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米ビッグスリー救済の行方
持田直武 国際ニュース分析

2008年12月14日 持田直武

米自動車大手3社ビッグスリーの救済策が難航している。ブッシュ政権と議会が推進した超党派の救済策が頓挫。再度、ブッシュ政権が新救済策の検討を始めたが、退任間近の同政権に多くを期待するのは無理。その一方で、競争力のないビッグスリーは破産して出直すべきだとの主張も強まっている。


・救済がなければ2社は数週間で破産

 CNNニュースが12月3日に調査した結果によれば、米国民の61%が公的資金でビッグスリーを救済することに反対である。しかし、3社の首脳は議会の公聴会で、公的資金の融資がなければ、3社のうちGMとクライスラーは数週間で破産すると証言した。そうなれば、米社会が大打撃を受けるだけでなく、影響が世界に拡大することは確実となる。ブッシュ政権と議会民主党指導部が10日、これを避けるための緊急救済策で合意。次のような救済法案を下院に提案した。

1、 GMとクライスラー2社に来年3月までのつなぎ融資140億ドルを実施
2、 3社は来年3月までに再建計画を提出
3、大統領が任命する経営監視官が再建を監視
4、経営陣の賞与や株主配当を禁止
5、政府は株式取得権(ワラント)を取得

 この救済法案に対し、民主、共和両党とも票は割れたが、法案は次のような大差で可決された。

 賛成237票(民主党から205票、共和党から32票)。
 反対170票(共和党から150票、民主党から20票)。


・共和党保守派と自動車労組の対決が法案を葬る

 上院は11日上記法案の審議に入り、共和党議員が修正動議を出した。1つは、ビッグスリーの競争力を高めるため、労働者の賃金や待遇を日本の自動車各社並みにすることだった。ビッグスリーの高賃金や待遇の良さが経営を圧迫し、市場で日本車に遅れを取る原因になるとの見方からだ。議場外の協議で、米自動車労組はこの要求を受け容れることに同意した。しかし、APによれば、共和党はこのあと、さらに賃金を日本各社より下げるよう要求する動議を出した。

 自動車労組がこれに反対、審議はこれ以上進展しなかった。このため、上院指導部は審議を打ち切り、法案の採決の是非を問う表決を実施した。その結果、採決支持票が52票で過半数を超えたが、妨害を排除して議事を進めるのに必要な60票には達しなかった。共和党保守派の議員の間には、下院が可決した法案は労働組合に甘いとの不満が強く、中には、議事妨害をして表決を阻止すると予告する議員もあった。このため、上院指導部は法案を表決にかけず廃案にした。

 議会内にビッグスリー救済反対の意見が強いのは、最近の自動車業界の変化を反映している。ビッグスリーは20世紀初頭からデトロイトを中心に伝統的な自動車王国を築いている。これに対し、最近は日本のトヨタやホンダ、韓国の現代、ドイツのBMWなどが進出。アラバマ州やテネシー州などにそれぞれの拠点を構築。新車生産台数でもビッグスリーを凌駕する勢いだ。今回の救済策に批判的な立場を取る議員はこれら外国各社が進出した州選出の議員であることも注目してよい。


・ビッグスリーはいずれ清算される運命か

 ビッグスリー救済法案は廃案になったが、ブッシュ政権も議会も3社の破産を避けたい点では一致している。ビッグスリー3社が雇用している従業員24万人、販売網や部品工場など関連企業を含めると米国労働人口の10人に1人が何らかの形で3社と繋がっているという。3社首脳は議会の公聴会で、1社でも破産すれば、関連企業も含め300万人の失業者が出ると証言した。ブッシュ政権としては、何らかの手を打たざるを得ないことになった。

 今のところ、10月に議会を通過した7,000億ドルの金融安定化法の一部を割き、ビッグスリー救済に当てる案が浮上している。この案は以前にも出たが、ポールソン財務長官が金融安定化の資金をビッグスリーという製造業に転用できないとして反対、棚上げになった。それをもう一度検討し直すことになるが、議会がどう出るかの問題が依然として残っている。退任まで1ヶ月余りのブッシュ大統領が議会をまとめることができるのか、今の状況では予断を許さない。

 米国識者の中には、ビッグスリーが今のような金融危機の最中に破産するのは好ましくないが、いずれ清算されるべきだという主張も出ている。CNNの国際問題アナリストのザカリア氏は「3社首脳は議会で競争力を取り戻すと言ったが、事実を語っていない」と批判。「ビッグスリーは当面、雇用を維持するために救済するが、いずれ破綻する運命にある。その時、米経済がそれに耐える状態になっているよう期待するしかない」と語っている。


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