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シリア情勢緊迫
持田直武 国際ニュース分析

2012年12月8日 持田直武

シリアの内戦が最終段階に入った。首都ダマスカスは反政府勢力が包囲し、アサド大統領は孤立した。窮地を切り抜けるため化学兵器を使うという見方もある。混乱と犠牲を防ぐには何をなすべきか、国際社会が試されている。


・反政府勢力が首都ダマスカスを包囲

 シリアが内戦に突入してから20ヶ月、反政府武装勢力が首都ダマスカスを実質的に包囲した。12月5日のワシントン・ポスト(電子版)によれば、反政府武装勢力は11月末からの攻勢でダマスカス周辺の政府軍拠点を次々と攻略。ダマスカス中心部まで4キロにあるアクラバ国際空港を砲撃の射程内に入れた。同空港はシリアと海外を結ぶ交流の要衝であるだけでなく、アサド政権が海外からの支援物資や軍資金を受け取る最後の窓口と見られていた。

 首都ダマスカスには、アサド大統領と政府軍8万人が布陣している。このうち軍の中核となる士官クラスは2万7000人、その80%はアサド大統領と同じアラウィ派イスラム教徒である。シリアではスンニ派イスラム教徒が70%で多数派、アラウィ派は11%で少数派だが、アサド政権は大統領と同じアラウィ派の士官を抜擢し大統領の警護と指揮命令系統を固めていた。内戦勃発後、スンニ派士官は1800人が脱走したが、アラウィ派士官の脱走はわずか数例で強固な忠誠心を誇っている。

 政府軍は内戦当初は反政府勢力に対し圧倒的に優勢だった。戦況が変わるのは秋に入った頃からだ。反政府勢力が対戦車砲や対空砲など、これまで見られなかった重火器を備え、政府軍に対抗し始めたのだ。11月半ばには、反政府勢力は初めて地対空ミサイルを使って政府軍のヘリコプターを撃墜した。ワシントン・ポストによれば、海外の支援国から携帯型地帯空ミサイル40基が反政府勢力に届いたという。この結果、政府軍のヘリコプターや戦闘機は低空での飛行が困難になり、戦況は一気に反政府勢力側に有利になった。


・アサド大統領はサリンを使うか

 12月に入って戦況は緊迫の度を加えている。12月4日の英紙ガーディアン(電子版)は「シリア内戦の決着をつける戦闘がまもなく始まる」と次のように伝えた。「反政府勢力が地対空ミサイルや政府軍から奪った武器で武装しダマスカスに攻め込んでくる。これに対し、アサド大統領は戦いに勝つ見込みもなく、逃げ出すこともできない窮地に立った」。アサド大統領がこの窮地を切り抜けるためサリンなどの化学兵器を使うのではないかとの疑惑が膨らんだ。

 シリアは化学兵器禁止条約の非加盟国で同兵器を持つことはできる。しかし、アサド政権はこれまで同兵器を保有していないと主張してきた。ところが、最近ニューヨーク・タイムズはじめ米有力メディアが化学兵器に関連したシリアの動きを報じ、関心がたかまった。このため、オバマ大統領は12月3日ワシントンで演説し「化学兵器を使えば重大な結果を招く」と強調。特にアサド大統領を名指して「アサド大統領がそれを使えばその責任を取らなければならない」と異例の警告をした。

 この問題は12月6日、ダブリンで開かれた米のクリントン国務長官とロシアのラブロフ外相、それにブラヒミ国連特別代表の3者会談でも取り上げた。この会談について、ホワイトハウスのカーニー報道官は6日の記者会見で「アサド政権の化学兵器使用を阻止するためロシアと協議した」と説明。さらに「国際社会はこの問題で意見は一致している」と語り、ロシアも化学兵器阻止で意見が一致したことを示唆した。ロシアがシリア問題で米と意見の一致をみたのは初めてだった。


・アサド抜きの後継体制つくりの行方

 ダブリンで開催したクリントン国務長官とラブロフ外相、ブラヒミ国連特別代表の3者会談はアサド後の後継体制つくりの作業を進めることでも大筋で合意した。ブラヒミ代表の説明によれば、具体的には6月にジュネーブで合意した「停戦と挙国一致の移行政府の樹立」を目指し、その工程表を履行することが柱になるとみられる。6月の会議では、移行政府の樹立では合意したが、その中にアサド政権関係者を含めるかどうかをめぐってアサド退陣を主張する欧米とアサド擁護のロシア、中国が対立。合意は履行できないまま棚上げになった。

 今回は反政府勢力が軍事作戦を有利に展開するなど、ジュネーブ合意の際にはなかった新しい要素がある。ロシアが態度を軟化させたとみられることも注目される。しかし、新たな不安もある。反政府勢力の中にアルカイダ系の過激グループが入り込んだとみられることだ。最近の反政府勢力の戦果のうち目ぼしいものの多くが過激派の挙げた戦果という見方もある。オバマ政権がこの問題にどう対応するか、新たな混乱の芽を残さず後継体制つくりが出来るかが課題となる。


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