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朝鮮半島の核危機
持田直武 国際ニュース分析

2002年12月18日 持田直武

 北朝鮮が凍結中の核施設の稼動と建設を即時再開すると発 表した。本格的に稼動すれば、年間原爆1−2個分のプルト ニウムを生産できるという。国際社会の核開発放棄を要求す る圧力、重油供給の停止、食糧支援の減少、その上ミサイル 輸出にも邪魔が入る状況に直面して、北朝鮮が賭けに出た。 体制の存亡がかかる危険な賭けである。


・北朝鮮の危険な賭け

 北朝鮮が12月12日に発表した核施設の再稼動に関す る談話は次の3点に要約できる。1、米国が米朝枠組み合意 で約束した重油供給を停止したため、北朝鮮も核凍結を解除 する。2、そして、電力生産に必要な核施設の稼動と建設を 即時再開する。3、核施設の再凍結は全面的に米国にかかっ ている。

 つまり、北朝鮮の声明は米国の出方次第で再凍結すると示 唆し、稼動再開が取引材料であることを初めから表明してい る。その上で16日、北朝鮮労働党の機関紙労働新聞は、「現 在、北朝鮮と米国は戦争の瀬戸際にあり、これを避けるには 両国が不可侵条約を締結するしかない」と主張、不可侵条約 の締結が核施設再凍結の条件であることを示した。

 しかし、核施設再稼動を取引材料にするのは、危険な賭け である。現状で、北朝鮮が不可侵条約を要求しても、ブッシ ュ政権が応じないのは確実だ。対立はエスカレートし、状況 が悪化するのは目に見えている。現に、北朝鮮は12日、国 際原子力機関(IAEA)に手紙を送り、核施設を監視するカメ ラと封印の撤去を要求。IAEAが拒否すると、北朝鮮は自分 で撤去すると通告するなど高飛車に出て、事態は深刻化する ばかりだ。


・核爆弾を年に1−2個製造が可能

 北朝鮮は核施設の再稼動は発電のためと主張しているが、 発電すれば使用済み燃料棒が残り、これからプルトニウムが 抽出できる。北朝鮮が監視カメラと封印を撤去すれば、それ を検証する手段がなくなる。米情報関係者は現在の施設を稼 動させることで、年に1−2個の核爆弾を製造できると推定 している。

 また、IAEAのエルバラダイ事務局長も「北朝鮮は使用済 み燃料棒の再処理施設をすでに持っているため、原子炉を稼 動させれば、プルトニウムの抽出まで時間はかからない」と 主張。北朝鮮はイラク、イランの3核疑惑国の中で最も核兵 器製造に近い位置にいると警告している。

 もう一つ、IAEAが懸念しているのは、北朝鮮の水槽に保 管中の使用済み燃料棒8000本の管理だ。この燃料棒を再 処理すれば、原爆数十個分のプルトニウムを抽出できるが、 94年の枠組み合意で将来海外に移送することに決まり、現 在IAEAの監視員2人が監視している。IAEAは、北朝鮮が監 視カメラと封印の撤去で見せた高飛車な姿勢からみて、次は この監視員の退去を要求するのではないかと警戒しているの だ。


・米は交渉拒否、水面下で対応準備中

 この北朝鮮の動きに対し、ブッシュ政権は交渉拒否の姿勢 を一貫して崩さない。パウエル国務長官は16日、記者団に 対し「米国は戦争の瀬戸際に立っていない」と北朝鮮の主張 に反論、不可侵条約の提案を拒否した。その一方で、ブッシ ュ政権は日韓中ロの関係国と次の対応策を検討していること も最近明らかにしている。核問題の一方で、北朝鮮は経済が 崩壊状態、食糧不足も深刻で、一刻の猶予も許さない危機的 状況にあることも事実だからだ。

 ホワイトハウスは12月初め、ブッシュ大統領がロシアの プーチン大統領と北朝鮮問題について長時間電話で話し合っ たと発表した。内容は明らかにしなかったが、12月13日 のワシントン・ポストはプーチン大統領が米ロ中3国の政策 調整機関の設置を提案したと伝えた。ブッシュ政権もこれに は乗り気と言われ、設置されれば日米韓3国の政策調整機関 に加え、新たに米中ロの政策調整機関が北朝鮮対策で協力す ることになりそうだ。

 問題はその上で、ブッシュ政権がどのような対応策を打ち 出すかである。ウオルフォビッツ国防副長官は16日、記者 団に対して「北朝鮮にとって真の脅威は米国ではなく、経済 の崩壊だ」と述べ、経済面からの対応が考えられていること を示唆した。その一つとして、北朝鮮を脱出する住民への支 援を強化し、金正日政権を内側から揺さぶる計画が検討され ているのだ。


・東欧崩壊を念頭におく難民支援策

 国務省のクレーナー難民担当次官補は12月2日、アメリ カン・エンタープライズ研究所の会議で、12月中に中国や 日本、韓国と協議し、北朝鮮を脱出する難民の処遇について 詰めた話し合いをすると語った。特に中国には「北朝鮮から 脱出した住民を逮捕して送り返すのを止め、難民として保護 するよう要求する」と述べた。

 これに関連して、ニューヨーク・タイムズは12月12日、 ブッシュ政権と議会の多数の幹部が共産圏崩壊の契機になっ た難民の大量脱出を念頭におき、北朝鮮の難民支援策を検討 していると伝えた。その第一歩が、中国に難民の強制送還中 止を求めることだという。送還を中止すれば、脱出者増加の 連鎖反応が起き、金正日政権が内部崩壊する可能性が高まる とみているのだ。

 議会では、共和党のブラウンバック上院議員、民主党のケ ネディ上院議員が中心になって、北朝鮮住民の米国への移住 を特別に認める法案を提出した。また、下院の共和党有志は、 北朝鮮住民が韓国や中国、ロシア、その他のアジア諸国に脱 出した場合、米国が定住までの資金援助をするようブッシュ 政権に要望書を提出した。


・日本も難民問題では支援要求も

 核開発再開問題が表面化したあと、北朝鮮は重油供給を止 められ、食糧支援も減少、唯一の外貨獲得源だったスカッド・ ミサイル輸出も米情報機関に突き止められ、今後の輸出は難 しくなった。アーミテージ国務副長官は13日の記者会見で、 「北朝鮮はどこに逃げても、隠れる場所がなくなったのだ」 と強調した。

 ブッシュ政権の政策担当者が北朝鮮を追い詰めたと認識し ている様子がうかがえる発言である。この認識を背景に、米 議会やブッシュ政権が、北朝鮮の体制崩壊も視野に入れた住民脱出計画の検討を始めた のだ。実行に移されれば北朝鮮には大きな打撃になることは 間違いないだろう。

 一方、この問題で鍵を握るのは中国だが、これまでは北朝 鮮との友好関係を重視して脱出住民を強制送還、これが脱出 に歯止めをかけてきた。しかし、米議会関係者によれば、「最 近中国も次第に問題を理解するようになった」という。今の ところ、この問題で日本の役割への言及はないが、対策が具 体化すれば、日本も難民受け入れと資金援助の両面で貢献を 求められるだろう。


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