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米中によるG2時代の到来か
持田直武 国際ニュース分析

2009年11月22日 持田直武

オバマ大統領がアジア諸国を訪問、米外交の中枢に米中関係を据えることを明確にした。21世紀の課題に取り組むには、米中の協力が不可欠という認識からだ。日米関係が世界で最も重要な2国間関係と言われた時代が終わり、米中によるG2の時代が到来するのか。


・G2構想、中国の含みのある反応

 オバマ大統領が今後の外交推進にあたって、米中関係を重視していることは知られている。その基本的な概念となっているのが、米中両国によるG2(Group of Two)という発想である。オバマ大統領は中国訪問前の14日、東京でアジア外交について演説。その中で「21世紀の課題に単独で対処できる国はなく、米国も中国も課題に共同で対処することで、良い結果を得られる」と強調。G2の用語は使わなかったが、米中共同の取り組みを重視するG2の概念を強調した。

 オバマ大統領はこのあと中国を訪問、胡錦濤国家主席や温家宝首相と会談。G2という言葉を使ったのか不明だが、構想を説明したのは明らかだった。中国の新華社通信は18日のオバマ・温家宝会談のあと、「温家宝首相はこの会談で、オバマ大統領が示唆したG2の構想に同意しなかった」と伝えた。その理由として、同首相は「中国は発展途上国で、その余裕がない。どの国とも同盟しない。世界の懸案は1カ国や2カ国が解決するものではない」という3つを挙げたという。

 個々の懸案についても、中国の反応は米側が期待したものではなかった。ニューヨーク・タイムズによれば、オバマ大統領は今回の訪中で胡錦濤国家主席と合計6時間も顔を合わせた。しかし、懸案のイランに対する経済制裁について、胡錦濤主席は発言を控え、中国人民元の切り上げ問題でも何のヒントも与えなかった。また、中国の人権問題については、会談のあとの共同声明で「両国の間に認識の違いがある」という異例の表現で、双方の立場を確認する形になった。


・ますます重みを増す中国の立場

 ニューヨーク・タイムズは、債権国としての中国の立場がオバマ訪中のダイナミクスを変えたと報じた。今回のオバマ大統領の訪中は、浪費家の債務者が貸し手の銀行家に敬意を表明しにやって来たのと同じというのだ。中国は米国の赤字国債を約8,000億ドルも購入、日本を抜いて第一位の債権国である。この経済力と広い国土、世界一の人口、それに厖大な軍事力などによって、将来米国の覇権に挑戦する可能性を持つ唯一の大国とみられるようになった。

 オバマ大統領が中国との関係をG2の概念で捉え、国際的懸案の解決に中国の協力を求めるのは当然の成り行きと言える。イランの核開発疑惑の問題も、中国の協力が得られなければ、米やEUが計画している国連制裁は発動できない。北朝鮮の核開発問題も、中国だけが金正日総書記を動かし、核放棄を促す影響力を持つと言っても言い過ぎではない。米が北朝鮮の6カ国協議復帰にこだわるのも、同協議の議長国中国の影響力に多大の期待を懸けているからだ。

 もう一つ、米国が中国に期待せざるを得ないのが、赤字国債の問題だ。オバマ政権は経済危機克服のため今後も大量の赤字国債を出す予定で、累積額が同政権の任期満了時の2013年にはGDP(国内総生産)の100%、第二次世界大戦で戦費のため大量の赤字国債を発行した当時と同じ比率になる。これを大過なく売却し、安定的に保有して貰うには、中国政府に協力を求めざるを得ない。オバマ大統領が今回の訪中で中国にG2のパートナーの役割を持ちかけたのも頷けるのだ。


・日本の役割も相対的に変化

 日本も米国国債の保有では10日の時点で7,310億ドル。中国に次いで2番目の大口債権国として、米国経済に深く関わっている。また、今回のオバマ大統領の日本訪問では、日米同盟を一層深化させることや、核廃絶の長期目標の共有、温室効果ガスの削減などにも協力の範囲を広げることになった。しかし、かつての「日米関係は世界で最も重要な2国間関係」の言葉は聞かれず、オバマ大統領は14日の演説で「日本は地域における米国の取り組みの基軸」と定義した。

 日米関係の明らかな後退である。オバマ大統領がそれに代えて提唱したのが米中を基軸とするG2である。中国はこのG2構想に消極的だが、オバマ大統領はこの概念に基づく米中協力を今後も目指すに違いない。同大統領が訪日する直前、日本国内で普天間移設問題が突如浮上、並行してインド洋の給油打ち切りが決まった。日本の政権交替が原因の動きだが、この日本の動きが、オバマ大統領をG2構想に一層傾斜させる圧力となったことは十分考えられる。

 オバマ大統領が今後G2構想を進めれば、アジアにおける中国の役割は相対的に増す。そして、期待どおり北朝鮮の核放棄が実現し、地域が安定すれば、日本の役割も相対的に変わる。狭い日本に米軍基地を置くことが、住民にとって如何に辛いか、今度の普天間移設問題の浮上で改めて認識された。この状況は米軍にも、好ましいことではない。G2を推進するオバマ大統領が普天間移設を合意どおりに進めるのか、新たな対応を目指すのか、その意味で注目しなければならない。


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