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ビン・ラディン生存確認の衝撃
持田直武 国際ニュース分析

2002年11月27日 持田直武

 ビン・ラディンが米英軍の一年余の大規模作戦をすり抜け、 生存していることが明らかになった。その支援勢力の中に、 パキスタン軍統一情報部の存在が浮上している。核兵器を持 つ軍部とビン・ラディンの接点である。ブッシュ政権はイラ ク、北朝鮮、ビン・ラディンの3者と核をめぐる三正面作戦 を余儀なくされている


・プーチン大統領の指摘

 プーチン大統領は11月22日、ブッシュ大統領をサンク トペテルブルクに招いて会談し、テロ対策やイラク問題など を協議した。会談後の記者会見で、プーチン大統領は質問に 答え、「対テロ戦争は終わるにはほど遠い」と強調、サウジア ラビアとパキスタン軍部に問題があると次のように指摘した。

 「誰がテロリストに経済援助をしているのか忘れてはなら ない。9・11同時多発テロの実行犯19人のうち、15人 がサウジ出身だったのだ」。また、プーチン大統領はパキスタ ンについて「ビン・ラディンの潜伏先はパキスタンとアフガ ニスタン国境付近と言われている。パキスタンのムシャラフ 大統領は秩序回復に努め、我々も協力しているが、軍部の動 きはわからない。軍部が(核兵器をはじめとする)大量破壊 兵器を持っていることを忘れるべきではない」と強調した。

 サウジ政府の資金が慈善事業を通じてビン・ラディンのテ ロ組織アル・カイダに流れているとの疑いや、パキスタン軍 の一部がビン・ラディンと繋がりを持っているとの見方は米 国内にもある。CNNによれば、ホワイトハウス当局者は11 月23日、9・11テロの実行犯2人にサウジの駐米大使夫 人の銀行口座経由で多額の資金が渡った疑惑があるとして、 FBIが調査を進めていることを明らかにした。夫人が知らな いうちに利用された可能性があるとみられている。


・ビン・ラディンとパキスタンの核

 また、パキスタンとビン・ラディンの関係については、米 情報機関の動きに詳しいワシントン・タイムズ紙が11月2 0日、「彼の支援者や友人たちがパキスタン4州のうち、2州 を支配する勢いになった。ムシャラフ大統領は監視の眼を光 らせているが、近く発足するジャマリ新政権にも支援勢力が 加わることになるだろう」と支援勢力拡大の動きを伝えてい る。この支援勢力の中にビン・ラディンとかねてから関係の あるパキスタン軍部の情報機関、統一情報部(ISI)の一部勢 力が含まれることもほぼ常識となっている。

 ビン・ラディンとISIの関係は1980年代、両者が協力 してアフガニスタンに侵攻したソ連軍に対してゲリラ戦を展 開した時にさかのぼる。ISIは米CIA供与の武器と資金をビ ン・ラディンらのイスラム戦士に配布し、彼らを訓練した。 1989年ソ連軍が撤退、ビン・ラディンがアル・カイダを 組織すると、ISIはそのメンバーの訓練に協力する。その場 所がパキスタンとアフガニスタンの国境沿いだった。この経 緯からみて、ビン・ラディンがISI内の支援勢力の助けで米 英軍の攻撃をかわし、この地域に潜伏することは十分考えら れるのだ。

 もう一つの問題は、プーチン大統領が指摘するように、パ キスタン軍部が核兵器を持ち、ISIは核戦略を動かす中枢に いることだ。ビン・ラディンも核兵器に強い関心を示してい ることは周知の事実である。1998年5月、パキスタンが 核実験に成功した時、彼は「イスラムの核」と題する声明を 発表、「アラーの敵を倒すため可能な限りの武器を集めるのが イスラム教徒の責務」と述べた。パキスタンの核を自分の陣 営の武器と位置付けたのだ。彼とISIの関係が深まることは、 彼がそれだけ核に近づくことを意味すると考えてよいだろう。


・ビン・ラディンの録音テープを届けた男

 ビン・ラディン生存を確認するきっかけは、カタールのテ レビ局アル・ジャジーラのイスラマバード支局が彼の録音テ ープを入手したことだ。同支局のザイダン記者がインターネ ットのサイトで明らかにしたところによれば、11月12日 夜10時、同支局に男から「重要な品物を渡すのですぐ会い たい」という電話があった。パキスタンなまりの英語だった。

 ザイダン記者が指定の場所に行くと、スカーフで顔を半分 隠した男が「ビン・ラディンのカセットだ」と言ってテープ を渡した。同記者が質問しようとすると、男は「質問には答 えられない」と言って去ったという。

 受け渡しの場所はパキスタンの首都イスラマバードの中心 部。ザイダン記者は2ヶ月前にもアル・カイダ幹部のテープ を受け取ったが、届けた男は今回と同一人物だったという。 米専門家は、テープは届いた日の1−2週間以内に作成され、 編集やコピーの痕跡はないと鑑定した。届けた男がはっきり と「ビン・ラディンのカセット」と言って手渡したことなど から見て、組織と直接つながりのある人物だろうとみられて いる。

 パキスタン政府はイスラマバードでテープが手渡されたが、 それを根拠に彼の潜伏先をパキスタンと特定はできないとの 立場だ。しかし、情報関係者はアル・カイダがパキスタン南 部のカラチに宣伝拠点を作り、テープや印刷物を製作、それ をパキスタンの過激派組織が配付していると説明している。 政府の治安維持能力が低く、過激派の活動家がビン・ラディ ンのテープを持って首都の中心部に出没するのだ。


・三正面作戦を余儀なくされるブッシュ政権

 ブッシュ大統領は11月13日、ビン・ラディンのテープ が届いた直後の閣議で、「我々のテロとの戦いは続いている。 このテープのメッセージを深刻に受け止めなければならな い」と述べ、その内容について閣僚に注意を喚起した。情報 関係者がテープを鑑定、ビン・ラディンの声にほぼ間違いな いと判断する5日前である。ブッシュ政権が早くからテープ は本物と受け取り、対応策を練ったことがうかがえる。

 それから6日後、オニール財務長官がパキスタンを訪問し、 同国の対米債務10億ドルの棒引きをムシャラフ大統領に約 束した。同大統領のテロ戦争への貢献に対する見返りである。 実は、米情報機関は北朝鮮の核開発再開に使われているウラ ン濃縮施設の重要部分がパキスタンから流出したことを掴ん でいる。本来ならパキスタンに制裁を科すべきだが、逆に債 務を棒引きした。

 ブッシュ政権はこの件について詳しい説明をしていないが、 ウラン濃縮施設の流出にかかわったのは大統領の統制に服さ ない勢力とみているのだ。その中にISIの一部が含まれるこ とも容易に想像できる。この勢力がビン・ラディンに核の機 密を提供したとしても不思議ではない。ブッシュ政権にとっ ての焦眉の急は、ムシャラフ大統領に肩入れし、この勢力を 一掃することである。

 ブッシュ政権は、当面イラクとともに、北朝鮮、ビン・ラ ディンという核への野望を持つ3者と三正面作戦を余儀なく されることになる。


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