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北朝鮮の核危機(8) 多国間協議開催へ動く
持田直武 国際ニュース分析

2003年4月17日 持田直武

北朝鮮が態度を軟化、関係国との多国間協議が近く北京で開催される見通しとなった。背 景には、フセイン政権崩壊後の危機感、中国、韓国の説得工作がある。だが、ブッシュ政 権内には強硬な主張が根強い。イラク戦争に勝った自信が強硬派を勇気付け、妥協を許さ ない姿勢を生んでいる。


・姿勢転換のきっかけは米軍のイラク攻撃

 北朝鮮変化の兆しは、ブッシュ政権がイラク攻撃に踏み切った直後から現われた。北 朝鮮がそれまで矢継ぎ早に進めてきた核とミサイル開発関連の動きを止めた。そして、 韓成烈国連次席大使が3月31日、米国のプリチャード朝鮮問題担当大使と2回にわた って会談。バグダッドが陥落した翌日の4月10日には、平壌放送が「これは米帝国主 義と例え不可侵条約を結んだとしても、戦争は避けられないことを物語っている」と述 べ、これまで主張してきた不可侵条約に見切りをつけるかのような論評をした。

 そして4月12日、北朝鮮外務省スポークスマンは「米国が核問題解決のために朝鮮 政策を大胆に転換する用意があるなら、我々は対話の形式にこだわらない」と述べ、ブ ッシュ政権が主張している多国間協議を受け容れる意向を示した。北朝鮮は02年10 月核危機が表面化して以来、米国との2国間協議と不可侵条約締結を一貫して主張して きたが、これら2つを取り下げるという譲歩である。全面取り下げかどうかなど、まだ 不明な点もあるが、大きな姿勢転換であることは間違いない。

 この背景には、イラクのフセイン政権崩壊後、ブッシュ政権が次の矛先を北朝鮮に向 けるという危機感があったとみてよいだろう。イラク攻撃と並行して、米軍は朝鮮半島 周辺にB−1爆撃機や空母カールビンソンなどを急派、韓国軍と大規模な合同軍事演習 を展開していた。金正日総書記が2月中旬から約50日間、姿を見せなかったのは、こ の米軍の動きと無関係なはずがない。

 韓国の中央日報が情報関係者の話として伝えたところでは、同総書記はこの間、中国 国境に近い白頭山の地下司令部に居たという。一方、AFPはロシア情報機関の情報と して、同総書記は米軍がイラク攻撃を開始した直後、中国を訪問して胡錦涛国家主席と 会談したと伝えた。中国外務省の劉建超副報道官はこれを否定したが、北朝鮮の変化の 背後に中国の存在が浮上していることは間違いないのだ。


・中国が圧力を加えつつ説得

 国連安保理は4月9日、米提案の北朝鮮非難決議を採択しないまま閉会した。非公式 協議の席で、中国が「決議は問題を複雑化する」と反対、これにロシアも同調して決議 が成立する見通しが立たなかったのだ。CNNによれば、米のメグロポンテ国連大使も 無理押ししなったという。中国の王英凡国連大使は記者団を振り切るように退出したが、 玄関で追いつかれ、「対話促進のため、すべての努力をした」と語った。中国が北朝鮮 の変化を引き出すために精力的に動き、非難決議の不採択も中国が各国に根回しをした 結果だったことを認めたものだ。

 中国は昨年10月、北朝鮮の核開発が表面化して以来、一貫して朝鮮半島の非核化を 主張。今年2月12日、IAEA(国際原子力機関)が問題を国連安保理に付託した時に はこれに賛成した。同時に、これまで北朝鮮に提供していた重油を3日間にわたって停 止し、圧力をかけた。中国側はパイプライン補修のためと説明したが、昨年11月モン ゴルがダライラマの訪問を受け入れた際にも、中国は同じように重油供給を2日間止め ており、北朝鮮への停止も圧力であるのは明らかだった。

 しかし、中国は核問題を安保理に付託することに賛成したものの、その後は「安保理 の介入は問題解決に役立たない」と述べて、審議に慎重な姿勢を見せるようになる。北 朝鮮が「安保理の経済制裁決議は宣戦布告と同じとみなす」と主張していたこともある が、中国としては戦火が朝鮮半島に飛び火するのを避けるねらいがあった。このため、 中国は時に北朝鮮に圧力を加えながら、変化を説得したとみられ、今後多国間協議の場 でもこの中国の役割が重みを持つことになるだろう。


・多国間協議のたたき台は韓国の提案

 北朝鮮を多国間協議の場に引き出すにあたって、中国の説得とともに、韓国が提案し たロードマップ案の役割も無視できない。韓国は3月末、尹永寛外交通商相を米国と日 本へ、羅鐘一大統領補佐官を中国とロシアに派遣してこのロードマップ案を説明した。 その概要は、まず北朝鮮が核関連の動きを「現状で凍結」して、多国間協議を開催、そ の中で「米朝の2国間協議も可能」、というもので、ブッシュ政権が主張する多国間協 議と北朝鮮の2国間協議の主張を組み合わせた折衷案だ。

 尹永寛外交通商相は3月29日、パウエル国務長官と会談してこのロードマップ案を 説明したが、パウエル長官は「興味深いアプローチであり、検討する」と好意的な反応 を示した。一方、中国は当初、北朝鮮の主張する2国間協議を支持するだけだったが、 最近外務省の報道官は多国間協議の枠組みにも理解を示す発言をするようになった。こ の中国当局の発言の変化は、北朝鮮が韓国提案のロードマップ案を受け容れたことを示 していると推測できるのだ。

 北朝鮮が態度を変えた結果、多国間協議は北京で早ければ4月中にも開催される運び だが、その席では、まずこの韓国のロードマップ案がガイド役になるだろう。北朝鮮が 米英軍のイラク攻撃開始以後、核やミサイル関連の動きを止めたのは、同案の「現状で 凍結」という提案に沿った動きとみることもできるのである。


・問題はブッシュ政権内の強硬派の出方

 ブッシュ大統領は4月13日、北朝鮮の核問題が「良い方向に向かっている」と満足 感を表明した。しかし、問題はこれで解決するわけではない。1994年の米朝枠組み 合意を締結したガルーチ元国務次官補はワシントン・ポストのインタビューに答え、ブ ッシュ政権が対話の前提条件としてきた「核開発を検証可能な方法で放棄する」という 主張をどうするかが重要な鍵になると語っている。

 これに関連して、チェイニー副大統領は4月10日、韓国の朴寛用国会議長と会談し、 韓国提案のロードマップ案が核開発の「現状凍結」を条件としていることに不満を表明、 凍結ではなく「放棄」が必要と数回にわたって強調した。パウエル国務長官が「興味深 いアプローチ」と評価したのとは対称的である。同副大統領やラムズフェルド国防長官 は、イラク戦争で勝利して自信を深め、北朝鮮問題にも強気の構えなのだ。

 KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)のカートマン事務局長は4月15日、ロイタ ー通信に対して協議は「2週間以内の早期開催」が可能と指摘したが、その後の展望に ついては、「長期化する」と予測した。ブッシュ政権が当初からの主張、「検証可能な核 開発放棄」と「違法行為に褒美を与えるようなことはしない」という2点で妥協するこ とがなければ、協議の長期化は当然ということになる。

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