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米大統領選挙 決め手はカネかスキャンダルか
持田直武 国際ニュース分析

2008年3月9日 持田直武

共和党はマケイン上院議員が大統領候補指名を確定した。だが、民主党はオバマ、クリントン両上院議員が四つに組んで、出口が見えない。両議員とも選挙史上空前の献金を集めて闘志満々。勝利を決めるのはカネか、それとも、スキャンダルか、予断を許さぬ展開となった。


・選挙史上空前の集金額

 07年1月、クリントンとオバマ両上院議員が立候補に動き始めた頃、米連邦選挙管理委員会のトナー委員長は「08年選挙は空前の金権選挙になる」と見て、「主要候補は07年中に選挙資金として少なくとも1億ドルの献金を集める」と予測した。次の表に見るようにこの予測は民主党に関する限り的中した。

 主要候補が集めた献金額(07年12月31日までの額、連邦選挙管理委員会発表)

  
 「民主党」
 クリントン  1億705万ドル
 オバマ    1億209万ドル
 エドワーズ  3千498万ドル
  
 「共和党」
 ジュリアーニ  5千878万ドル
 ロムニー    5千391万ドル
 マケイン    3千748万ドル

 民主党のクリントン、オバマ両候補はトナー委員長の予測どおり1億ドル。これに対し、共和党はジュリアーニ、ロムニー両候補がその約半分。また、共和党候補の指名を確定したマケイン候補は約3分の1だった。共和党ブッシュ政権に対する有権者の不満が民主党への巨額の献金となったことが見て取れる。CNNによれば、この民主党候補への献金は次の表に見るように08年に入っても続く。

  
 「民主党」  08年1月      2月
 オバマ    約3,600万ドル  約5,500万ドル
 クリントン  約1,350万ドル  約3,500万ドル
  
 「共和党」  08年1月      2月
 マケイン   約1,275万ドル  約1,200万ドル

 民主党オバマ候補は1月3日のアイオワ党員集会で勝ったあと献金が急増。1月からの献金総額はクリントン候補に対して、2対1の比率となった。オバマ陣営が流すテレビ広告の量もこの豊富な資金力を反映、クリントン陣営に対し2対1の比率となる。危機感を持ったクリントン候補は私費500万ドルを選対に貸し、対抗策を練った。しかし、オバマ候補の勢いは止まらず、2月5日のスーパー・チューズデー以後、オバマ候補は10ヶ所の予備選挙と党員集会に連続して勝った。


・テレビ広告と二枚舌

 このオバマ候補の躍進を止めたのは、クリントン陣営が流したテレビ広告とオバマ候補の二枚舌の露見だった。スーパー・チューズデーのあと、焦点は3月4日のテキサスとオハイオ両州の予備選挙。両州でオバマ候補が勝てば、クリントン候補は撤退せざるを得ない所まで追い込まれた時だ。事前の世論調査では、オハイオ州でクリントン候補がやや有利だが、テキサス州は互角。しかし、オバマ候補には直前の連勝の勢いがあり、予断は許さない状況だった。

 そんな時、クリントン陣営が次のようなテレビ広告を流した。映像は「午前3時、ホワイトハウスの電話が鳴り、危機を告げる。寝ていたクリントン候補がベッドでそれを取る」という内容。ナレーションは「クリントン候補はファースト・レディや上院議員として経験を積み、大統領に就任すればその日から危機に取り組める。しかし、オバマ候補は経験が浅く、危機管理能力に欠ける」という内容だ。9.11事件の記憶を蘇らせる効果もねらっている。

 この放送と並行し、オバマ候補の二枚舌が暴露された。オハイオ州の予備選挙直前、オバマ、クリントン両候補が討論会でNAFTA(北米自由貿易協定)の問題を取り上げた時だ。オハイオ州は同協定の影響で産業が国境を越えてカナダに流出、失業者が増えて不満が多い。これに対し、両候補とも大統領に当選すれば、カナダと交渉して同協定を見直すと主張した。その直後、オバマ候補の経済担当顧問がカナダの外交官に「見直しは国内向けの発言」と事前に釈明したことを示すメモが関係者に届いた。


・オバマ候補とシカゴの政界黒幕の関係も俎上に

 メモは本物で、カナダ政府内から漏れたことが判明。後日、カナダのハーパー首相がオバマ候補に迷惑をかけたと謝罪した。オバマ候補には手痛い打撃になった。この暴露でオハイオ州におけるオバマ候補支持は急速に低下。3月4日の予備選挙は、クリントン候補の得票54%に対し、オバマ候補は44%と予想以上の大差になった。オバマ候補に対する逆風はこれだけではない。シカゴでは、同候補の関連が取り沙汰される政界黒幕レズコ氏の裁判が3月3日から始まった。

 レズコ氏はシカゴの市街地再開発を手がける不動産業者、多額の政治献金を通じてイリノイ州のブラゴジェビッチ知事はじめ州政界に人脈を築いた。オバマ候補もそのレズコ人脈の1人で、今回の大統領選挙でも同氏から多額の献金を受けている。裁判は、同氏が事業に関連して詐欺や脅迫など8件の違法行為をした容疑。今のところ、オバマ候補がこれら違法行為に関係したことを示す証拠はない。ただ、オバマ候補が自宅を購入した際、不明朗な資金の動きがあり、スキャンダルの匂いがするのだ。

 3月3日のワシントン・ポストによれば、オバマ候補は05年6月、シカゴの高級住宅地にある邸宅を購入した。上院議員になって半年後だった。同じ日、レズコ氏の夫人も同邸宅に隣接する空き地を購入、その後一部をオバマ候補に転売した。検察当局によれば、この売買の1ヶ月足らず前、ロンドン在住のイラク人富豪ナダミ・アウチ氏がレズコ氏宛に350万ドルの送金をした。英紙タイムズは2月26日、この資金がオバマ候補の邸宅購入を援けた疑いがあると報じた。


・身元調査が必要なオバマ候補

 この指摘に対し、オバマ候補は住宅をレズコ夫人と同じ日に購入したことは認めた。しかし、レズコ氏の違法行為には関係していないと主張。同氏から受けた献金は15万ドルを返還、7万2,650ドルを慈善団体に寄付したことを明らかにした。また、イラク人富豪アウチ氏について、オバマ候補は会ったこともないと関係を否定した。しかし、シカゴ・サン・タイムズ紙はアウチ氏が05年シカゴを訪問、ホテルでオバマ氏と会ったと伝えた。

 クリントン候補は、オバマ候補が政治家として経験が浅く、マスメディアなどによる身元調査を十分受けていないと主張してきた。同候補自身はファースト・レディや上院議員としてあらゆる角度からの調査に曝された。しかし、オバマ議員はその種の調査を十分受けたとは言えない。オバマ候補の出身地シカゴはかつてデーリー市長のような大ボスが政界を牛耳ることで知られた。その世界で、オバマ候補が異例の若さで頭角を現したのは何故か、関心を持つ向きは多い。

 そんな時、黒幕レズコ氏の裁判が始まった。マスメディアは固唾を呑んで見守り、インターネットには、Rezko Watch などという専用のサイトも登場した。大統領選挙では、カネとスキャンダルが選挙の行方を左右することが多いが、今回もその傾向が現れた。オバマ候補はこれまでメディアとの関係は比較的に良好と言われてきた。しかし、ここにきて雲行きが怪しくなったようだ。この波を潜り抜けないと、大統領の座に坐ることはできない。


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