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米大統領選挙 草の根運動の実力
持田直武 国際ニュース分析

2012年7月1日 持田直武

シリアのアサド大統領と反体制派の対立が内戦に発展した。国際社会も、アサド大統領を支援する中露と反体制派を支援する西側諸国に分裂。双方がそれぞれ支援する側に武器を供給している。チュニジアから始まったアラブの春が、シリアでは冷戦時代の代理戦争を蘇らせたかのようだ。


・米CIAが武器供給で水面下の役割

アラブの春は民主化への期待という意味で春だった。その春が去年1月シリアを訪れた。最初はアサド大統領の独裁体制に抗議する民衆の穏やかなデモだったが、同大統領は軍隊を出動させ実弾で鎮圧した。これに抗議してデモ参加者の1人が1月26日ガソリンをかぶって焼身自殺すると、状況は一変した。デモがシリア各地に拡大して参加者も増加、一部は過激化して武力衝突に発展した。政府軍から脱走した兵士がこれに加わり、政府軍と交戦する内戦状態となった。

戦闘の激化と並行して反政府勢力の組織化が進んだ。6月21日付けのニューヨーク・タイムズ(電子版)によれば、武装集団は数人の小集団から200人規模の本格的戦闘集団まで約100団体あり、過去2ヶ月間に30団体も増えた。このうち最大の集団は去年7月結成した「自由シリア軍」で政府軍を離脱した兵士が多く、反政府武装勢力の中心的存在となった。また政治組織では、亡命者が中心の「シリア国民評議会」が去年8月からトルコのイスタンブールに本部を置き、米やEU諸国、イスラム諸国との連絡役にあたっている。

また、武器の調達には米CIA(米中央情報局)も加わった供給ルートがあることも明らかになった。ニューヨーク・タイムズによれば、小規模のCIAチームがトルコ南部に駐在してトルコやサウジアラビア、カタールから来る武器をシリアの反政府勢力に手渡すのに一役買っている。武器は自動小銃、RPG(ロケット推進式対戦車砲)、弾薬などである。CIAチームの現場責任者は「同チームの役割はこれらの兵器が反政府勢力に確実に届き、アルカイダなど国際テロ集団に流れないよう監視することだ」と説明している。だが、CIAの狙いは監視することだけではないはずだ。


・米露の代理戦争か?

米オバマ政権はこれまでシリアの紛争に軍事面で介入しないと主張してきた。現場責任者が「CIAは武器の流れを監視するだけ」と主張するのは、このような米政府の方針に沿った説明である。だが、このCIAの監視によって武器の流れを米の利益に沿うものにすることもできる。国際テロ集団に武器を渡さないのは勿論だが、同時に米に協調的な武装勢力に武器を大量に流すことがあっても不思議ではない。武器の供給はシリアの反政府勢力の中に親米勢力を育てる絶好の機会なのだ。

こうした米オバマ政権の動きに対して、ロシアが神経を逆立てるのは当然だ。ロシアはソ連時代からシリアと友好協力協定を結びアサド政権とも緊密な関係を保っている。地中海に面したタルトスにはロシア唯一の海外軍事基地があり、東地中海におけるロシア海軍の拠点でもある。そんな関係を反映してシリア軍の武器の90%はロシア製だ。シリア国内の混乱が始まったあと、ロシアからシリアへの武器輸送が増えたとの未確認情報も絶えない。

ロシアがシリアを重視するもう1つの理由はシリアがイランと共に中東の反米勢力の要であることだ。西のシリアが東のイランと連携、パレスチナのハマスやレバノンのヒズボラなどを傘下に配して中東の反米、反イスラエル勢力圏を形勢している。モスクワから見れば、ロシア南部の国境外側に米勢力の浸透を阻む分厚い緩衝地帯があるように見えるに違いない。ロシアがアサド大統領の退陣に反対するのも、退陣すればこの緩衝地帯が消滅しかねないと危惧しているためだ。


・オバマ大統領の躊躇

シリアは内戦になったが、調停の動きがなかったわけではない。反政府デモが始まった直後の去年2月、アラブ連盟はアサド大統領が権限を副大統領に委譲することを骨子とする仲裁案を提案した。国連安保理がこの提案に基づいた決議案を作成したが、ロシアと中国が拒否権を発動して葬った。それ以来、アサド大統領の退陣を要求する西側と退陣に反対するロシアの対立が激化。国連安保理は機能不全になった。アナン前国連事務総長が調停を続けているが、大統領の退陣に反対するロシアとの対立は解けない。

米議会内ではリビアで実施した飛行禁止空域をシリアにも設定し、民間人の犠牲を食い止めるべきだとの主張もある。しかし、オバマ政権は外交手段でアサド大統領に退陣を迫るとの方針を変えない。キッシンジャー元国務長官も6月2日ワシントン・ポストに寄稿「今の米国には軍事介入を続ける余裕はない」と反対した。介入すれば、11月6日の投票日までに終わるとは限らない。オバマ大統領としては再選を危うくするような賭けを避け、当面CIAチームによる武器供与を続けることになるようだ。


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