アメリカで食う見る遊ぶ
ハーレムソングのいかにも低予算ポスター

ハーレムからの切実なお願い

ニューヨーク、マンハッタンの北のハーレムには、有名な劇場「アポロシアター」がある。黒人エンターテイメント文化の中心地と言われ、ここから巣立っていったのは、ジェームス・ブラウン、ダイアナ・ロス、スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクソン(ジャクソン5)、ローリン・ヒルなどなどなんだそうだ。

このアポロシアターで、2002年の夏から「ハーレム・ソング」というミュージ カルをやっている。ハーレムの歴史を歌とダンスと映像で表現し、出演者はもち ろん全員黒人。高い評判を取っているという。 ニューヨークに来たからには、一度は見に行きたいとは思っていたものの、いつ でも行けると思って先延ばしにしていた。クリスマスの頃が丁度いいかな、なん て。

そしたら突然新聞に、「ハーレムソング、好評なのに今週末で終演か!?」とい う記事が出た。批評家は絶賛しているのに、広告費が出るほどの予算がなく、観客不足で資 金難が続いている。そして、ついに終演するしかないという結論に達 したと。

私は慌ててインターネット経由でその週末のチケットを購入した。その記事を見 た人でアクセスが殺到しているのでは?と思ったけれどもそんなこともなく、あ っさりK列のチケットが取れた。

開演前のアポロ劇場

アポロシアターはハーレムのメインストリートに面して建っている、古い劇場だ。 切符売り場ももぎりも座席案内の人も全員ブラックで、お客さんも 80%くらいの感じでブラックだった。あんまりキョロキョロしなかったけど、アジア人は私たちだけだったような。席も満員 というわけではなく、団体さんに売りそびれたのか、ごっそり空いているスペー スもあった。終演が発表されたばかりだというのに、ちょっとさびしかった。

でも、次々繰り広げられる歌と踊りはさすがの大迫力。フィルムで登場する地元 ハーレムのおじいさん、おばあさんが懐かしそうに昔のハーレムを語り、コメデ ィあり、パロディありの楽しいショーだった。お客さんたちは大きな声でゲラゲラ笑い、囃し立て、最後はスタンディングオベイション。本当にこれで終わっちゃうの?と隣の人に 聞こうかなと思ったその時、すごい歌唱力を披露してくれたB.J.クロスビーが、不 自由な足を引きずって舞台の前に進み出た。

「今日の公演はいかがでしたか?」大拍手。
「もし、気に入ってくださったのなら」大拍手。
「すぐにお友達に電話をして、あなたもハーレムに行ってと言って下さい」 大拍手、歓声。

「このミュージカルを始めてから、たくさんのお客さんがハーレムに来るように なりました。劇場周辺のレストランは、売上が200%も伸びたそうです」
「でも、まだまだ足りないのです。私たちが上演を続けられるように、家に帰ったらすぐに、電話をしてください」
出演者たちが口々に言う
「友だちに電話してね!」
「家族にも」
「親戚にも」
「政治家にも!」(後ろのオーケストラボックスからの声)
 爆笑。
「ハーレムに行って!と言ってくださいね!」
大拍手、歓声、口笛。
という感じで、大盛り上がりでショーは終わった。
車も人もいっぱいのアポロ劇場前

ハーレム・ソング不信の原因は、ブラック以外のお客さんが集まらないからなんだそうだ。ハーレムという場所に来ることの心理的抵抗が、まだ根強くあるとか。実際この地域に入ると、人種の構成ががらりと変わるのを目の当たりにすることになる。マンハッタンの中心から、地下鉄でほんの20分程度のところなのに。

最近は治安も良くなったと言うけれど、 「ハーレムに行こうと思っているの」と、白人系アメリカ人に言うと、 「大丈夫だと思うけど、ひとりで行かないほうがいいよ」とか 「帰りはタクシーに乗るんだよ」と言われる。
そして決まって「自分は行ったことないんだけどね」と。

ちょっとビクビクしながら出かけたハーレムの街は(大通りを少し歩い ただけだけど)、HMVはあるし、スターバックスはあるし、ソウルフードのデ リもたくさん。ミッドタウンと変わらない賑やかさだった。ディズニー・ショップもあったし、スポーツ・ショップも多くて、 サイズはバカでかだったけど値段は安かった。通りでは日本人観光客もちらほら見か けて、白人が殆どいないのが不思議なくらいだった。

電話作戦が功を奏したのか、ハーレム・ソングはとりあえず一週間の延長が決まったようだ。いつまで続くのかわからないけれど、もしご興味があるのな らぜひ行って下さい。 券はチケットマスターで取れるし、コード【JHSPBL】を使えば10ドル割引になります。
注)2002年12月末までの公演となりました。(11/15/02付)

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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