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北朝鮮の核危機(28) 日米が標的
持田直武 国際ニュース分析

2005年3月7日 持田直武

北朝鮮は2日、核問題に関する備忘録を発表、核兵器は米ブッシュ政権の敵視政策に対する自衛手段として開発したと述べて、核保有の正当性を主張。ミサイル実験も自粛する理由はないとし、発射実験の再開を示唆した。また、日本について、米国の召使であり、制裁発動をたくらんでいると非難、我々は注意深く見守っていると牽制した。核とミサイルは日米を標的にしているのだ。


・北朝鮮は米の敵視政策を非難、謝罪を要求

 北朝鮮は3月2日、核問題に関して米ブッシュ政権とやり取りした過去4年間の備忘録を発表、核やミサイル開発、6カ国協議などについて北朝鮮の主張を列挙した。そして、核開発について、「この問題はブッシュ政権の極端な敵視政策が原因で起きた北朝鮮と米国2国間の問題」と主張。「ブッシュ政権がこの敵視政策を続け、核の先制攻撃戦略を強化している以上、北朝鮮が自衛手段として核兵器を製造するのは当然で、今後も製造を続ける。北朝鮮は03年1月、NPT(核拡散防止条約)を脱退しており、核兵器製造に何の制約もない」と核開発の正当性を強調した。そして、この北朝鮮の立場は国際社会で、強い支持と連帯の動きを生んでいると述べている。

 また、問題解決についての北朝鮮の立場として、この備忘録は「核問題が米国の敵視政策で起きた以上、解決の鍵は、米が敵視政策を転換し、平和共存政策をとることだ」と主張。「しかし、米ブッシュ政権は2期目も、1期目と同じように平和共存を拒否して敵視政策を続け、北朝鮮人民が選択した政治体制の打倒に邁進している。このことは、ブッシュ大統領が1月20日の就任演説や、2月2日の一般教書演説で『圧制を終わらせる』と強調したことが示している」と主張した。

 また、6カ国協議について、備忘録は「我々の政府を否定する米国と、我々は同じテーブルに座ることはできない。それが6カ国協議であれ、2国間の会談であれ同じだ」と主張。出席する場合には、条件が満たされなければならないとして、次のような要求を列挙した。「米国が『圧制を終わらせる』という発言を撤回して、謝罪し、北朝鮮の体制変革を目指す敵視政策の放棄を明確にし、具体的な行動で示すこと」。そして、「これらの条件が整い、協議復帰の名分が立つなら、我々は協議に参加し、米国と交渉する」と述べて、ブッシュ政権の謝罪を要求した。


・ミサイル発射の再開示唆、標的は日米

 北朝鮮はまた、この備忘録で「ミサイル発射実験も自粛する理由はなくなった」と主張、実験を再開する可能性を示唆した。北朝鮮は99年9月、当時のクリントン政権とミサイルの規制問題を協議、対話が続く間は発射を凍結するとの合意をした。この合意は翌年10月、訪朝したオルブライト国務長官が金正日総書記と会談した際、延長された。しかし、北朝鮮は今回の備忘録で「ブッシュ政権の登場後、対話は完全に中断し、我々が発射凍結の合意に拘束される理由がなくなった。米国の敵視政策が我々の核兵器庫を強化しているのだ」と主張、核兵器とミサイル開発の促進を示唆した。

 また、備忘録はこれに続けて、日本にも言及。「日本は、北朝鮮が6カ国協議に無条件に復帰すべきだと主張し、経済制裁も口にしている。しかし、日本は米国の忠実な召使にすぎないのであり、主人の米国に加えて、召使まで協議に出席させる必要があるのか」と主張。「北朝鮮は、日本が経済制裁を課すという無礼な振る舞いを注意深く見守っている」と含みのある言い方をしている。備忘録の内容は核開発をめぐる米国とのやり取りが中心だが、日本にも言及したのは、北朝鮮の核とミサイルが米国だけでなく、日本も標的にしていることを誇示し、日本の動きを牽制したのだ。

 北朝鮮は2月10日、外務省声明で核保有宣言をしたが、小型化してミサイルに搭載できるか、どうかについては異論がある。米CIA(中央情報局)のゴス長官は2月16日、上院情報委員会で証言し、「北朝鮮は長距離ミサイル、テポドン2号に核兵器大の弾頭を搭載して、米領土に到達させる力がある」と証言した。しかし、同長官はその「核兵器大の弾頭」に、北朝鮮が核を装備できるかどうかについては言及しなかった。一方、日本に対する脅威としては、日本全土をほぼ射程内に収める中距離ミサイル、ノドンが約200基あると推定されている。テポドン・ミサイルの場合と同様、核弾頭を搭載できるかどうか不明だが、心理面で脅威が増したことは間違いない。


・国連の経済制裁など強硬措置に進むか

 北朝鮮の謝罪要求に対し、ブッシュ政権は取り合わないなど、強い姿勢だ。国務省リビア次官補代理は3月2日、上院外交委員会で証言したあと、記者団に「北朝鮮の要求は不適切」と語り、「北朝鮮は無条件で6カ国協議に戻り、言いたいことがあれば、その場で言うべきだ」と述べた。6カ国協議の他の4カ国、日韓中ロも「北朝鮮の無条件の協議出席」で足並みを揃えた。また、IAEA(国際原子力機関)理事会も3日、「無条件の6カ国協議出席」を要求する議長声明を満場一致で採択した。

 北朝鮮が発表した備忘録は「北朝鮮の立場は、国際社会で強い支持と連帯の動きを生んでいる」と述べているが、事実は逆であることを示している。今後、この周囲の圧力がさらに高まることは必至で、北朝鮮はいずれ6カ国協議に復帰せざるをえなくなるだろう。しかし、北朝鮮が協議に復帰しても、核放棄に応じるとは限らない。備忘録は、この点について次のように述べている。「ブッシュ大統領は去年の選挙運動で、北朝鮮に核廃棄をさせるとしばしば発言した。しかし、これは米国の思い違いだ。我々が辛苦して製造した核兵器を言われるままに廃棄するはずがない」。

 北朝鮮はまた、備忘録の中で、ウラニウム核開発の存在を重ねて否定。核の闇市場を通じてリビアに核弾頭の原料、六フッ化ウランを輸出したとの情報も否定した。ウラン核開発の存在については、これまで疑問を呈していた中国や韓国も存在を確信。日米韓中ロの5カ国が北朝鮮に廃棄を迫ることで足並みを揃えたところだ。5カ国が足並みを揃え、一方で北朝鮮が核兵器製造と保有の正当化を主張して態度を硬化した。6カ国協議でこの対立を解きほぐし、解決に持ち込めるのか。それとも6カ国協議の限界を各国が悟り、国連による経済制裁などの強制措置に進むのか、今の状況では後者の道に近づいているとしか思えない。

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