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アフガニスタン戦争の正念場
持田直武 国際ニュース分析

2010年6月27日 持田直武

オバマ大統領が駐留米軍のマクリスタル司令官の更迭を決めた。大統領が約束した米軍の撤退開始まであと1年。同司令官は撤退への出口戦略を推進するキーパーソンだった。更迭の背景には、オバマ政権を支える文民幹部と軍幹部の米軍撤退期日をめぐる確執がある。


・出口戦略をめぐる軍幹部と文民の対立

オバマ大統領は昨年12月、アフガニスタン駐留米軍の3万人増派と、来年7月から撤退開始の2つを決めた。増派してアフガニスタン国内の治安回復を実現し、撤退への道筋をつけるのが狙いだった。この出口戦略の構想をまとめたのが、テロ戦争の専門家として頭角を現したマクリスタル将軍だった。ゲーツ国防長官が強く推薦したこともあって、オバマ大統領は09年5月同将軍をアフガニスタン駐留の米軍司令官に任命し、出口戦略の構想立案をまかせた。

それから3ヶ月後の8月、マクリスタル司令官は4万人の増派を中心とする出口戦略構想をオバマ大統領に提出した。しかし、政権内の反応は芳しくなかった。バイデン副大統領は増派ではなく削減を主張、米軍の作戦をタリバン掃討から当初のビン・ラディン捕捉に戻すべきだと主張した。また、アフガニスタン駐在のアイケンベリー大使も反対し、腐敗したカルザイ政権を守る必要はないと主張した。主要閣僚で増派を支持したのは、ゲーツ国防長官とクリントン国務長官だけだった。

今回、マクリスタル司令官更迭の原因となった政権幹部を批判する発言はこの時の対立が背景になっている。問題の発言を報じたローリング・ストーン誌によれば、同司令官は同誌記者の前で「オバマ大統領が増派を決定するまで時間がかかりすぎた」と不満を表明したほか、バイデン副大統領については「誰だい、そいつは」と露骨に嘲った。また、アイケンベリー大使についても「裏切り者」呼ばわりしたという。実は、こうした政権内の対立と相克はこの件だけではなかった。


・バイデン副大統領は早期の大規模撤退を主張

 マクリスタル司令官が更迭される4日前の日曜日、TV各社は米軍撤退についてバイデン副大統領の発言を一斉に取り上げた。同副大統領が数日前「来年7月、大部隊がアフガニスタンから引き揚げる。賭けてもよい」と友人の作家に語ったからだ。これに対し、ゲーツ国防長官はフォックスTVのインタビューで「そんなことは決まっていない」と反論した。しかし、ABCに出演したエマヌエル大統領主席補佐官は「撤退は戦況次第」と答え、バイデン副大統領の発言を否定しなかった。

実は、この対立もオバマ大統領が増派と7月からの撤退を組み合わせた出口戦略を決めた時から続いてきた。バイデン副大統領や議会の民主党幹部は撤退期日として7月を重視するのに対し、ゲーツ国防相はじめ軍幹部は撤退にあたって軍の意見を重視し、7月という期限にこだわるべきではないとの立場を取っている。軍幹部としては戦況を無視して撤退はできない。これに対し、副大統領はじめ民主党幹部が撤退期限にこだわるのは国内の反戦世論を無視できないからだ。

ワシントン・ポストの世論調査ではアフガニスタン戦争反対は53%と過半数を超える。民主党幹部は11月の中間選挙を控え、この反戦世論を無視できない。オバマ大統領も12年の大統領再選を目指す上で、来年7月からの撤退開始は必須の条件となる。反戦の世論は駐留が長引けばますます高まるのは間違いない。同大統領がそれを抑えて、再選を確保するには来年7月からの米軍撤退を約束どおり実施し、戦争終結への国民の期待を満たすことが必要になる。


・アフガニスタンは米の期待どおりに動かず

ところが、アフガニスタンの状況はオバマ大統領が望む方向を動いていない。国連の潘基文事務総長が19日公開した報告書によれば、今年1月から4月までの4ヶ月間、道路脇で地雷が爆発した事件が昨年に較べ94%増。自爆テロも1ヶ月に2件と倍増。武装勢力が民間人を殺害する事件も昨年に較べて45%も増えた。米上院情報委員会によれば、タリバンはアフガニスタン国土の40%を完全支配するか、半支配下に置き、今後さらに支配地を拡大する勢いだという。

カルザイ大統領はタリバンとの和平に積極的だが、オバマ政権と呼吸が合っているわけではない。同大統領は6月2日から伝統の集会ジルガを開催、タリバンとの和平を目指す16項目の決議をした。その中の1つがタリバン指導者を国連制裁のテロリストのリストからはずし、制裁を解除することだった。この中には、タリバンの最高指導者オマール師も含まれている。同師は01年の9・11テロ事件直後、同事件の犯人ビン・ラディンを匿い、米軍進攻を招いた時の最高指導者だ。

オバマ政権はタリバンとの和平は歓迎している。しかし、それはタリバンの兵士が帰順することが条件で、ビン・ラディンのアルカイダと関係がある指導者は対象外との方針だ。そんな中の22日、国連安保理の代表団がカブールを訪問、カルザイ大統領と面会した。この席で、同大統領はタリバン指導者を国連の制裁リストからはずすよう要請した。アフガニスタン大統領府は「要請したのはアルカイダと関係のないタリバン指導者だけだ」と語ったが、名簿は公開しなかった。


・アフガニスタンに懸かるオバマ大統領の命運

 オバマ大統領が政権の座に就いてから1年半、まだ目立つ実績はない。核のない世界を提唱して注目をあびているが、まだ実績とは言えない。こんな状況を反映、支持率も就任時の77%から50%そこそこに滞留中だ。この上、アフガニスタン情勢が混迷すれば、12年の大統領再選の見込みはなくなるに違いない。15日のワシントン・ポスト紙はそんなオバマ大統領に較べ、クリントン国務長官が好感度60%台をコンスタントに維持し、政権の顔になっていると紹介している。

 さらに同紙は18日、「オバマ大統領は12年の大統領再選にあたってクリントン国務長官を副大統領候補に抜擢するべきだ」と主張する評論を掲載した。オバマ大統領が副大統領候補にすれば、クリントン長官はそのあと16年の大統領選挙にも立候補し、米国初の女性大統領になるチャンスが生まれるというのだ。アフガニスタンをはじめとする政策の不人気をクリントン長官の人気で補えと主張しているのと同じだ。オバマ大統領にとっては苦しい展開になってきた。


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