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国連安保理の限界
持田直武 国際ニュース分析

2010年7月11日 持田直武

国連安保理が韓国の哨戒艦事件に関する議長声明を出した。中国の主張に配慮し、事件の責任者の名指しを避け、非難も控え、懸念だけを表明した。中国の温家宝首相は5月の日韓訪問で「誰かをかばうようなことはしない」と大見得を切ったが、結局のところ北朝鮮をかばう結果になった。


・中国の主張が大勢を動かす

 韓国は6月4日に哨戒艦沈没事件を国連安保理に付託した。その付託にあたって、韓国は「沈没は北朝鮮の魚雷攻撃の結果」と断定、安保理が事態の深刻さに相応する措置を取るよう要請した。韓国としては、安保理が北朝鮮の攻撃を平和への脅威として強く糾弾することを期待していた。それから1ヶ月余り、安保理は9日議長声明を採択したが、その内容は韓国の期待とはかけ離れたものになった。その要旨は次のようになっている。

 △ 哨戒艦沈没につながった攻撃に遺憾の意を表明する。
 △ 韓国合同調査団が沈没の原因は北朝鮮と断定した点に留意し、懸念を表明する。
 △ 事件とは無関係と主張する北朝鮮など関係国の反応に留意する。
 △ 沈没を引き起こした攻撃を非難する。

 韓国は公式にはこの議長声明を歓迎しているが、内心不満なのは間違いない。声明は、攻撃が起きたことに遺憾の意を表明しながらも、誰が攻撃したかについては、韓国と北朝鮮双方の主張を併記、どちらが正しいとも言っていない。北朝鮮をかばう中国の主張が功を奏した結果だ。この議長声明をまとめるまでの1ヶ月間、安保理各国は水面下で交渉を続けたが、韓国の中央日報(電子版)が6日外交消息筋の話として伝えたところによれば、中国はこの交渉の過程で次の3点に強くこだわったという。

 1、安保理はこの問題に関する決議(resolution)を控える。
 2、沈没を引き起こした当事者として北朝鮮を名指ししない。
 3、攻撃(attack)と言わず、偶発事件(incident)と表現する。

 議長声明は結果として、これら中国の主張をほぼ満たすことになった。安保理が取る措置には、拘束力を持つ決議があるほか、議長声明や報道陣向け声明があるが、今回安保理は中国の主張に配慮して最初から決議を避け、拘束力のない議長声明を出す方針をとった。その議長声明も上記のように沈没を引き起こした当事者として北朝鮮を名指ししなかった。しかも、北朝鮮が「事件と無関係」と主張していることも付け加えて、北朝鮮の立場にも配慮する内容となった。


・中国が北朝鮮を露骨にかばう理由

 中国はこうした主張をする理由として「朝鮮半島の平和と安定を守るため」と説明している。だが、多くの国は北朝鮮をかばう動きとしか見ない。オバマ大統領は6月26日、カナダで胡錦濤国家主席と会談した際、「北朝鮮に明白なメッセージを送る必要がある」と強調、中国の協力を求めたという。胡錦濤主席がどう答えたか明らかにされていないが、オバマ大統領には不満な答えだったに違いない。同大統領は翌27日の記者会見で「中国は見て見ぬふりをしている」と厳しく批判した。

その翌日の28日、胡錦濤主席は韓国の李明博大統領とも会談した。両国が発表した会談記録によれば、李大統領が「北朝鮮に対する制裁に協力を要請した」のに対し、胡主席は「韓国の立場は十分に理解している。国連安保理の対応過程で緊密に協議したい」と答えた。その上で、胡主席は「中国は朝鮮半島の平和と安定を破壊する如何なる行為にも反対し、糾弾する」と強調したという。中国は韓国の立場を理解するが、同時に北朝鮮をかばうことも重要という立場の表明だ。

温家宝首相は5月末日韓両国を訪問した際、哨戒艦問題で「誰かをかばうようなことはしない」と発言。北朝鮮に一定の距離を置くかのような姿勢をみせた。中国は北朝鮮の去年4月のミサイル実験、5月の2回目核実験の際は、安保理の追加制裁に賛成した。温首相の発言は今回の哨戒艦問題でもこの姿勢を見せるのかとの期待を生んだが、この期待は裏切られた。北朝鮮が武力行使をちらつかせて安保理の協議を牽制したことが、中国の行動を制約したことも間違いない。


・北朝鮮が挑発行為を続けるのはなぜか

 北朝鮮の申善虎国連大使は9日安保理が議長声明を出したあと記者会見した。新華社通信によれば、同大使はこの中で、「我々は哨戒艦事件とは無関係だと最初から主張していた。ところが陰謀が仕組まれ、朝鮮半島がいつ暴発してもおかしくない状況になった。これは現在の休戦体制が如何に不安定なものかを示している。我々は休戦協定を平和協定に換える努力と6カ国協議を通して朝鮮半島の非植民地化を進める努力を今後も続ける」と主張した。

 金正日総書記は5月の訪中で胡錦濤主席と会談した際「哨戒艦事件とは関係ない」と明確に断言したという。中国外務省直属の研究機関、中国国際問題研究所の曲星所長が7日外国メディアの取材に応じて明らかにした。北朝鮮問題では口が堅い中国の政府機関が哨戒艦事件に関する金正日総書記の発言をこのような形で確認するのは初めてである。金正日総書記は、事件が国連安保理で議論を呼ぶことを見越し、中国の支援を期待してはやばやと手を打ったとみられるのだ。

 北朝鮮の狙いは、申善虎大使が記者会見で主張したように現在の休戦協定の不安定さを浮き彫りにすることだ。そして、米に平和協定締結を迫り、あわせて北朝鮮の核保有国としての立場を認めさせることにある。その成否は北朝鮮国内で現在進行中の後継体制づくりの成否にもかかわってくる。しかし、米は平和協定締結の前に北朝鮮の核放棄が先だとの従来からの主張を変えないだろう。その結果、哨戒艦事件のような事態が今後も起きることになるに違いない。


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