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北朝鮮の核危機(17) 6カ国協議は何を目指すのか
持田直武 国際ニュース分析

2003年12月1日 持田直武

米議会の超党派議員が北朝鮮自由化法案を上下両院に提出した。北朝鮮の核開発放棄、民主的政権による統一支援などを掲げ、体制変革も視野に入れている。可決すれば、ブッシュ政権はこれに従うことになる。6カ国協議も最終的に何を目指すのかを問われることになるだろう。


・北朝鮮の体制変革を視野に統一を支援

 北朝鮮自由化法案、原題は North Korea Freedom Act of 2003。提案者は、上院がブラウンバック外交委員会アジア太平洋小委員会委員長(共和党)とベイ議員(民主党)。下院が、リッチ同アジア太平洋小委員会委員長(共和党)とバレオマガエバ議員(民主党)など。上院には11月20日、下院には22日に提出した。北朝鮮問題を担当する上下両院小委員会の幹部議員が超党派で共同提案しており、多少の修正はあっても可決はほぼ間違いない。

 法案の主要な項目は、北朝鮮の大量破壊兵器開発の中止、民主的政権による朝鮮半島の統一支援、北朝鮮住民の人権状況改善の3つ。統一の支援は民主的政権による場合に限定している。また、人権問題では、脱北住民に避難場所を提供することや、米国への入国許可、北朝鮮の子どもとの養子縁組の法的保証、大量破壊兵器の情報を提供した住民には永住許可を特別に認めることなども規定している。

 同法案提出を推進したブラウンバック上院アジア太平洋小委員会委員長は、法案のねらいの1つ、民主的政権による朝鮮半島統一が、金正日政権の排除を前提にしていることを隠さない。同委員長は11月4日の委員会で、「北朝鮮は崩壊しつつあり、自由諸国は崩れる同国を支えるようなことをしてはならない」と主張。今回提出した同法案には、この意味が含まれていると説明した。 


・ブッシュ政権の方針への影響は必至

 ブッシュ政権内部にも、議会に呼応する動きがある。ラムズフェルド国防長官は11月18日、日本、韓国などの歴訪を終えて帰国する機中で記者会見し、「金正日体制は永続しない」との見解を示した。また、記者団が「北朝鮮の政権が交代する可能性があるか」と質問したのに対し、同長官は「われわれは北朝鮮政権の交代を望むべきだ。どの瞬間にも変化は起きる。われわれはここ数十年、世界各地で国家が消える劇的変化を目のあたりにしてきた」と述べた。

 だが、ラムズフェルド長官のような主張は今のところブッシュ政権内では少数だ。同政権は、北朝鮮が核開発を「検証可能な方法で不可逆的、かつ永久に廃棄すること」を要求し、北朝鮮がこれに応じれば、同国の安全を文書で保証し、経済支援にも乗り出すと表明している。核開発を放棄すれば、金正日政権に対しても経済支援をすると解釈できる。6ヶ国協議は、このブッシュ政権の方針を日本はじめ各国が了解し、ブッシュ政権と共同歩調を取っている。

 しかし、米議会が北朝鮮自由化法を制定すれば、ブッシュ政権はそれを遵守する必要があり、北朝鮮に対する経済支援は難しくなるだろう。同政権が経済支援をしようとしても、議会は北朝鮮の独裁、人権侵害などを理由に予算を拒否することが確実だからだ。ブッシュ政権内にも、ラムズフェルド長官をはじめとする強硬派がさらに力を得て、金正日政権に対し厳しい姿勢を打ち出すことになるだろう。


・北朝鮮の安全を文書で保証する案にも影響

 米議会の動きは、ブッシュ政権が計画している「北朝鮮の安全を文書で保証する案」にも影響が及ぶだろう。この案は、北朝鮮が要求する「米朝不可侵条約締結」の代替案として登場した。ブッシュ政権が北朝鮮と不可侵条約を結んでも、現状では議会が批准する可能性はまずない。そこで、「北朝鮮の安全保証文書化案」が浮上、これを6カ国協議参加国の日米韓中ロが確認するという計画だ。

 各国とも、この「文書化案」に乗り気だが、北朝鮮自由化法が成立すれば、この計画にも疑問が出る。安全の保証が、金正日政権の安泰を保証することになり、同政権の人権抑圧を長引かせるなど、北朝鮮自由化法の趣旨に反する結果を生むとの見方があるからだ。韓国の尹永寛外交通商相は26日の記者会見で、この問題に関連して「国際政治では、外国領土の不可侵を約束することはあるが、政権の安全を保証する例は聞いたことがない」と述べた。

 韓国は「北朝鮮の安全保証文書化案」を支持しているが、このような案は外交史上の前例もない。内容も「政権の安全保証か」、あるいは「領土の安全保証か」曖昧な点がある。尹永寛外交通商相の発言は、「政権の安全を保証」するものではないことを強調し、曖昧さを消そうとしたものだ。しかし、米議会などの強硬派は、安全保証の文書化が金正日政権の延命を保証するとして批判を強めることは間違いない。


・6カ国協議は何を目指すのか

 6カ国協議は中国が仲介役としてエネルギッシュに動いているが、先行きについて最近判然としないものが生まれている。米議会の北朝鮮自由化法案の影響を受けて、協議の主役、ブッシュ政権が方針を変えるのではないかと見られるからだ。次回の協議日程がなかなか確定しないことも、その見方を強めている。

 6カ国協議は金正日政権を相手にする交渉であり、米国はじめ日韓中ロの5カ国は、これまでは同政権と交渉し、問題が解決すれば、同政権の経済再建、国際社会復帰を支援することで一致していた。南北統一についても、現在の政権を北の当事者とすることに異論はなかった。しかし、北朝鮮自由化法が成立すれば、金正日政権が突然人権尊重の民主的政権に変身しない限り、ブッシュ政権はこの政策を続けることはできないことになる。

 6カ国協議は東北アジアに史上初めて組織された多国間安保協議の場である。北朝鮮の核開発に対して、関係国が一致して放棄を要求し、その代わり経済再建などに協力する姿勢を打ち出した意義は大きい。しかし、北朝鮮が同時に世界でも稀有な人権抑圧国家であることも事実である。米議会の動きは、この問題を放置する危険に警鐘を鳴らしたものだ。核問題の解決だけですべて終わりではないのだ。日本は拉致問題でそれを熟知する立場にある。

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