アメリカ三面記事便り
パレスチナ系の人たちの反戦デモはすごい迫力だったが…(3月29日)

社会に満ちる無言の圧力

はっきりしない戦局に続出する戦死者や捕虜。暗いニュースが続く中で、イラク軍の捕虜になっていた女性兵士(19)の救出は、喜び一杯で大々的に報じられた。実家の周りには報道陣が詰め掛け、家族はインタビューに出っぱなしだ。何度も映し出される私服の写真の彼女は、金髪のロングヘアでとても華奢だ。屈託無くにっこりと笑う姿は、とても兵士には見えない。

ティーンエイジャーなのに捕虜になってしまったなんてと驚く私に、アメリカでは大学に進学する奨学金を得るために、兵役に志願する人は多いのだと周囲が教えてくれた。
「ボクは17歳で中東に行ったよ。もうずいぶん前だけどね」と、スポーツクラブで親しくなったキースが言う。テレビの下でストレッチをするので、ニュースの感想がよく聞けるのだ。
「行けども行けども砂漠でね。はぐれた時に生還するために、時々ある立ち木の形を覚えておくように言われるんだ。でもみんな同じような木でさ、覚えられなきゃ死ぬんだと必死だったよ。毎日本当に怖かった」

「受付のイブも2年くらい徴兵されてたんだって。彼女はイスラエル生まれなんだってね」 イブは、ケンタッキー・フライドチキンのおじさんのように恰幅と愛想のいい女性だ。
「マシンガンを抱えて、飛行機からパラシュートで飛び降りたりしたらしいよ」  今のイブからはそんな姿はとても想像できないので、笑ってしまったけれど、キースやイブの他にも、アメリカでは軍隊生活を実際に経験している人は多い。そんな人たちに向かって、戦争を茶化して言う事なんて、とてもできない。

テレビ局が反戦的な報道をした記者を解雇し、歌手のマドンナが反戦的な内容のビデオのリリースを取りやめた。どちらも米軍支持派からの批判を恐れての事だという。マンハッタンで頻繁に行われている反戦デモも、参加者はかつての十万人単位から百人単位へと極端に減っている。

犠牲になる兵士達が出ている以上、批判はできない。そんな雰囲気が、社会に満ちてきたような気がする。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



次へ
Top



All Rights Reserved, c 2003, Shinoda Nagisa