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北朝鮮の後継体制づくり
持田直武 国際ニュース分析

2009年6月14日 持田直武

金正日総書記が後継体制づくりを急いでいるとの見方が強まっている。後継者に三男の正雲氏を指名。補佐役に義弟の張成沢氏や呉克烈大将を抜擢した。核実験やミサイル発射を繰り返すのも、核武装した北朝鮮を正雲氏に残すためだという。国連安保理決議はこの動きを止められるのか。


・権力世襲のための条件づくり

 金正日総書記が三男の正雲氏を後継者に指名したという噂はこれまでにも流れた。しかし、北朝鮮は沈黙を守り、噂は消えて行った。だが、今回は消えない。韓国では、情報院が6月1日、「正雲氏が後継者に指名されたことを示す確実な情報を掴んだ」と議会の情報委員会所属議員に報告。次いで、柳明桓外交通商相も3日、韓国の毎日経済新聞とのインタビューで「米国や日本もすでに事実関係を把握している」と発言。今回の情報に重みを付けることになった。

 だが、米国内には慎重な見方もある。クリントン国務長官は7日のABCテレビで「後継者については情報を検討中」と答え、これ以上の深入りはしなかった。3日のニューヨーク・タイムズ(電子版)は複数の米情報当局者の話として「北朝鮮では、軍部から金正日総書記の長男、正男氏に至るまで、誰もが正雲氏の後継計画を覆す陰謀を企てかねない」と伝えた。クリントン長官が深入りを避けたのは、こうした米情報当局者の判断があったためと思われる。

 金正日総書記が後継者を指名したかどうかは別にして、後継体制づくりを始めたことは明らかだった。その1つが、4月の最高人民会議で同総書記の義弟、張成沢氏が国防委員に就任。また、同総書記の最側近といわれる呉克烈大将が国防委員会副委員長に昇格したことだ。若い正雲氏が後継者になった場合、この2人が後見人として支えるという構想だ。そして、金正日総書記はもう1つ、北朝鮮を核武装して後継者に引き渡すことを目指していることも間違いない。


・核武装した強盛大国を世襲する

 北朝鮮は故金日成主席の生誕100年にあたる2012年までに「社会主義の強盛大国」を築く目標を掲げている。また、金正日総書記が、核弾頭搭載の中長距離ミサイル保有を目指していることも知られている。ミサイル開発は、故金日成主席が第二の朝鮮戦争を防ぐためとして、開発の基礎を設定。金正日総書記がそれを引き継いで開発を推進した。金正日総書記はこの2つの計画を合体、北朝鮮を核ミサイルで武装した強盛大国として後継者に引き継ぐ計画とみられるのだ。

 5月25日の核実験は、金正日総書記がこの計画達成のため実施したという見方が多い。27日のニューヨーク・タイムズによれば、米政府高官は「今回の核実験は金一族の支配を次世代に引き継ぐため実施したと考えるべきだ」とコメントした。北朝鮮はこれまで核やミサイル開発については、米との交渉を有利にするため、あるいは政治的取引の対象として、場合によっては放棄する姿勢も見せた。しかし、米政府高官は今回の核実験やミサイル発射はまったく違うと捉えている。

 この北朝鮮の姿勢の変化は昨年夏、金正日総書記が循環器系の病変に襲われたと伝えられたあと顕著になった。北朝鮮のメディアは、病後の金正日総書記が地方に出向いて現地指導する姿を頻繁に報道。その一方で、北朝鮮政府は韓国と取り決めた南北基本合意の破棄を宣言。同時に、6か国協議から離脱して、核実験やミサイル発射など挑発行為を続けている。いずれも、国際社会の緊張を煽って国内の意思統一を図り、同時に核ミサイルの完成を目指す動きと解釈できるのだ。


・国連決議は北朝鮮の核保有を阻止できるか

 この状況下、国連安保理が12日、新たな制裁決議を全会一致で採択した。北朝鮮の核とミサイル開発を阻止するため、北朝鮮に出入りする貨物検査と金融制裁、武器の輸出入禁止の3つが柱。中でも、貨物検査の項目では、疑わしい貨物を運ぶ船舶に対して条件付きだが臨検を認めたこと。また、北朝鮮の大きな資金源だった武器輸出についても、これまでは大型兵器だけだったが、これを全面禁止にするなど、過去の国連決議とは比較できないほど強力な内容となった。

 これに対し、北朝鮮は13日の外務省声明で、安保理決議を「米国主導の国際的圧迫攻勢」として拒否。その上で、核放棄をせず、ウラン濃縮を開始すると宣言。核兵器と濃縮ウランを今後製造し続ける決意を表明した。北朝鮮が核兵器を保有し続けることは、金正日総書記が描く「核武装した強盛大国」を後継者に引き継ぐ上で必須の条件である。今回の外務省声明は、北朝鮮がこれまで掲げてきた朝鮮半島の非核化の目標を取り下げ、初めて核保有を宣言したことにも注目しなければならない。

 問題は、国連安保理がこの北朝鮮の動きを阻止できるかである。今回の安保理決議は過去の決議に較べれば強力な内容だが、軍事面の選択肢がなく、強制力に乏しい。しかも、北朝鮮は核放棄をしないという強い姿勢に変身した。今後も、金正日総書記は後継者に核武装した北朝鮮を引き渡すため、核実験やミサイル発射を続けるに違いない。これに対し、国連安保理はまた新たな決議をするという悪循環を繰り返すのか。日本はじめ、国際社会は大きな課題を抱えることになった。


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