アメリカ三面記事便り
カフェでのおしゃべりにはご用心

密告は正義か偏見か

September11の一周年が終わったばかりの13日の金曜日、ニュースチャンネルでは朝からずっと「テロの脅威」として、フロリダ州の高速道路が封鎖され、防護服を着た爆弾処理担当が、車の捜索をする模様を望遠カメラで中継し続けた。ジョージア州のレストランから「3人組の客が新たなテロの相談をしていた」と通報があったというのだ。

テレビでは通報者の女性が「流暢な英語を話すアラブ系の3人組が、9月13日にテロを起こす相談をしていた」とインタビューに答えている。テロの相談を、レストランなんかで、しかも英語でするだろうか!? 私は首をかしげた。
「何より許せなかったのは、彼らがSeptember11のことをおかしそうに話していたことよ。ざまあみろって感じでね!!」女性の目が吊り上っている。

案の定、爆弾は発見されず、拘束されていた中東系の風貌の男性3人は、その日に釈放されている。彼らはみなアメリカ生まれの医学生で、その後のインタビューで「僕達は人を救うために医者になりたいという希望を持っている。人を傷つけようなんて思っていない」と語っている。「ショックだし恐ろしい思いをしている。米国民に僕たちを恐れないでくれと言いたい」とも。

インタビューでの3人の医学生への質問は「September11に関して、あげつらったのかどうか」に終始した。September11は神聖なものであり、疑問を持ったり揶揄したりはしてはいけないと叱っているかのようだった。医学生達もマスコミを刺激しないよう、慎重に言葉を選んでいるようだった。「September11のことなど話していない」と否定するのみだ。人種的偏見だとか人権侵害だと言って反論することなど、一切しなかった。

一方で密告者とその家族は雄弁だ。
「妻は正義感に基づいて行動した。私は彼女を誇りに思うよ」

テロを恐れるあまりに生まれた誤った密告は正義と言われ、そこに見え隠れする人種的偏見には、触れられない。アメリカの嫌な一面を見てしまったようだ。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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