していることも、その変化の1つだ。また、7月5日の北朝鮮のミサイル発射では、中国は北朝鮮非難決議に賛成した。今回の核実験問題でも、中国外務省の崔天凱次官補は8月21日、土井たか子元衆議院議長と会談した際、北朝鮮が「そうした行動をとれば協力できない」と述べ、縁切り宣言とも取れる発言をした。また、劉建超報道官も8月5日、韓国を訪問した際のインタビューで「北朝鮮は最近、中国の話を聞く耳を持たない」と語り、中朝関係の悪化を認めた。

 劉建超報道官はこの発言をした時、「朝鮮不聴話、不聴中国的話、不聴自己的話」という中国語を使った。このうち「不聴自己的話」の意味として、朝鮮日報は「北朝鮮は自分自身の話にも聞く耳を持たない、つまり、約束を守らない」という意味だと解釈している。ミサイル発射は、米クリントン政権と交わした約束や、小泉首相が訪朝して調印した平壌宣言などを破ったものだ。核実験をすれば、北朝鮮が韓国と91年に結んだ南北非核化共同宣言や、94年の米朝枠組み合意に違反することになる。

 核実験準備の情報が流れたあと、ブッシュ政権は8月21日から米軍9,000人が参加する恒例の米韓合同演習「ウルチ・フォーカス・レンズ」を開始。その最終日9月1日には、北朝鮮のテポドンに見立てたダミー・ミサイルを迎撃するミサイル防衛実験に成功した。これに対し、北朝鮮の祖国平和統一委員会は直ちに声明を発表、「演習は宣戦布告に等しい」と非難し、我々は「自衛的抑止力」を強化すると主張した。昨年9月19日、6カ国協議で北朝鮮の核放棄を含む共同声明に調印してからまもなく1年。状況は予断を許さない方向に進んでいる。


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