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米大統領選挙 一匹狼マケイン候補の政策
持田直武 国際ニュース分析

2008年4月6日 持田直武

マケイン候補が予想どおりブッシュ離れの方針を明確にした。外交政策では、単独行動主義の放棄、同盟国との協調、グアンタナモ収容所の閉鎖、地球温暖化防止などだ。だが、ブッシュ政権を支えてきた共和党内の保守派が予想どおりこれに反発。保守派がマケイン候補で一本化するのは難しい状況だ。


・マケイン候補は保守派の枠からはみ出す

 共和党が大統領選挙で勝つには保守派の団結が不可欠だ。保守派が分裂した選挙で、勝った候補はいない。1976年選挙では、穏健派の現職フォード大統領に対し、レーガン前カリフォルニア州知事を支持する保守派が対立。当時、無名だった民主党カーター・ジョージア州知事に勝利をさらわれた。92年選挙では、富豪ペロー氏が現職ブッシュ(父)大統領の穏健政策に反発して新党を結成。党内保守票がペロー候補に流れ、クリントン・アーカンソー州知事が漁夫の利を得た。

 マケイン候補は保守派を名乗っているが、第三者の評価は分かれる。米保守連合(American Conservative Union)は、マケイン候補の過去の議員活動を分析して保守82%と評価した。しかし、別の調査機関VoteView.com.は、マケイン候補について第107議会(01年1月―02年12月)では、49人の共和党上院議員のうち6番目にリベラルと評価。ところが、109議会(05年1月―06年12月)では、2番目に保守的と評価した。保守からリベラルまで評価は一定しない。

 マケイン候補がブッシュ政権と反りが合わないことも周知の事実だ。同政権1期目を支えたネオコン(新保守主義者)は2,000年選挙で、初めはマケイン候補を支持した。だが、まもなく関係悪化、ブッシュ現大統領支持に鞍替えする。そして01年、ブッシュ大統領が就任し、保守派待望の1兆3,500億ドルの大型減税を提案した。マケイン候補はこれに反対し、独自の修正案を提出した。ブッシュ提案は「富裕層を潤すが、低所得層に不十分」というリベラル派を思わせる理由だった。


・脱ブッシュの外交政策と保守派の不満

 マケイン候補は3月26日、大統領に就任した場合の外交政策を発表、脱ブッシュの方針を明確にした。ブッシュ政権が掲げた単独行動主義を放棄し、同盟国との協調を重視する、いわば穏健中道派路線である。この立場で、遅れている核兵器の削減や、グアンタナモ基地に設置したテロ容疑者収容所の閉鎖を目指すという。また、地球温暖化問題でも、京都議定書から離脱したブッシュ政権の方針を転換、温室効果ガス削減の国際取り決めに復帰する方針を示した。

 イラク政策では、マケイン候補はブッシュ政権の政策を継承、米軍駐留を続ける。しかし、その理由は「さらなる混乱回避のため」で、ブッシュ政権が掲げた「中東に民主主義を根づかせるため」とは大きく変わった。同候補は開戦を支持したが、ラムズフェルド前国防長官が進めた少数の兵力で最大の効果をねらう効率化戦略には反対だった。同戦略は兵士に過重な負担を強いるとの判断からだ。ブッシュ大統領が昨年実施した兵力増強を同候補が支持したのも、この判断からだった。

 共和党内には、このマケイン候補の政治的傾向に強い不満がある。保守派の団体「家族に焦点」の創立者ドブソン氏は4月3日、ウオールストリート・ジャーナル紙に寄稿し、「マケイン候補の政策では共和党はまとまらない」と不満を表明。同候補が打ち出した同盟国との協調路線やグアンタナモ基地の閉鎖、地球温暖化対策について、「米国の国益を無視して欧州諸国に媚を売るもの」と非難した。この不満はドブソン氏だけでなく、他の保守派団体の指導者に共通している。


・共和、民主両党とも党内世論分裂

 マケイン候補と保守派の軋轢は前々回の2,000年選挙まで遡る。同選挙で、マケイン候補はニューハンプシャー州予備選挙でブッシュ現大統領に49%対30%で大勝。次のサウスカロライナ州で勝てば勝ち馬に乗った状態になるとみられた。ブッシュ現大統領陣営が危機感を持ったのは間違いない。同陣営を支持する共和党エスタブリッシュメントとドブソン氏らのキリスト教福音派が巻き返しに出た。そんな中、非合法すれすれのネガティブ・キャンペーンが登場する。

 出所不明のビラや広告がばらまかれ、「マケイン候補は同性愛者」と決め付ける。あるいは「ベトナム戦争で精神異常になった」。「黒人女性と不倫し混血の子供がいる」。また、「シンディ夫人は薬物中毒」というのもあった。中傷が効いたのか、マケイン候補はサウスカロライナ州では42%対53%でブッシュ現大統領に敗れ、その後立ち直れなかった。同候補は「うわさを流した者には地獄の特別席を用意するべきだ」と発言、ブッシュ陣営の運動を支えた保守派との反目を深めた。

 ドブソン氏のウオールストリート・ジャーナル紙への寄稿を見ると、共和党保守派が今回の選挙でマケイン候補に一本化する見通しは薄い。しかし、これは民主党についても言える。ギャラップ調査所が3月7−22日に調べた結果では、民主党のクリントン候補支持者の28%はオバマ候補が党大統領候補になった場合、11月の投票日には共和党のマケイン候補に投票すると答えた。オバマ候補の支持者19%もクリントン候補ではなく、マケイン候補に投票するという。民主、共和両党とも党内世論分裂のまま投票日を迎えそうなのだ。


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