メインページへ戻る

ビン・ラディンの行方
持田直武 国際ニュース分析

2004年12月27日 持田直武

9・11同時多発テロ事件から3年余。事件の首謀者ビン・ラディンの捜索作戦が行き詰まっている。潜伏場所についても、米ブッシュ政権の見方と、捜索に協力しているパキスタンが微妙に食い違い、作戦現場では双方の軋轢も生れている。イラクの混乱が収まりそうもないのに加え、ビン・ラディンも捕まりそうもない。


・ビン・ラディンはどこに潜伏しているのか

 ブッシュ大統領は12月20日の記者会見で、ビン・ラディンの潜伏先について「パキスタンとアフガニスタンの国境地帯にいると思う」と述べた。米情報機関がかねてから口にしている公式見解である。アフガニスタンのカルザイ大統領も12月12日、CNNの番組に出演し、「国境地帯にいると信じている」と語った。しかし、パキスタンのムシャラフ大統領は12月4日ワシントン・ポストのインタビューに答え、「どこにいるかわからない」、「確かなのは、彼がまだ生きていることだ」と語った。

 このムシャラフ大統領の発言には、ビン・ラディンをめぐるパキスタン国内の屈折した状況が反映している。同国陸軍のフセイン司令官は11月25日、ロイター通信のインタビューに答え、「ビン・ラディンは国境地帯にはいない」と断言。その2日後、8,000人の兵力を投入して続けていた南ワジリスタン国境地帯の追跡作戦を中止、同地域からの兵力撤退を発表した。その前日、同司令官は地域の部族長たちと会談し、今後は部族長が外国人犯罪者の取り締まりにあたるという合意を取り交わした。地域の実権を握る部族長たちの要求に応じたのだ。

 パキスタン軍はこれまで国境北のアフガニスタン領内に展開する米軍と連携してビン・ラディン追跡作戦を展開してきた。これに対し、部族長たちは作戦中の米軍がしばしば国境を越えて南ワジリスタン側に侵入、攻撃機も飛来して爆撃するとして作戦の中止を要求。ビン・ラディンなどの外国人犯罪者が侵入し場合、部族長たちが取り締まると主張していた。パキスタン軍はこの要求に応じたのだ。一方、パキスタン外務省も12月13日、「ビン・ラディンはパキスタンにはいない」という声明を発表、部族長や軍の立場に同調した。いわば政治的判断によるビン・ラディンの不在確認だった。


・追跡作戦をめぐる米・パキスタンの軋轢

 米情報機関の見解はパキスタンとはまったく違う。12月13日のニューヨーク・タイムズによれば、米情報機関は03年末、「ビン・ラディンはパキスタン領南ワジリスタンの部族長の支配地域に潜伏している」との結論を出した。この地域には7つの部族がパキスタン政府の統治から半ば独立して居住。ビン・ラディンは部下たちとこれら部族の庇護を受けながら傘下のテロ組織と連絡し合っているというのだ。ブッシュ大統領が20日の記者会見で、ビン・ラディンは「アフガニスタンとパキスタンの国境地帯にいると思う」と述べたのは、パキスタンの国内事情に配慮し、正確な所在をぼかす公式見解を口にしたのだという。

 米情報機関は03年末、潜伏地域と見られる周辺に一連の秘密基地を設置、CIA要員が常駐して監視する態勢に入った。これに対し、パキスタン側はこの米側の活動を厳しく規制、CIA要員が国境地帯に行く場合には必ず同行者を付けた。このため、米側からは行動の自由がなく、効果的な情報収集ができないという不満があがることになった。また、米要員がビン・ラディンの動きに関連する情報を手に入れても、それを敏速に処理することができず、対応が手遅れになるなどの失態もあったという。

 パキスタン政府はこのほか、アフガニスタンに展開する米軍が国境を越えてパキスタン領内に入ることも厳しく禁止している。この結果、米軍と交戦中の武装集団が国境を越えてパキスタン領内に逃げ込んでも、米軍は追跡できない。しかも、逃げた武装集団はパキスタン領内の安全地帯から米軍を攻撃するという不満もある。ニューヨーク・タイムズによれば、こうした制約の結果、アフガニスタンに展開する米軍はビン・ラディンの追跡を事実上放棄し、現在はアフガニスタン国内の治安維持に力を注ぐことになったという。


・行き詰まりはブッシュ政権の責任

 ムシャラフ大統領は上記12月4日のワシントン・ポストのインタビューで、「ビン・ラディンの捜索は完全に行き詰まった」と述べ、「こうなった主要な責任は米国にある」と主張した。同大統領はその理由として、「アフガニスタンに十分な兵力を派遣しなかったため、治安の空白が生れた。その空白を埋めるには、アフガニスタン人の軍隊を訓練する必要があるが、米国はそれもしなかった」と説明した。同大統領が指摘する「治安の空白」は国境地帯の警備の手薄さを指し、土地勘を持つアフガニスタン人部隊を組織すればより効果的に空白を埋めることができるというのだ。

 しかし、ブッシュ政権には現在アフガニスタンに兵力を増派する余裕はない。1月のイラク国民議会選挙のために1万2,000人増派して15万人としたが、現在の陸軍現役兵力48万人の態勢では、この増派が精一杯なのだ。ラムズフェルド国防長官は高度技術と精密攻撃能力で効率ある戦略を構築、兵力削減を図る方針を堅持している。しかし、この戦略はイラクでフセイン政権を短時日で倒す威力を発揮したが、その後の治安維持に失敗した。ムシャラフ大統領は、同じことがアフガニスタンでも言えると批判しているのだ。

 国境地帯で部族に匿われているビン・ラディンらの外国人グループは150人から300人、これを部族の民兵約500人から1,000人が守っているとみられている。ビン・ラディンの兵力は一時より人大幅に減少、外部との連絡も携帯電話などは使わず、信頼できる部下が直接会って伝達する方法をとっているという。米の追跡作戦がそれなりの効果を挙げているとも言えるようだ。しかし、ビン・ラディンのテロ組織アルカイダは世界各地に依然30余りの組織を維持し、これは何時行動を起こすか予断を許さないという。しかも、イラクがあたらしいテロリストを生む温床になり、イスラム諸国から続々とテロ志願者が集まっているとの情報もある。この流れを断ち切らなければ、ブッシュ大統領はビン・ラディンとフセインという二兎を追い、一兎も獲れなかったと言われるだろう。


掲載、引用の場合は持田直武までご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2004 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.