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北朝鮮の挑戦
持田直武 国際ニュース分析

2009年2月15日 持田直武

北朝鮮が核放棄の条件を示した。米が北朝鮮に対する敵視政策と核の脅威を完全に清算するか、あるいは、現在の敵対関係のまま、両国が核保有国として同時に核軍縮をするか、どちらかだという。ねらいは核保有国の立場を確立し、核を長期保有することだ。オバマ政権はこの北朝鮮の挑戦を阻めるか、疑問は多い。


・米に核戦略の転換を要求して緊張演出

 この北朝鮮の主張は1月13日の外務省報道官声明と2月2日の人民軍総参謀部報道官の発言で明らかにした。それによれば、「核問題は、韓国が米国の敵視政策に従って韓国に核兵器を持ち込んだため起きた。従って、米が敵視政策と核の脅威を清算すれば、北朝鮮も核放棄をする。もし、現在の敵対関係のままで核放棄をする場合、米朝が核保有国として核軍縮をするしかない」という。オバマ政権に対して、米核戦略の大幅な転換を要求する内容である。

 北朝鮮はこの要求の一方で、朝鮮半島周辺で緊張を高める行動に出た。1月17日には、人民軍総参謀部の報道官声明で「韓国と全面的な対決に入る」と宣言。続いて1月30日、祖国平和統一委員会が「政治、軍事に関する全ての南北合意の破棄」を宣言した。韓国の李明博政権が「対決姿勢を強化し、南北関係を戦争寸前の状態に追い込んだ」という理由だ。破棄した中には、西海岸の海上軍事境界線に関する合意も含まれ、南北の艦艇が衝突する恐れも出ている。

 北朝鮮はこれと並行し、テポドン2号の発射準備と見られる動きを始めた。韓国各紙によれば、北朝鮮は2月初めから咸鏡北道のミサイル発射基地に物資を搬入、中には平壌近くのミサイル工場を出発した長さ40メートルの箱型列車もあった。米韓情報当局は、積荷は長距離ミサイル、テポドン2号と推定している。韓国の李明博大統領の就任1年目にあたる2月25日に発射。その直前、日中韓を歴訪する米のクリントン国務長官に圧力をかけるとの見方もある。


・オバマ政権はブッシュ前政権の路線踏襲

 これに対し、オバマ大統領はブッシュ前政権の路線を踏襲する姿勢だ。同大統領は3日、李明博大統領と電話で会談。ホワイトハウスのギブス報道官は「両大統領は北朝鮮の核兵器を検証可能な方法で廃棄するため、6カ国協議で協力することで合意した」と発表した。12月の同協議で合意できなかった核施設の検証問題を解決し、05年の共同声明に従って、北朝鮮の核放棄を実現するとの方針を確認したもので、北朝鮮が出した敵視政策の清算や核軍縮の要求とは噛み合わない。

 クリントン国務長官も13日の演説で、ブッシュ前政権の方針を踏襲。「北朝鮮が完全な核放棄をすれば、関係を正常化し経済協力をする」と述べた。この方針はブッシュ前大統領が06年に決めたもので、核計画の完全廃棄を条件に平和協定を締結、関係を正常化し経済協力もするとの内容だった。ブッシュ前政権はこの方針で、米朝2国間交渉を6カ国協議と並行して進めたが、核施設の検証問題で対立。その後、北朝鮮は核保有国の立場で核軍縮を要求するなど、要求を吊り上げた。

 クリントン国務長官は13日の演説では、敵視政策の清算や核軍縮など北朝鮮の新たな要求には触れなかった。しかし、北朝鮮がテポドン2号の発射準備とみられる動きをしていることには言及。「北朝鮮が挑発行動に出れば、話し合いは一層難しくなる」と述べ、北朝鮮に自制を要求した。北朝鮮は06年のテポドンなど一連のミサイル発射で、国連安保理決議による経済制裁を受けている。今回、ふたたび発射すれば、さらに重い制裁が科されることは避けられない。


・北朝鮮の思惑どおりの結果になるか

 北朝鮮が米との交渉でねらっているのは、核保有国としての立場の確立だ。今回、北朝鮮が持ち出した米の敵視政策の清算や軍縮交渉もねらいはそこにあると見てよいだろう。05年の6カ国協議共同声明で、北朝鮮は核放棄に合意したが、放棄を実施する期限は決めていない。この結果、北朝鮮が核保有国の立場に立てば、米と同じように核兵器を長期保有できると考えたとしても不思議ではない。この北朝鮮の動きに対し、オバマ政権がどう出るか、今後の焦点となる。

 だが、米国内にはかつてのような強硬論はない。米国家情報省のブレア長官の最近の発言がそれを物語っている。同長官は12日、上院情報特別委員会に09年版「脅威評価報告」を提出して証言。その中で「北朝鮮は核兵器を武器としてより国際的威信の発揚や外交の威圧手段として重視している。もし、使うとすれば、北朝鮮が絶体絶命の危機に陥った時しかないだろう」と分析。従って「米領土や米軍に対して核攻撃を加えることはないだろう」とも付け加えた。

 ブッシュ前政権は03年、6カ国協議を開始した時、北朝鮮の核開発を「無条件、かつ検証可能な方法で放棄し、再開させない」と強調。また、核放棄をしても「褒賞を与えない」とも主張した。ところが、その後の米朝交渉で次々と譲歩。核施設の検証も出来ないまま、切り札のテロ支援国指定を解除した。北朝鮮の次の目標、核保有国の立場について、オバマ政権はまだ態度を表明していない。だが、ブレア情報長官の判断を見ると、北朝鮮の思惑どおりの結果になると考えても不思議ではない。


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