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米大統領選挙 決着の行方
持田直武 国際ニュース分析

2008年5月11日 持田直武

オバマ候補が民主党の党候補指名を獲得することが確実になった。2大政党初の黒人大統領候補か、初の女性候補かの先陣争いに決着がつく。だが、クリントン候補は敗北を認めない。党内の撤退要求と資金不足にも拘わらず、最後の予備選挙まで私費を投じて戦い続けるという。彼女のねらいは何か。


・クリントン候補の勝つ可能性消える

 オバマ候補は5月8日NBCテレビで「5月20日の段階で勝利宣言ができる」と語った。同候補がこれまでに獲得した一般代議員は1,592人。一般代議員総数3,254人の過半数1,628人まで残す所36人である。同候補の今の力なら、13日のウエストバージニア州から20日のケンタッキー州など3州の予備選挙で、一般代議員36人以上を獲得するのは容易だ。この状況を見て、特別代議員も過半数がオバマ支持にまわると計算しているのだ。

 これに対し、クリントン候補がこれまでに獲得した一般代議員は1,424人。一般代議員の獲得数でオバマ候補を逆転するには、13日のウエストバージニア州から6月3日サウスダコタ州の最後の予備選挙まで残る6ヵ所で平均70%の支持を得て全勝しなければならない。その上で、特別代議員の過半数の支持も取り付けなければならないが、それはまず不可能。同候補が勝つ可能性が消えたのは間違いない。民主党内では、この状況を読み込んだ動きが表面化してきた。

 同党の長老で1972年の民主党大統領候補だったマックガバン元上院議員がクリントン支持を撤回、オバマ支持を表明した。同元上院議員はこの態度表明にあたって、クリントン前大統領に電話し「勝つのは数字的に無理」として選挙戦からの撤退を求めたことも明らかにした。これに対し、前大統領は特に反対しなかったという。クリントン夫妻は結婚前、同元上院議員の大統領選対本部に揃って参加し、テキサス州の選対責任者を務めて以来の緊密な間柄だった。


・名誉ある撤退の道が歩めるか

 だが、クリントン候補は撤退に応じる気配はない。同候補の選対責任者マコーリフ氏は8日のNBCテレビの番組で「クリントン候補は6月3日の最後の予備選挙まで戦い続ける」と述べた。一見強気だが、6月3日までと期限を切ったことで、予備選挙の終了を待って撤退の道を探ることを示唆したとの見方もある。今の状況では、クリントン候補は資金面からも選挙戦を続けるは難しいとの見方が強い。オバマ候補に較べ、献金が大幅に減っているからだ。

 選対関係者によれば、クリントン候補の手持ち資金は3,170万ドルで、オバマ候補より2,000万ドル少ない。4月ペンシルベニア州で勝ったあと、1日で1,000万ドルの献金があったが、その後は漸減。クリントン候補が私財640万ドルを選対に貸した。それでも、5月6日のインディアナとノースカロライナ両州の予備選挙では、オバマ陣営が900万ドルをテレビ広告に投入したのに対し、クリントン陣営は470万ドル。その一方で、借金は1,500ドルに膨らんだ。

 党内外には、クリントン候補がこのまま選挙戦を続ければ、同候補の政治生命に影響すると警告する向きもある。政治サイト「ポリティコ」は7日「同候補は大統領候補の指名を逃してもまだ現職上院議員。女性初の上院院内総務になる可能性や、ニューヨーク州知事に転出する道もある。オバマ候補が本選挙で共和党のマケイン候補に敗れれば、クリントン候補が4年後に再挑戦する機会もある。その可能性を傷つけることなく、撤退することが必要だ」と説いている。


・クリントン候補の視野には4年後も

 クリントン候補は1947年10月生まれで60歳。子供の頃、母親が「女だから出来ないということは何もないのよ」と言い聞かせたという。名前のHillaryも、世界で初めてヒマラヤ登頂に成功したEdmund Hillaryにあやかって命名したというのが、母親の説明だった。しかし、ヒマラヤ登頂は1953年、ヒラリーの誕生から6年後だった。恐らく、母親が幼い娘への期待を込めて作った後付の話だった。その期待にたがわず、ヒラリーは男に伍して常に頂上を目指すことになった。

 4月27日のニュース分析でも紹介したが、クリントン前大統領の選挙参謀だったディック・モーリス氏はフォックス・ニュース(電子版)への寄稿で「ヒラリーの視野には大統領の座しかない」と言う。冷厳な現実主義者のクリントン候補はオバマ候補との差をもはや逆転できないことや、撤退要求が日々高まっていることを知らない筈はない。知りながら、6月3日の最後の予備選挙まで私費を投じても選挙戦を続けるのは、4年後の大統領選挙を視野にいれているからだというのだ。


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