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中国覇権外交の拡大(3)朝鮮半島政策
持田直武 国際ニュース分析

2010年12月12日 持田直武

朝鮮半島情勢の緊迫化と並行して、中国が北朝鮮を擁護する姿勢を強めている。習近平国家副主席が「朝鮮戦争以来の血盟の友誼を忘れない」と強調。中国軍幹部は北朝鮮を米軍に対する緩衝地帯として維持する考えを隠さない。北朝鮮の核保有についても、中国は現状維持に傾いているとの見方が強い。


・中朝の血盟の友誼を忘れない

 中国が北朝鮮擁護を強める好例が、朝鮮戦争以来の血盟の友誼の強調だ。今年は中国義勇軍の参戦60周年である。両国は10月25日盛大な記念式典を挙行した。北京では、習近平国家副主席が義勇軍兵士の集会に出席し、「中国は北朝鮮との血盟の友誼を決して忘れない」と強調。中国義勇軍の参戦について「朝鮮戦争は初め南北間の内戦だったが、米帝国主義勢力が介入、米軍が38度線を越えたため中国はやむなく参戦した」と述べ、参戦は侵略から北朝鮮を守る正義の戦いだったと強調した。

 朝鮮戦争については、西側が北朝鮮の南進説、共産側が韓国軍の北進説を主張して対立が続いた。しかし、冷戦後公開されたソ連側の秘密資料によれば、北朝鮮の金日成首相が南進を計画、ソ連のスターリン書記長と中国の毛沢東主席が了承し、中国軍の参戦も事前に決まっていた。西側ではこれが定説となったが、習近平副主席は中国の参戦は米帝勢力の北進から北朝鮮を守った正義の戦いと強調。中国外務省の馬朝旭報道局長も同副主席の発言から3日後の会見で「これが中国政府の定説」と釘をさした。

 西側世界で囁かれる北朝鮮崩壊説に対し、中国が牽制球を投げたのだ。内部告発サイトWikiLeaksによれば、米韓の外交当局者も今年2月ソウルの会合で金正日体制崩壊後の検討をした。同席した米のスチーブンス駐韓大使は2月17日付け国務省あて公電で、「韓国の千英宇外交通商次官が北朝鮮は金総書記の死後2−3年以内に崩壊する」と予測したと伝えた。習近平副主席が「北朝鮮との血盟関係を忘れない」と強調したのは、そのような場合、中国は崩壊を座視しないとの意思表示だろう。


・中国にとって北朝鮮は重要な緩衝地帯

 中国は冷戦時代、北朝鮮関係を「唇亡歯寒」の関係に喩えていた。中朝はお互いに助け合う関係にあり、一方が亡びれば、もう一方も危なくなるという意味だ。最近も、北朝鮮は中国と米軍の間の緩衝地帯として依然重要と見做す意見が支配的だ。中国海軍情報化専門家委員会主任の尹卓少将は人民日報系の英字紙グローバル・タイムズのインタビューに答え、「最近は唇亡歯寒のような喩えは使わないが、北朝鮮は中国にとって緩衝地帯として依然欠くことのできない存在だ」と主張した。

 尹卓少将はその理由として、「中国東北地方が経済発展するには朝鮮半島の平和と安定が不可欠の条件となる。そのためには朝鮮半島の経済や外交、安全保障面の安定した環境の維持が必要だ」と主張、北朝鮮を緩衝地帯として維持することの意義を強調した。そのうえで、尹卓少将は「朝鮮戦争後、米軍は38度線の南に留まり、北朝鮮が緩衝地帯になったが、これは中国の安全保障にとってもよいことだった」と述べ、米も緩衝地帯とすることに一役買ったとの見方を示した。

問題は北朝鮮を緩衝地帯として維持した場合、南北の統一はその間不可能になることだ。尹卓少将はこれについて、「米国は統一を心から支持することはない」と主張した。朝鮮半島統一が実現すれば、米軍の韓国駐留は困難になり、アジアに於ける米のプレゼンスが重みを失うという理由からだ。尹卓少将は中国海軍の広報担当としてしばしばメディアに登場、軍事問題を中心に中国政府の見解を解説している。グローバル・タイムズとのインタビュー内容も中国政府の見解とみて間違いない。


・中国は北朝鮮の崩壊よりも核保有を選択

 中国の期待通り北朝鮮を緩衝地帯として維持した場合も、朝鮮半島非核化の課題は残る。その鍵を握るのは、6カ国協議の議長国として非核化を推進し、北朝鮮に影響力を行使できる中国だが、最近の動きには疑問も出ている。米のスチーブンス駐韓大使は2月17日付けの公電で、韓国の千英宇外交通商次官が「中国は心底では非核化を望んでいるが、北朝鮮が受け容れなければ現状維持で妥協するのではないか」と発言したと報告した。中国が北朝鮮の核保有を認めるのではないかと疑っているのだ。

 北朝鮮は05年9月の6カ国協議共同声明で「すべての核兵器と核計画を放棄し朝鮮半島を非核化する」ことに合意した。だが、その後2回も核実験を繰り返し、すでに数個のプルトニウム核爆弾を保有。最近はウラン核爆弾の原料になるウラン濃縮にも着手したことを公表した。共同声明で合意した核放棄についても、北朝鮮外務省は4月21日の備忘録で、米のオバマ大統領が主唱する「核兵器の無い世界」が実現する時、北朝鮮も核放棄をすると主張している。

 北朝鮮は金正日総書記の後継者に3男正恩氏を決め、後継体制の確立を急いでいる。最近の動きをみれば、核兵器が新体制を支える柱となっているとみて間違いない。中国がこの北朝鮮に対し核放棄を説得するのか。WikiLeaksによれば、シンガポールの建国の父リー・クアンユー顧問相は09年5月米のスタインバーグ国務副長官と会談した際、「中国は北朝鮮の崩壊も核保有も望んでいないが、選択を迫られれば、国家崩壊よりも核保有のほうがましだと考えている」と答えたという。中国外交の核心を捉えた含蓄に富む言葉だ。


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