メインページへ戻る

北朝鮮の核放棄の意思に疑問深まる
持田直武 国際ニュース分析

2008年1月6日 持田直武

米国が、北朝鮮は核計画の申告を年内に実施しなかったと発表。これに対し、北朝鮮は11月に米に通告したと反論。両者が真っ向から対立することになった。北朝鮮が核計画の完全で正確な申告をすることは核放棄を実現する上で不可欠。対立は、北朝鮮が核放棄をする意思があるのかとの疑問を深めている。


・米報道官、北朝鮮の核放棄の意思を疑う

 ホワイトハウスのペリノ報道官は2日、北朝鮮が12月31日までに核計画の申告をしなかったと発表。さらに「今後、北朝鮮が完全で正確な申告をする意思があるのか、疑問がある」と述べた。記者団が「北朝鮮が核計画をすべて公開すると期待しているのか」と質問したのに対し、同報道官は「公開しないと考える理由はない。しかし、申告に時間がかかり過ぎるので、疑問が生まれた」と答えた。ブッシュ政権の報道官が北朝鮮の核放棄の意思を疑う発言をしたのは異例だった。

 これに対し、北朝鮮外務省の報道官は4日の声明で、「我々は11月に核計画のリストを作成、その内容を米国側に通告した。我々がなすべきことはすべて完了した」と米側の主張に真っ向から反論した。しかし、米側はこの北朝鮮の主張を直ちに否定した。ホワイトハウスのジョンドロー報道官は「米はまだ申告を受け取っていない。北朝鮮は直ちに提出するべきだ」と主張。また、国務省報道官も「米国はじめ6ヶ国協議の関係国はまだ北朝鮮の申告を受け取っていない」と反論した。

 北朝鮮は昨年10月の6ヶ国協議合意文で、すべての核計画の完全で正確な申告と核施設の無能力化を年内に実施すると約束。一方、米もこれと並行して北朝鮮をテロ支援国指定と敵国貿易法の対象から除外すると約束した。しかし、北朝鮮にとって、核計画の完全な申告は国家の最高機密を公開するのと同じである。北朝鮮が核の完全放棄を決断しなければ、完全な申告はできないと見られていた。今回の北朝鮮の動きは、この意思がないのではないかとの疑問を深めることになった。


・ブッシュ大統領は12月の親書で完全な申告を督促

 今回の動きは、米朝が申告をめぐって水面下で接触したが、成果がなかったことを示唆している。上記北朝鮮外務省の声明は「11月に核計画の申告リストを作成、米側に通告した」というが、日時は明らかにしていない。当時の米朝高官の接触で明らかになっているのは、ヒル国務次官補と金桂寛外務次官が10月31日北京で会談。ヒル次官補は12月3日から5日まで平壌を訪問して、朴義春外相や金桂寛外務次官と会談、金正日総書記宛のブッシュ大統領の親書を手渡した。

 ホワイトハウスのペリノ報道官はこの親書の内容について「北朝鮮が年内にすべての核計画を正確に申告するよう督促するものだ」と説明した。同報道官はそれ以上の説明をしなかったが、ニューヨーク・タイムズが政府高官の話として報じた内容によれば、ブッシュ大統領はこの親書で「北朝鮮は製造した核兵器の数、抽出したプルトニウムの量、海外に移転した核技術」と具体的な項目を挙げ、これらについて「正確に申告しなければならない」と要求したという。

 上記北朝鮮外務省の声明は、北朝鮮側も申告リスト作成にあたって、これら項目に配慮したと主張している。例えば、米側が関心を持つウラン濃縮問題で、声明は「米の要請を受けて、我々は輸入アルミニウム管を利用した軍事施設の一部まで参観させ、アルミニウムの輸入がウラン濃縮とは関係ないことを説明した」。また、シリアに対する核技術の移転疑惑についても、声明は「10月3日の6ヶ国協議合意文で、核兵器とその技術の移転をしないと合意した。それで十分のはずだ」と主張している。


・ブッシュ政権が交渉姿勢を転換か

 米側はこうした口頭による説明では不十分で、文書による正確な申告が必要との立場だ。北朝鮮との交渉責任者ヒル国務次官補は4日の記者会見で、「申告には、現在と過去のすべての核物質、核施設、核計画が含まれる必要がある。北朝鮮から書面に基づかない一部の説明を受けたが、これは正式な文書に基づく説明とは違う」と主張。北朝鮮が主張している通告は「単なる非公式協議で、その内容も不十分と判断している」と説明した。

 ホワイトハウスのジョンドロー報道官は4日、ブッシュ政権としては今後も北朝鮮の申告を待つとの立場を明らかにした。しかし、北朝鮮は外務省声明で「我々がなすべきことはすべて完了した」と主張しており、あらためて申告することはないのではないかとの見方も出ている。対北朝鮮強硬派のボルトン前国連大使は3日のワシントン・タイムズのインタビューに答え、「この問題を契機にして、ホワイトハウスの北朝鮮政策が変わる」との見方を示した。

 ブッシュ政権は任期が残るところ1年、昨年までは核問題に決着をつけ、外交実績にするとの期待もあった。しかし、北朝鮮が今回のような動きを続ければ、それも不可能となり、ブッシュ政権の外交も消極的なものになるだろう。韓国で、李明博次期大統領が就任すれば、金大中政権以来10年続いた対北朝鮮協調政策が変わることも確実。北朝鮮はこうした状況変化を前にして、核計画の申告などを再検討しているに違いない。6カ国協議も今後しばらく動きが鈍くならざるをえないだろう。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2008 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.