アメリカで食う見る遊ぶ
カキ、カキ、カキ!

全米のカキを極めたい

日本ではそろそろ「カキフライ始めました」の張り紙が、定食屋さんに出る頃だなあ。どんより曇って薄ら寒いニューヨークの秋の空を見て呟いていたら、たまらなくカキが食べたくなってしまった…。というわけで、行ってきました。シーフードレストランへ。

グランドセントラル駅の「オイスターバー」も有名だけど、行ったのはソーホーにある「アクアグリル」という店だ。ザガットでは、オイスターバーよりちょっぴり点が高く付いている、期待の店だ。

それが、「今から行きたいんだけど」と電話をしたら、「大丈夫」と言うだけで名前も聞かれずに、あっさり席が取れてしまった。土曜日の3時前という閉店ギリギリの時間に電話をしたからか、大雨だったからか。
店ががらーんとしていて、私たちだけだったらどうする? 掃除している横でカキ食べることになったらイヤだなあ。色々想像しながらも、とりあえずお店まで行く。

アクアグリル」は、6番街とスプリング通りの角にある。大きな窓に、古い木の扉がいい感じ。夏はオープンテラスになるそうだ。中を覗くと、けっこうお客さんも入っている。みんな白ワインやシャンペン片手に、銀のお盆に載ったカキを囲んでいる。

「うあっ、すごーい」
入ってすぐのところに、氷詰のショーケースがある。その中に、殻つきのカキや貝がずらりと並んでいるのだ。どれがおいしいかな!? 目が釘付けになってしまう。

アクアグリルのディスプレイケース

メニューには、20種類以上のカキが産地付きでリストされている。値段は様々だったけど、1.5ドルから2ドルくらいのが中心だった。 産地を見るだけでは味が想像できないので、お勧めのものを選んでもらう。他にあさり、つぶ貝、ムール貝、エビ、小さめのロブスターがセットになった「盛り合わせセット(時価)」を頼む。もちろん値段は事前に確認したけどね。

おかまの店員さんの気取った発音に戸惑いながらも、何とかオーダーして、白ワインを飲みながら待つことしばし。お腹が空いているので、ホームメードだというパンやスコーンをどんどん食べてしまう。ご親切に次々追加してくれるので、止まらないのだ。
「スコーンを食べに来たわけじゃないんだよー」
「殻を開けるだけなのに、何でこんなに時間がかかるんだ?」
あっちのテーブルの人たちも、待ちくたびれ酔っ払ったんだろうか。シャンぺングラスにフォークを突っ込んで、キャアキャア言いながらかき混ぜている。カウンターが見えない奥の席に座っちゃったのは失敗だった。次は調理台のそばに座って、睨みをきかせるようにしよう。

「あっ、来た!」
銀の大きなお盆が、どっかーんと運ばれてきた。カキ1ダースに、あさり半ダース、鉢にいっぱいのつぶ貝、ムール貝、エビ、小ロブスター…。
カキにはこのカクテルソースかビネガーソース。あさりにはこのソース、ムール貝には味がついていますから。とひとつひとつ説明してくれる。 日本食レストラン以外でナマ物を食べるのは初めてで、ちょっと怖い気もしたけれども、身がぴかぴか光ってプルプルで、すごくおいしそうだ。
あさりと カキ!

まずは、ワシントン産だというハンターポイント。白くて大きくて、一番日本のカキに見た目が近い感じだ。黒くて小さいムーンストーンというカキの方が、味が濃くて滋養たっぷりの味だった。大きいから淡白、黒いから味が濃い、というわけでもなく、ひとつひとつ色も形も味も全部違うのが面白かった。

色々なソースを試しながら食べたけど、生のカキとあさりは、ソースは使わずにレモンだけ絞るのがよかった。こうすると、磯の香りが一番引き立つのだ。本当はしょう油を少しだけ垂らせたらなあ、と思ってしまった。大根の荒おろしがあればもっとよかったんだけどね。

日本の居酒屋の突き出しに出てくるようなつぶ貝から、銀の楊枝で身をにょろっと出して食べるのも楽しかった。肝まで切らずにちゃんと出せる?とちょっと自慢。誰も見ていなかったけどね。

向いのカップルのところに来た、殻つきの生うにがすごくおいしそうだった。同じのをくださいと言ったんだけど、「もうランチタイムは終わりだから」と断られてしまった。確かに、寝坊して来るのが遅すぎた。お店の人がすみの方で賄い飯を始めていて、もうカウンターには誰も居なかったのだ。

そのカップルはウニを見たのは初めてだったらしく、こわごわフォークを突き刺して、ちょっとだけ身をすくって舐めて、おえっという顔をしていた。 よっぽど「食べないのならちょうだい」と言おうかと思ったんだけど、この店にはまた来たかったのでやめておいた。
ブランチメニューのクラブサンドイッチとコーヒーだけ頼んで食べている人たちもいたけれど、それもすごくおいしそうだった。
色とりどりのソースとつけ合わせ

今回食べたのは、アメリカの東海岸のカキだったけど、日本産のカキもあるし、西海岸でもカキは養殖されているという。アメリカのカキを全種類極めるには、道はまだまだ遠そうだ。 車と運転手を調達して、カキの産地にもぜひ行ってみたい。 「これだ!」というものに出会うまで、この先も楽しいカキ修行を続けるのだ。求めるのはやっぱり日本で食べていた、白くて、身がぶるりと太っていたカキかなあ…。
久しぶりに堪能したシーフードに、食欲はとめども無いのであった。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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