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米経済は甦るか
持田直武 国際ニュース分析

2009年3月15日 持田直武

米の景気後退が依然続いている。GDP(国内総生産)は今年度第1・四半期、年率換算で−5.3%下落し、通年の成長率も−2.6%になるとの予想だ。景気回復は今年度後半か、来年度。その時、米経済は世界の主導的立場を取り戻せるのか。オバマ大統領に対する歴史的評価が懸かっている。


・今年度成長率は大恐慌以来の最低水準

 今回の不況が07年に始まってすでに15ヶ月。米民間調査会社ブルーチップ・エコノミック・インディケーターズが10日発表した調査結果によれば、GDP成長率は今年度(09年度)年率で−2.6%になるとの予想だ。1ヶ月前の予想では、−1.9%だったが、この予想を大幅に上回って悪化する見通しだ。同社が全米のエコノミスト51人を対象に調査した結果である。それによれば、09年度第1・四半期以降の予想成長率は次のようになる。

  年度           GDP予想成長率
  09年度 第1・四半期   −5.3%
       第2・四半期  −2.0%
       第3・四半期  +0.5%
       第4・四半期  +1.8%
  09年度 通年      −2.6%
  10年度 第1・四半期  +2.3%
	

 今年度(09年度)第1・四半期のGDP成長率は上記のように−5.3%と大幅に落ち込む。第3四半期からは、消費の拡大や住宅部門への投資が上向き、成長率も+0.5%とようやくプラスに転ずるとの予想だが、それでも09年度の成長率は通年で−2.6%。大恐慌以後では最大級の下落となる。景気が本格的に回復するのは10年度に入ってからで、10年度第1・四半期が+2.3%。その後は年末まで年率3.1%前後で推移すると予想している。


・株価が底を打つのは第2・四半期か第3・四半期

 GDP成長率がプラスに転じても、雇用状況は並行して回復しない。今年2月時点の失業率は8.1%。今回の景気後退が起きてからの15ヶ月間で、すでに438万人分の雇用が失われた。上記ブルーチップ社の調査結果は、今後も失業率は上昇して今年末の予想値は8.6%。さらに10年度中に9.1%に上昇すると予測している。AP通信は格付け会社ムーディーズの予測として、失業率が景気後退前の5%台に戻るのは13年度になってからと伝えている。

 もう1つの景気指数である株価も大幅に落ち込み、まだ底を打ったとは言えない。景気後退前の07年10月9日、ダウは1万4.164ドルの最高値を付けた。それから1年5ヶ月経った今年3月、半値にも満たない6,500ドル台に下落した。先週4日連続の値上がりで、7,000ドル台に戻したが、底を打ったとの見方はまだない。AP通信は証券会社のアナリストの話として「失業率が悪化すれば、ダウは6,000ドル台にまた下がる」との予測を伝えた。

 一般的に株価が底を打つのは、景気が上向く4ヶ月ほど前、そして失業率がピークとなる9ヶ月前という見方がある。景気が上向くには、銀行の貸し出しが増加、雇用も上向き、一般の消費にも回復の兆しが出るなど条件が揃わなければならない。こうした兆しが出てくれば、株価は底を打って上昇に転じ、続いて景気も回復すると言える。AP通信は10日、市場のアナリストは、米の株価が底を打つのは今年の第2四半期、または第3・四半期と見ていると伝えた。


・オバマ政権は世界経済の主導権を維持できるか

 オバマ大統領は米経済の再生戦略として、大きな政府路線を選択した。政府が大規模な財政出動を背景に経済に介入する政策で、ルーズベルト大統領が大恐慌の経済混乱を収拾するために実施したニューディール政策と同系の路線である。オバマ大統領はこの政策に基づいて、金融機関や住宅市場、自動車産業などに公的資金を大規模に投入、政府主導で経済再生をはかっている。いわば、米経済の特徴である市場主義を棚上げして、社会主義の計画経済を持ち込んだに等しい。

 計画が順調に実施できれば、再生も計画どおり進むと考えられるが、派生する課題も多い。まず、公的資金を注ぎ込む結果、厖大な財政赤字が確実に出る。米連邦政府は現在すでにGDPの約3分の2に相当する10兆ドル超の累積赤字を抱えているが、今後さらに倍増することもあり得る状況だ。金利の高騰や、ドル安の不安が高まる恐れも否定できない。また、赤字累積の結果、国債発行高も増加、大量に購入する中国や日本の意向を無視できなくなるとの見方もある。

 とは言え、オバマ政権の経済再生策は無難に滑り出したようだ。同政権の経済政策責任者サマーズ国家経済会議委員長は13日の講演で「消費動向に良い兆しが出ている」と語った。また、経営破綻の懸念があるバンク・オブ・アメリカも「1月と2月黒字を確保し、政府の追加支援は必要ない」と社内報で明らかにした。いずれにせよ、不況はいずれ終息する。その時、米経済は世界の主導的立場を取り戻せるのか。そこに、オバマ大統領の歴史的評価が懸かることになる。


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