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6カ国協議 米朝協調路線の頓挫
持田直武 国際ニュース分析

2008年9月7日 持田直武

北朝鮮が核施設の無能力化を中断、米朝中心の協調路線が頓挫した。発端は、米が核申告の検証対象に核兵器も含める要求をしたこと。北朝鮮はこれに反発して、検証を拒否。米は対抗して北朝鮮のテロ支援国指定解除を延期と対立がエスカレート。6カ国協議が振り出しに戻りかねないことになった。


・対立の焦点は核兵器の検証

 北朝鮮外務省は8月26日の声明で「核施設の無能力化中止」を発表した。中止の理由は「米が北朝鮮をテロ支援国指定から解除しないためだ」。米朝は昨年10月の6カ国協議で、北朝鮮が核申告をするのと引き換えに、米は北朝鮮をテロ支援国指定から解除することで合意した。北朝鮮はこの合意に従って6月26日、核申告書を提出したが、米は北朝鮮をテロ支援国指定から解除しなかった。その理由として、米は北朝鮮が核申告の検証に応じないためと主張している。

 今回の対立はこの検証問題が引き金となった。北朝鮮が核申告をした後、米はその内容を検証するための「手続き草案」を北朝鮮に提示した。同意すれば、8月11日までに検証を終えてテロ支援国指定を解除する予定だった。だが、北朝鮮は「手続き草案」を拒否した。同草案が「北朝鮮の核兵器やウラン核開発、他国への核拡散も検証する」と明記、北朝鮮が核申告に含めなかった核兵器なども検証対象にする内容だった。核兵器の検証要求は米のこれまでの姿勢から大きく離れたものだ。

 北朝鮮がこの核兵器の検証要求に反発したことは明らかだった。しかし、26日の北朝鮮の外務省声明は検証に反対する理由として、「6カ国協議や米朝間のいかなる合意にも、核申告書に対する検証を決めた規定はない」と主張。これまでの合意には核申告の検証に関する規定がないことを反対の理由として挙げ、核兵器の検証に言及することを避けている。この問題は北朝鮮にとっても今後の交渉戦略に大きな影響を与える重要事項であるからだろう。


・ブッシュ政権が強硬姿勢に戻る

 北朝鮮の核申告検証は6カ国協議にとっても、目標である朝鮮半島の非核化を達成する基礎となる。しかし、北朝鮮が主張するように、これまで6カ国協議でそれを決めたことはなかった。検証については、05年9月の6カ国共同声明で「同協議の目標は、平和的方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化である」との規定があるだけだ。だが、これは北朝鮮の核放棄が完了し、朝鮮半島が非核化された際の検証を指すもので、北朝鮮の核申告など個々の事案の検証を指すものではない。

 このため昨年2月、6カ国協議が北朝鮮の核施設の活動停止と封印を決めた際は、同時に監視のためIAEA(国際原子力機関)要員の復帰も決める措置を取った。また、昨年10月の6カ国協議で、核施設の無能力化と核計画の申告を年内に実施することを決めた際も、米は当初その検証の義務化を事前に決めるよう主張した。しかし、朝鮮日報(電子版)が韓国政府高官の話として伝えたところによれば、北朝鮮がこれに応じず、結局交渉を急ぐ米が曖昧な表現で妥協したという。

 確かに米はこの頃、北朝鮮に譲歩を繰り返した。06年の中間選挙で共和党が大敗、イラク情勢の悪化が重なり、ブッシュ政権は北朝鮮の核問題に見通しをつけようと躍起だった。ヒル国務次官補と金桂寛外務次官の交渉を頻繁に開き、ウラン核開発やシリアとの核協力疑惑を申告対象から落とし、核兵器も申告の枠外とした。ところが、その米が核申告の検証手続き草案を作る段階で突如強硬姿勢に転換、検証の対象に核兵器やウラン核開発、シリアへの核技術移転まで含める要求をした。


・対立の背景に北朝鮮の核長期保有をめぐる攻防

 米の強硬姿勢は、政権内の強硬派が主導権を握ったためだ。交渉推進派のヒル国務次官補の出番が少なくなり、国務省の核拡散担当で強硬派ボルトン元国連大使に近いマクナーニー次官補代理が表面に出てきた。核申告の検証手続き草案は同次官補代理が中心になって作成、7月10日から3日間開催した6カ国協議で北朝鮮に提案した。内容はヒル次官補と金桂寛外務次官が推進した路線から大きく離れ、両者が棚上げした核兵器やウラン核開発なども検証の対象にする強硬な内容だった。

 この米の検証要求が北朝鮮の主張と相容れないのは明らかだった。26日の北朝鮮外務省声明によれば、北朝鮮は検証について「朝鮮半島を非核化する最終段階で6カ国協議参加国が共に受けるべき義務」と解釈している。そして「北朝鮮の核放棄に対する検証は、韓国とその周辺に米の核兵器がなく、新たな搬入や通過もないことを確認する検証と同時に行われなければならない」というのだ。非核化の最終段階で、米が検証を受ける時、北朝鮮も同時に検証を受けるという立場である。

 だが、今の状況下で朝鮮半島の非核化の最終段階が何時訪れるのか、見通しは立たない。北朝鮮が核申告の検証を拒んでいる状態がこのまま続けば、見通しは益々立たなくなる。その一方で、北朝鮮は中断した核施設の復旧作業を進めることも間違いなさそうだ。過去5年間の6カ国協議の成果を無にしかねない動きである。しかし、北朝鮮はこの状況を、北朝鮮の核兵器保有を既成事実化し、核保有国の立場を世界に認めさせる絶好の機会と捉えるに違いない。


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