メインページへ戻る

米大統領選、同性婚問題が草の根の焦点
持田直武 国際ニュース分析

2004年2月9日 持田直武

選挙戦の焦点として、同性結婚問題が浮上した。きっかけはマサチューセッツ州最高裁が下した同性結婚合憲の判決。保守派は反発し、草の根有権者を動員して禁止のための憲法改正運動を展開。ブッシュ大統領も同調する姿勢を示した。一方、民主党大統領候補はこの問題では受け身の立場。同性婚に同情的な姿勢を示してきたリベラル派ケリー候補にとって今後厳しい局面は避けられなくなった。


・州最高裁が同性結婚禁止は憲法違反と判決

 米国では、結婚は州政府が州憲法に基づいて扱い、これまでは男女の結婚だけを認めてきた。これに対し、マサチューセッツ州最高裁は11月18日、「異性間だけに結婚を認めるのは州憲法の男女平等の規定に反する」との判決を下した。同性結婚も「合憲」というのだ。同性カップル7組が、自分たちの「結婚」を認めない州当局の判断を憲法違反として訴え、これに答えた判決だった。最高裁は同時に、180日以内に「7組に対する適切な解決策」を州当局に求めた。

 同州議会はこのため、同性カップルに結婚とほぼ同じ権利を認める市民婚(Civil Union)の法律制定を準備。州最高裁に対して、これで同性カップルの権利を救済できないか質問した。だが、最高裁は2月4日、「ノー」と最終回答をする。市民婚は、民主党の大統領候補、リベラル派のディーン候補がバーモント州知事時代に制定した、いわば妥協策。だが、同性結婚推進派はこれに不満、あくまで男女の結婚と同じ扱いを主張する。そして、マサチューセッツ州では、この主張が勝ったのである。

 この結果、州当局に残された手段は、最高裁の判断を尊重して同性結婚を認めるか、それとも州憲法を改正して明確に禁止するかの選択となった。しかし、憲法改正には、州議会が今の会期と次の会期の2期連続して改正案を議決し、その上で06年11月の中間選挙時に住民投票を実施する必要がある。つまり、最高裁が指示した180日以内の解決は無理。結局、指示期限が切れる5月17日、州当局は7組の同性カップルの結婚届を受理することになり、米国で初めて同性夫婦が誕生しそうなのだ。


・同性婚禁止の憲法改正が大統領選の焦点に浮上

 ブッシュ大統領は2月4日声明を出し、「活動家の判事が結婚制度の変更をたくらんでいる。これに対抗して結婚の神聖さを守るには憲法上の手続きしかない」と述べた。ホワイトハウスに近い保守派関係者によれば、同大統領は連邦憲法を改正して同性結婚を禁止する方針を近く打ち出すという。同大統領は憲法改正について、これまで明確な支持を表明しなかった。しかし、マサチューセッツ州最高裁の判決で、問題が大統領選挙の焦点に浮上することが確実となり、この運動を推進する草の根有権者の支持を得ることが再選に欠かせなくなったのだ。

 ニューヨーク・タイムズとCBSニュースが12月中旬に実施した世論調査によれば、同性結婚について、反対は61%、賛成34%で反対が圧倒的に多い。また、バーモント州が認めている市民婚(Civil Union)についても、反対54%、賛成39%で反対が過半数を超す。一方、同性結婚を禁止するための連邦憲法改正については、賛成が55%、反対は40%だった。同性結婚合憲判決を出したマサチューセッツ州や市民婚を認めているバーモント州は最もリベラルな州だが、全米の世論はこの2州と違って、憲法改正によってこの動きを禁止すべきだという逆の主張なのだ。

 この有権者の動向は、ブッシュ大統領には極めて有利。一方、民主党候補には厳しいことになる。民主党有力候補4人のうち、同性結婚の支持者はいないが、市民婚にはケリー、ディーン、クラークの3候補が賛成、反対はエドワーズ候補1人。中でも、予備選レースのトップを走るケリー候補は96年制定の同性結婚を禁止する「結婚防衛法(Defense of Marriage Acts)」に反対した上院議員14人の1人として、保守派からマークされている。今後、予備選が南部や中西部の保守的な州に移るにしたがって、ケリー候補に対する風当たりが強まることは間違いない。


・全米に拡大する同性結婚禁止の動き

 同性結婚問題が米政治の重い課題になったのは、96年のハワイ州裁判所の判決からである。同州最高裁が「同姓結婚を認めないのは州憲法違反」という、今回のマサチューセッツ州と同じような判断を出した。州議会は対応策として市民婚に近い制度を検討したが、反対が多く立ち往生。訴えた同性カップル3組が州政府によって正式に結婚を認められそうな状況になった。

 これに危機感をもった共和党が連邦議会に「結婚は男女の結びつきに限る」とする結婚防衛法を提案。民主党議員多数も賛成して可決、反対はリベラル派ケリー議員などわずか14人だった。このあと、ハワイ州はじめ各州がこの結婚防衛法と同じ趣旨の州法を次々と制定、この動きは現在38州に広がった。そして、これに同調しないのは、市民婚を認めるバーモント州、それに市民婚とほぼ同じドメスティック・パートナー制度を05年から実施するカリフォルニア州、首都ワシントンD.C.だけとなった。

 しかし、結婚防衛法は連邦憲法や州憲法が保障する個人の自由、幸福追求の権利などに抵触し、憲法違反という疑問がある。そこで、保守派は憲法そのものを修正して同性結婚を憲法で禁止する運動を開始、今回のマサチューセッツ州最高裁の判決はこの運動に一層の弾みをつけることになった。今後、ブッシュ大統領が連邦憲法改正の方針を打ち出せば、運動はさらに重みを増すことも間違いない。また、同大統領にとっては、全米に広がるこの動きを味方につけることによって、下降気味の支持率を回復するねらいもある。


・リベラル派ケリー候補の重い課題

 この同性結婚をめぐる動きは米国だけのものではない。オランダは01年4月、結婚は異性間の結びつきだけでなく、同性間の結びつきも含めるという法改正をした。同性結婚の公認である。次いで、ベルギーも03年1月、同じ法改正を実施。また、カナダのオンタリオ州は03年6月、ブリティッシュ・コロンビア州が03年7月に同性結婚を認めた。カナダは04年中に全州が同性結婚と認めることになりそうだ。これら諸国に較べると、米国が憲法改正までして、同性結婚を押さえ込もうとしているほうが異例とも云える。

 同性結婚推進派によれば、米国で結婚することによって認められる諸権利は、相続権や扶養控除をはじめ州から約400件、連邦からは約1,000件に上るという。市民婚やドメスティック・パートナーの制度は、州が認める制度なので、権利は州からの約400件だけに留まり、連邦の権利は得られない。同性結婚推進派がこれらの権利の獲得だけを目的としているのでないことは明らかだが、結婚という文字が付くと付かないでは権利に大きな差があることはわかる。

 前期のニューヨーク・タイムズとCBSニュースの世論調査によれば、結婚を宗教的なことと考える米国人が53%、この人たちの71%が同性結婚に反対。一方、結婚を法的な結びつきと考える米国人は33%、この人たちの55%は同性結婚に賛成だという。つまり、この問題をめぐる米国内の対立は、結婚を神の前での結びつきと考えるか、法の前での契約とみるかの違いからと言えそうだ。ケリー候補をはじめとする民主党のリベラル派大統領候補が市民婚に対し過半数の支持を得るためには、この違いを乗り越える説得力を求められることになる。


掲載、引用の場合は持田直武までご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2004 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.