メインページへ戻る

米大統領選挙 共和党の候補者選び
持田直武 国際ニュース分析

2011年10月23日 持田直武

オバマ大統領の支持率が低迷し、共和党に追い風が吹いている。共和党内も穏健派のロムニー候補が党内有力者の支持を固めている。だが、党内最大勢力の保守派は同候補の政治姿勢に不満を隠さない。共和党候補がオバマ大統領に勝つには党内保守派の支持が不可欠。ロムニー候補が保守派に食い込めなければ、保守派のペリー候補が共和党大統領候補の指名を獲得することになるだろう。


・共和党は保守派が主導権を握る

 共和党の大統領候補は保守派の支持がなければ当選は難しい。前回08年選挙で落選した共和党大統領候補マケイン上院議員もその例だ。同議員はニックネームが「はぐれ牛」、そのあだ名のとおり共和党保守派に距離を置き、時には民主党と協調することも躊躇しなかった。大統領選挙では、民主党を脱党した穏健派のリーバーマン上院議員を副大統領候補に据える考えだった。保守派が猛反発すると、マケインは一転して超保守派のアラスカ州知事ペイリン女史を副大統領候補に選んだ。だが、保守派の支持は固まらず、マケインは本選挙で民主党のオバマ上院議員に敗れた。

1992年選挙で落選したブッシュ(父)大統領の場合も、敗因は保守派の不満だった。同大統領は88年の大統領選挙で共和党保守派の主張を受け入れ、「増税はしない」と公約した。ところが当選して2年後、連邦予算の赤字を埋めるため増税せざるをえなくなる。当時、米はソ連との冷戦に勝ったが、国内経済は疲弊して失業者が増加、政府予算の累積赤字が4兆ドルに達する危機的状況で、大統領としては増税に踏み切るしかなかった。だが、保守派はこれを許さず、その一部は共和党を脱党して実業家ペロー氏が結成した新党に合流した。その結果、92年11月の本選挙では保守票が政治経験のまったくない実業家大統領候補ペロー氏に大量に流れ、現職のブッシュ(父)大統領は落選。民主党のクリントン候補が当選した。

 今回の大統領選挙も共和党保守派の動きが結果を左右するのは間違いない。ギャラップ世論調査所によれば、共和党の保守派は党員の71%にのぼる。穏健派は24%、リベラル派は4%である。一方、共和党の大統領候補者は現在8人、内訳は保守派が7人、穏健派が1人だ。CNNが17日に発表した世論調査によれば、現在の支持率1位は穏健派のロムニー候補で26%、2位は保守派のケイン候補25%、3位が保守派のペリー候補で13%である。ただし、支持する候補を決めたのは共和党員の3分の1。残りの3分の2はこれから支持する候補を決めるという。事態はまだ流動的だ。


・穏健派ロムニー候補のアキレス腱

 現在支持率1位のロムニー候補の課題は保守派の間に支持を拡げることだ。同候補はマサチューセッツ州知事時代の手堅い行政手腕や大統領候補者討論会での優れた応答ぶりで「オバマ大統領に勝てる候補」として評価が定着。共和党のエスタブリッシュメントや多額献金提供者が次々と支持を表明している。しかし、弱点もある。1つは、保守系の草の根運動ティー・パーティやキリスト教福音派など草の根運動との関係が薄いことだ。福音派の中には同候補がモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)の敬虔な信者であることを嫌う向きもある。草の根の動員力を持つ組織が支持しなければ選挙に勝つことは難しい。

 ロムニー候補のもう1つの不安は医療保険問題の成り行きだ。同候補はマサチューセッツ州知事時代の06年、全米で初めて同州に国民皆保険制度を導入、州の住民が民間の医療保険に加入することを義務付けた。オバマ大統領が昨年制定した医療保険制度はこれがモデルだった。しかし、共和党保守派は法律で保険購入を強制するのは、憲法が定める通商の自由の原則に反するとして撤廃を要求。アトランタの控訴裁判所は今年8月違憲の判決を出した。このため最高裁は来年夏、同制度について違憲かどうか審理する。最高裁判所が違憲判断を出せば、選挙戦の最中だけに影響は大きいに違いない。


・大統領当選を度外視したケイン候補の健闘

 現在支持率2位のケイン候補は5月の立候補以来長い間、支持率一桁の泡沫候補だった。それが10月に入って支持率が急上昇。17日発表のCNN調査ではトップのロムニー候補に1%差まで迫った。保守派がそれまで白羽の矢を立てていたペリー候補を見限り、ケイン候補に乗り換えたためと見られている。同派が白羽の矢を立て換えるのはこれで3人目だ。最初はミネソタ州選出の下院議員バックマン女史、次はペリー候補だったが、2人とも期待はずれに終わった。そこでケイン候補にお鉢が回ってきた。

 ケイン候補は現在支持率こそ高いが、共和党の大統領候補指名を獲得するとは誰も思っていない。同候補は65歳のアフリカ系、海軍の技師として勤務したあと実業界に転進、ピザ・チェーン店ゴッドファーザーズの会長やカンザス・シティ連邦準備銀行の会長などを歴任した。その一方で、ジョージア州のラジオ局で番組ホストを勤め、巧みな話術で人気を集めた。また、政界との関係では96年選挙で共和党のドール大統領候補の選対顧問、2000年選挙では自身が共和党の大統領候補指名争いに立候補したが、短期間で撤退。今回の選挙戦では、所得税と消費税、法人税をすべて9%にするという999政策が唯一の公約。他の候補と違い、選挙運動や献金集めの組織がないに等しいため、運動が長く続くかどうかも疑問がある。


・保守派ペリー候補は復活するか

 ペリー候補は早くから共和党保守派の期待の星と言われていた。テキサス州知事として在職10年、州経済を建て直して雇用を増やしたことが高く評価された。キリスト教福音派やティー・パーティ運動など保守系の草の根の活動家との交流もあった。同候補が8月13日に立候補宣言をすると、一気に支持率トップに躍り出たのも偶然ではなかった。ところが、10月になると支持率は急落。17日のCNN調査では、ロムニー、ケインの2候補に次いで3位に落ちた。原因の1つは、大統領候補討論会での不手際だが、初めての討論会で準備不足だったのは否めない。

 発端は、ペリー候補が立候補宣言をした5日後、ニューハンプシャー州の遊説の時だった。会場から「地球温暖化」に関する質問が出た。同候補は「温暖化説は政治的に歪められている。学者の中には温暖化の危機を誇張し、研究費を騙し取る者もいる。しかし、最近は温暖化説の誤りを正す学者も多くなった」と答えた。ペリー候補の日頃の持論を展開したのだ。それから20日後のカリフォルニア州の討論会で、司会者が突然この問題に言及、同候補に対して「温暖化の誤りを正す学者の名前を聞きたい」と質問した。だが、同候補は答えなかった。司会者がこの問題を取り上げるとは思わず、準備もしていなかったことは明らかだった。

 この討論会では、司会者はペリー候補に質問を集中。同候補がテキサス州知事として小学校高学年の女生徒に子宮頸がんの予防ワクチン摂取を義務付けた問題も取り上げた。ワクチンの強制摂取に対する批判に加え、ワクチンを製造した製薬会社が同候補に5,000ドルの政治献金をしたことも判明したからだ。これに対し、同候補は「わずか5,000ドルでは私を買うことはできない」と答え、会場も息を呑んだ。その後、マスメディアの調査で製薬会社の献金は38万ドルだったことがわかった。メディアの中にはこのニュースに「これでペリー候補は売れたのか?」という見出しを付けて伝えたものもあった。


・共和党保守派は何処に向かうか

 共和党の大統領候補討論会はこのあと4回開催されたが、その都度ペリー候補の支持率は下がった。それに逆比例して保守派ケイン候補の支持率が上昇、調査によってはトップになったものもある。ペリー候補に期待してきた保守派有権者がペリー候補から離れ、ケイン候補に向かったのは明らかだった。だが、保守派がケイン候補を最後まで支持するとは思えない。92年のブッシュ(父)大統領落選の時、保守派の一部は共和党を見限ってペロー氏の新党に合流した。今回もティー・パーティ系の有権者の間には同じような動きが出てくるという見方もある。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2011- Naotake MOCHIDA, All rights reserved.