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北朝鮮の人工衛星打ち上げ宣言
持田直武 国際ニュース分析

2009年3月22日 持田直武

北朝鮮がテスト用の通信衛星を打ち上げると予告した。だが、実体はテポドン2号ミサイルの性能テストで、国連安保理決議にも違反するというのが大方の見方だ。日米韓は場合によっては撃墜も辞さずと強硬。中国も胡錦濤主席が北朝鮮の金英逸首相と会談して懸念を表明したが、打ち上げが変わる気配はない。


・ミサイルも人工衛星も打ち上げ技術は同じ

 北朝鮮が大型ロケットの実験をするのは今回で3回目だ。前2回は予告なしに打ち上げたが、今回は通信衛星の打ち上げだと予告。直前に宇宙条約や宇宙物体登録条約に急遽加盟した。また、国際海事機関にも、日本海の秋田沖など2ヶ所を4月4日から5日間、危険水域に指定すると通告した。打ち上げが、平和目的の通信衛星で、国際条約の面でも問題ないとの立場を示したのだ。だが、通信衛星は見せかけで、実体はテポドン2号の性能テストではないかとの疑問が消えない。

 米議会の上院軍事委員会は19日の公聴会で、この疑問を取り上げた。席上、チルトン米戦略軍司令官は「人工衛星の打ち上げでも、その技術は軍事用ミサイルの向上に役立つ」と強調。さらに、同司令官は「北朝鮮が米国を射程に収める長距離ミサイルの技術を磨き、それに核兵器の技術が加われば、米国に対する重大な脅威になる」と主張した。北朝鮮のテポドン2号が米アラスカ州や西海岸を射程に収めることは伝えられており、これに注意を喚起する発言だった。

 このチルトン司令官の発言が示すように、人工衛星の打ち上げはミサイル技術の向上にも役立つなど、共通部分が多いという。両者の違いは、ロケットの弾頭部分に人工衛星を載せるか、爆弾を載せるかの違いだけと言う向きもある。問題は、北朝鮮が通信衛星のテストを目的として打ち上げるのか、それとも運搬用大型ロケットの性能向上を目的としているのかである。この点について、日米韓では、通信衛星は見せかけで、実体はテポドン2号の性能テストというのが大方の見方だ。


・北朝鮮が狙うのはテポドン2号の性能テスト

 北朝鮮が実施した過去2回の大型ロケット試射のうち、1回目は1998年の8月31日だった。予告なしに打ち上げたあと、北朝鮮は人工衛星「光明星1号」を軌道に乗せたと発表した。米情報機関は、この大型ロケットをテポドン1号と命名して追跡調査。その結果、テポドン1号の1段目と2段目のブースターは予定どおり作動したが、3段目が不調で人工衛星を搭載していたとしても、軌道に乗せることは出来なかった筈だという分析結果を公表した。

 この米国の見方に対し、北朝鮮は衛星の打ち上げは完全な成功だった主張。衛星が宇宙から故金日成主席と金正日総書記を称える歌を送信していると発表した。このため、米はじめ各国がその電波を探したが、見つからなかった。しかし、北朝鮮は受信を続けていると主張、打ち上げから1ヶ月余り過ぎた10月3日には、衛星がピョンヤンの上空を通過、それを多くの市民が目撃したと伝えた。それから8年後の06年7月、テポドン2号の打ち上げ実験をしたが、発射後40秒余りで爆発、失敗した。

 北朝鮮はこれら実験と並行して核開発も推進、06年10月に核実験に成功した。こうした動きから見て、北朝鮮が核とテポドンを一体化して核ミサイルの製造を目指しているとの見方が強まった。その見方からすれば、現在は核弾頭の実験に成功したが、運搬手段の実験に失敗した段階ということになる。今回、北朝鮮が予告した通信衛星の打ち上げは、この失敗した運搬手段の実験をもう一度やり直すためで、通信衛星を装うのは制裁を免れるための偽装と疑われるのだ。


・舞台裏で中国の影響力強まる

 この北朝鮮の動きに対し、関係国の足並みが揃わない。日米韓3国は、テポドンがコースをはずれて領域内に迷い込めばミサイル防衛で撃ち落すと強硬だ。中でも、日本はテポドン2号が予告どおり飛んでも、日本上空を通過し、1段目のブースターが秋田沖100キロ余りの海上に落下する。それに、北朝鮮が昨年夏、拉致被害者の再調査を約束しながら、反故にしたという不満もあり、世論の反発は強い。北朝鮮が打ち上げを強行すれば、単独でも制裁を強化する構えだ。

 だが、中国やロシアは北朝鮮が打ち上げるのが予告どおりテスト用の通信衛星だった場合、制裁はできないという立場をとっている。日米韓3国はたとえ通信衛星の打ち上げでも、06年の国連安保理の決議に違反するとの立場で、国連安保理に何らの決議をするよう提案する予定だ。しかし、中国は、制裁決議はもちろん、非難決議にも賛成しないという姿勢を明らかにしているという。安保理常任理国の中国が賛成しなければ、国連決議は成立しないことになる。

 中国は17日から北朝鮮の金英逸首相を北京に招き、温家宝首相と胡錦濤国家主席が相次いで会談した。会談の詳しい内容は明らかになっていないが、中国側は直接衛星打ち上げに触れず、ただ、現在の混乱に懸念を表明したという。また、一部には、中国は早い時期に金正日総書記が訪中するよう要請したとの情報もある。オバマ政権が、登場して日が浅く、米朝関係が足踏みしている時である。今後の国連安保理の対応をはじめ、中国が今後の展開の鍵を握ることになりそうだ。


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