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南北首脳会談、背後に米の影
持田直武 国際ニュース分析

2007年10月8日 持田直武

盧武鉉大統領と金正日総書記が南北平和宣言に署名した。その焦点の1つは、朝鮮戦争の終戦宣言をして恒久的平和体制を構築するとの合意である。昨年11月の米韓首脳会談で、ブッシュ大統領が描いたシナリオと同じだ。盧武鉉大統領が今回の南北首脳会談で金正日総書記に伝え、3者の合意が成立した。


・朝鮮戦争関係国の首脳会談で合意

 盧武鉉大統領と金正日総書記が4日に署名した南北平和宣言は正式名称「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」で全8項目。このうち第1項から3項までは、南北の敵対関係の終結や統一へ向けて法制度の見直しなど、いわば南北プロパーな問題。第4項が朝鮮半島の核問題と終戦宣言など恒久的平和体制の構築問題。第5項と6項が経済協力と文化交流の問題。第7項が離散家族問題。第8項が国際舞台での南北協力と海外同胞の権利を守る問題となっている。

 このうち焦点の朝鮮戦争の終戦宣言について、上記宣言は「現在の休戦体制を終結させ恒久的な平和体制を構築するため、直接関係する3カ国、または4カ国の首脳が会談し、終戦宣言をする。このために南北は協力する」と述べ、関係国による首脳会談を開催することで合意した。この終戦宣言案は、ブッシュ大統領が昨年11月に提案し、今回の南北首脳会談で盧武鉉大統領が金正日総書記に伝えることになっていた、いわば米のシナリオだった。

 ブッシュ大統領がこの休戦宣言の構想を初めて明らかにしたのは、昨年11月APEC(アジア太平洋経済協力会議)出席のためハノイを訪問、盧武鉉大統領と会談した席だ。スノー報道官によれば、同大統領はこの席で「北朝鮮が核開発計画を完全に放棄し、今後再開しないなら、我々は朝鮮戦争の終戦宣言をはじめ、経済、教育、文化などあらゆる面で協力する用意がある」と述べた。同大統領はまた、今年9月シドニーのAPECでも盧武鉉大統領と会談、「終戦宣言のための首脳会談開催」の提案を南北首脳会談で金正日総書記に伝えるよう要請した。


・金正日総書記は非核化を今後の原則と明言

 今回の南北首脳会談のあと、盧武鉉大統領が行った説明によれば、同大統領は金正日総書記に、このブッシュ大統領の提案を説明した。これに対し、金総書記は「休戦体制を平和体制に転換することに同意する。終戦宣言の具体的な方式に、我々も関心が高い。これを成就するため南側も努力して欲しい」と答え、韓国側の協力を求めた。北朝鮮はこれまで韓国が休戦協定に署名しなかったことを理由に、終戦宣言に参加するのを拒んできた。金正日総書記のこの発言は、北朝鮮がこの立場を変えたことを示した。

 今回の南北首脳会談で、もう1つの関心は、金正日総書記が核の完全放棄を決断したのかどうかだった。ブッシュ大統領は終戦宣言や恒久的平和体制構築の大前提として、北朝鮮が核計画を完全放棄することを条件としている。しかし、南北首脳会談の宣言は第4項で「南北は、朝鮮半島の核問題解決のため05年の6ヶ国協議の共同声明と今年2月の合意が順調に履行されるよう共に努力する」と簡単に記述しただけで、北朝鮮が核の完全放棄を決断したのかどうか疑問があった。

 しかし、盧武鉉大統領の説明によれば、金正日総書記は「非核化することに異議はない」と明言したという。同大統領が首脳会談の席で「韓国の最大の関心は非核化だ。非核化についてのこれまでの合意を確認しよう」と述べ、核の完全放棄の決意を質したのに対し、金総書記は「その点に異議はない。朝鮮半島の非核化は今後守るべき原則だ」と答えたという。北朝鮮は91年の韓国との非核化共同宣言や05年の6ヶ国共同声明で非核化に合意したが、約束を守らなかった。今回は、金正日総書記直接の約束だけに今後の成り行きが注目されている。


・米朝韓の協調で日本は孤立

 南北首脳会談でこのような進展が伝えられるのと並行して、6カ国協議の新たな展開もあった。南北首脳会談開始の前日、中国が6ヶ国協議の合意文を公表。北朝鮮が核施設の無能力化と核計画の完全申告を年内に実施することが伝わった。ブッシュ大統領は直ちに歓迎の声明を発表、「完全で検証可能な非核化を朝鮮半島に実現するという目標に一歩近づいた」と称賛した。同じ日、6ヶ国協議代表のヒル国務次官補は記者団に対し、北朝鮮をテロ支援国のリストから削除する手続きを4日から始めると述べた。

 米朝韓の協調態勢が目立つ一方で、日本の出遅れも明らかになった。今年2月の6ヶ国協議の合意では、日本と北朝鮮は平壌宣言に従って、不幸な過去を清算し、拉致問題を解決して国交正常化の協議を始める予定だった。そして、この作業は、米が北朝鮮をテロ支援国リストから削除する作業と並行して進む筈だった。ヒル次官補が今手続きを開始したのは、議会への提出書類の期限から逆算し、年内に手続きを終えるためだという。拉致問題が解決しなくても、テロ指定を解除する準備である。

 南北首脳会談でも、日本に関連する問題が出た。盧武鉉大統領が会談後に行った説明によれば、同大統領が「朝鮮半島の平和定着と経済協力の拡大、北東アジアの秩序維持のためには、日朝関係の改善も必要だ」と強調したが、同大統領によれば、金正日総書記はただ聞いているだけだったという。しかし、李在禎統一相は記者会見で「福田首相に代わったので、今後の政策を見守りたい」と発言したと説明しており、はっきりしない。日本が直接交渉することが必要なのは言うまでもない。


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