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アフガニスタンの正念場
持田直武 国際ニュース分析

2010年3月7日 持田直武

米軍がアフガニスタン第二の都市カンダハル攻略を目指す新作戦を始める。同市は武装勢力タリバンの根拠地で、同勢力の最高指導者オマル師の出身地。同市に対する新作戦は、オバマ政権がアフガン作戦の重点を従来のビン・ラディン追跡からタリバン掃討へと転換したことを示している。


・アフガン出口作戦の試金石

 ブッシュ政権は01年、9・11テロ事件の1ヵ月後、米軍をアフガニスタンに派遣した。同事件の首謀者ビン・ラディンの捕捉が目的だった。それから8年余、オバマ大統領はこの目的を武装勢力タリバンの掃討に変えた。米軍が近く開始するカンダハル市攻略作戦はその新作戦の天王山になると見られている。同市はタリバンの最高指導者オマル師の出身地で同勢力の根拠地。同作戦の成否は、オバマ大統領が約束した来年7月からの米軍撤退の行方を左右しかねないからだ。

 米軍当局はカンダハル作戦について何も公表していない。しかし、ワシントン・ポストは2月27日、米政権高官の話として同作戦の概要を伝えた。それによれば、同作戦の開始は晩春から初夏頃。参加部隊はオバマ大統領が昨年12月に決定した3万人の米軍増派部隊の一部とアフガン治安部隊。計画では同市内に布陣するタリバンの兵力を駆逐したあと、カルザイ政権派のアフガン人が行政と治安活動を掌握して、タリバン武装勢力が戻ってくるのを防ぐという。

 米軍はこのカンダハル作戦に先立って2月中旬から2週間、近くのマルジャの町でタリバン掃討作戦を実施した。いわばカンダハル作戦の前哨戦で、投入兵力は米軍とアフガン治安部隊合わせて1万人余り。約2週間で町に布陣していたタリバンを駆逐し、町役場にカルザイ政権の旗を立てた。そして、タリバンが去った後の町の治安と行政をカルザイ政権が引き継いだ。米軍は同様の作戦をカンダハルはじめ各地に拡大してタリバンの支配体制を一掃する計画だという。


・鍵となるタリバンとの和解

 これら平定作戦と並行して、タリバンと和解を目指す動きも出ている。1つはカルザイ大統領が主導するタリバン指導層との和解案。同大統領は1月28日ロンドンで開かれたアフガニスタン支援国会議でこれを提案した。近くアフガニスタンの伝統的意思決定機関ロヤ・ジルガを開催し、タリバン指導層を招く計画だという。1月29日のワシントン・ポストによれば、同大統領は08年暮からサウジアラビアの仲介でこの構想を進め、すでに数回タリバン幹部と接触した。

 もう1つの動きは、オバマ政権が進めるタリバン兵士に帰順を促す動きだ。米軍とアフガン治安部隊が軍事作戦でタリバンの支配体制を一掃する一方で、帰順するタリバン兵士の社会復帰を支援する。アフガニスタン政府の集計では、昨年末までに8000人のタリバン兵士が武器を捨てて帰順したという。ロンドンの支援国会議では、国際社会がこれら帰順兵士の社会復帰などに1億5000万ドル拠出することで合意、そのうち日本が4000万ドル負担すると約束した。

 だが、このタリバンとの和解問題では、カルザイ大統領とオバマ政権は基本的な点でまだ方針が一致していない。和解する相手も、カルザイ大統領はタリバンの指導層が対象と主張、最高指導者オマル師も含めているように見える。しかし、オバマ政権が考える和解の対象はタリバンの中下層の兵士で、ビン・ラディンを匿ったオマル師は和解の対象外だ。カルザイ大統領がロンドンの支援国会議でタリバン指導層との和解を提案した時、米側は寝耳に水の驚きだったという。


・米作戦に協力するパキスタン軍の思惑

 タリバン掃討作戦でもう1つ重要なのは隣のパキスタン軍の動きだ。タリバンの幹部のほとんどはパキスタン領内に潜み、パキスタン軍のISI(合同情報部)と密かに接触していると見られるからだ。しかし、最近このISIの動きに変化が起きている。今年1月から3月初めにかけて、ISIは米CIA(中央情報局)と協力し、タリバンのナンバー2と言われるアブドル・G・バルダラ師など幹部6人の身柄を拘束した。いずれもISIが幹部の潜伏地の情報をCIAに教えた結果だった。

 パキスタン軍はこのほか、昨年8月にはパキスタン領内のタリバン支援勢力パキスタン・タリバンのベイツラ・メフスード司令官の隠れ家を米軍に通報し、米軍が無人偵察機ドローンを使って殺害した。また、今年2月には、同司令官の後任ハキムラ・メフスード司令官も同様な合同作戦で殺害した。パキスタン軍がこのような動きをするのは、米軍が8年前アフガニスタンに進行していらい初めてで、オバマ政権内にはその真意をめぐって様々な推測が出ている。

 ニューヨーク・タイムズは2月24日(電子版)、アフガニスタン駐留米軍高官の話として「ISIはタリバンの力を削いでカルザイ政権と交渉せざるを得ないよう工作している」と語ったと伝えた。ISIの狙いは、タリバンがカルザイ政権に参加せざるを得ないよう仕向け、政権内でパキスタンの利益を代弁する役割をさせることにあるという。背景には、パキスタンの仇敵インドが最近アフガニスタンに進出、これにパキスタンが焦りを感じている状況がある。


・パキスタンがビン・ラディンを匿う理由

 オバマ大統領は次のアフガニスタン戦略見直し会議を12月に開くと決めている。この会議で、3万人増派以後の戦況を検討し、今後の見通しを立てる。その際の焦点は、同大統領が増派の際に約束した11年7月以降の戦闘部隊撤退を実施することができるかどうかだ。だが、現状では極めて厳しいという見方が多い。まず、アフガン治安部隊の育成が間に合わないのは間違いない。カルザイ大統領はBBC放送のインタビューで治安部隊への権限委譲は5年後と発言している。

 また、タリバンとの和解についても困難を指摘する意見が多い。タリバン指導部は公式には「外国軍隊が撤退するまで交渉には応じない」とのこれまでの主張を変えていない。また、タリバン兵士の帰順についても、カルザイ政権は社会復帰の資金を与える構想を掲げているが、タリバン指導部は「金銭の誘惑に乗ってはならない」と兵士たちを厳しく諫めている。しかも、現状では社会復帰に必要な職場がほとんどないなどの問題もあり、帰順政策も効果は限定的との見方が多い。

 12月の戦略見直し会議までにこれらの状況が改善しなければ、米軍の撤退は難しくなるだろう。パキスタン軍はこれを歓迎しているという見方が多い。米軍の存在がインドに対する防波堤になると見るからだ。歴史家スチーブン・タナー氏が3月3日CNNに寄稿したコラムによれば、ISIは同じ理由で実はビン・ラディンを保護しているという。オバマ政権はビン・ラディンの捕捉を諦めたが、彼がパキスタンにいる限り、米国はパキスタンに軍事援助を続けるからだというである。


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