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アフガニスタンは第二のベトナムか
持田直武 国際ニュース分析

2009年12月22日 持田直武

世論調査では、米国民の52%がアフガニスタンはベトナム戦争のように泥沼化すると懸念している。駐留米軍のマクリスタル司令官も戦闘の主導権はタリバン武装勢力が握っていると認めた。オバマ大統領は米軍3万を増派して、戦況の転換を狙うが、思惑通りにいくか不安は多い。


・米史上最も長い勝利のない戦争

 オバマ大統領が3万の米軍増派を決定、アフガニスタン駐留米軍は来年前半に9万8,000人になる。NATO(北大西洋条約機構)傘下の他の諸国の部隊4万余を合わせると、外国軍の総計は15万。これに対し、タリバン武装勢力は昨年に較べ倍増したと推定されるが、それでも2万5,000人。だが、この兵力差にもかかわらず戦況の見通しはよくない。駐留米軍のマクリスタル司令官は機会あるごとに「戦闘の主導権はタリバン武装勢力が握っている」と認めている。

 マクリスタル司令官は12月9日の議会証言でも、この「タリバンが優勢」との判断を強調。米軍の増派は「この状況を転換し、戦闘の主導権を取り戻するため」と説明した。その上で「主導権を取り戻しても、敵が全面降伏した第二次世界大戦のような勝利はない」とも述べた。アフガニスタン戦争は01年の9・11テロ事件の1ヶ月後、ブッシュ前大統領が米軍を派遣して以来で、戦闘はすでに8年2ヶ月。ベトナム戦争の8年を超える米史上最長の戦争となった。


・タリバンの力の背景

 タリバンのこの力は、彼らが地域住民の中にいることで生まれる。ベトナム戦争に従軍したジャーナリスト、エリック・マーゴリスが12月1日のCNNで語っているように、最大の問題は「彼らがアフガニスタンの住民であることだ」。「米軍が戦っている相手はアフガニスタンに住む住民だ。そのほとんどは貧しい、農村の住民の中で暮らしている。米軍が彼らをそこから追い出すのは、きわめて難しい」。この状況は、米軍がベトナムで直面したのと同じだ。

 米軍がタリバンが潜伏する村を攻撃すれば、一般住民の犠牲者が出る。住民の不満が高じて米軍への敵意となり、タリバン武装勢力に加わる若者が増える。ベトナムでも、同じことが起きた。ベトナム駐留米軍は68年、55万に膨れ上がったが、北ベトナム軍と南ベトナム解放戦線の戦意は衰えなかった。米国内ではこの記憶が消えていない。CNNの10月19日の世論調査によれば、米国民の52%がアフガニスタン戦争はベトナムと同じ様に泥沼化すると心配している。


・米の対応の混乱

 米政権の対応にも混乱がある。ブッシュ前大統領は01年10月7日、アフガニスタンに最初の米軍部隊を派遣。その4日後の記者会見で「この戦争がいつ終わるか、わからない。明日かもしれない、一ヵ月後かもしれない。あるいは、1年、2年かもしれないが、我々は勝つ」と述べた。ニューヨーク・タイムズはこの3週間後、「泥沼化という不吉な言葉がワシントンで交わされる会話につきまとい始めた」と報じた。ベトナム戦争のような泥沼化の懸念が当初からつきまとっていたのだ。

 ブッシュ前政権の戦争目的にも紆余曲折が現れる。当初の目的は、タリバン政権がかくまっていた9・11テロ事件の首謀者ビン・ラディンを捕捉することだった。01年12月には、米軍が彼をアフガニスタン東部トラボラ地区に追い詰めたが、すんでのところで捕捉に失敗。彼はパキスタン国境地帯に逃げた。それ以来、米軍の主任務はタリバンとの戦闘に重点が移った。そして、国境地帯に潜伏するビン・ラディンの捕捉はパキスタン政府の責任にようになった。


・オバマ政権内の意見も分裂

 米軍3万人の増派に関連して、オバマ政権内の意見分裂も明白になった。増派は、マクリスタル駐留軍司令官が8月に要請、要求数は最高4万人だった。クリントン国務長官とゲーツ国防長官は支持したが、バイデン副大統領は反対。同副大統領は米軍の主任務をタリバン掃討から元のビン・ラディン捕捉に戻し、駐留米軍を削減すべきだと主張した。アフガニスタン駐在のアイケンベリー大使も反対。腐敗したカルザイ政権を守ることはないというのが主な理由だといわれる。

 オバマ大統領は来年春、増派を開始し、同時に300億ドルの増派費用の承認を議会に求める。しかし、審議する下院のペロシ議長はかねてから増派に反対。同議長は審議にあたって「同僚議員に支持を働きかけたりしない」と承認への協力を拒否した。民主党のリベラル派議員の中には、駐留米軍の撤退を求める意見が多い。増派は共和党内に支持があるため承認されるとみられるが、リベラル派議員がこれを契機にオバマ離れをするとの観測もあり、同大統領にとっては頭が痛い。


・大統領の再選が懸かる賭け

 ブッシュ前大統領も2年前、イラク駐留米軍の増派で同じ問題に直面した。同前大統領は反対を押し切って増派を強行、結果は成功だった。オバマ大統領も反対を押し切って増派を決定したが、ブッシュ前大統領と一つだけ違う点がある。オバマ大統領が増派だけでなく米軍撤退開始の期日も決めた点だ。1年7ヶ月後の11年7月から、アフガニスタン駐留米軍の撤退を開始すると決定した。オバマ支持者に多い撤退論者に向けての配慮であるのは間違いない。

 オバマ大統領とブッシュ前大統領のもう1つの違いがこの背景にある。オバマ大統領は12年に再選を控えているが、ブッシュ前大統領はそれがなかったことだ。オバマ大統領が再選を確実にするには、撤退の開始することが必要だ。問題は、アフガニスタンの治安状況がそれを許すまで回復するかだ。ベトナムでは、米軍が撤退したあと、2年後に北ベトナム軍が大攻勢を展開、サイゴンが陥落した。米国にとってこの苦い経験が再び起こらないかという不安があるのだ。


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