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日本の安保理常任理事国入りに暗雲
持田直武 国際ニュース分析

2005年5月2日 持田直武

国連改革の焦点、安保理拡大が宙に浮きそうだ。日本は常任理事国入りの有力候補として、ドイツ、インド、ブラジルと連携し、米英仏などの支持を確保した。だが、反日デモで揺れた中国が「日本の歴史認識」を理由に事実上の反対を表明。イタリア、韓国なども途上国を糾合して反対運動を展開し、国連世論は2分化。米政権内にも、安保理改革は困難と指摘する孤立派の主張が浮上している。


・改革をめぐって国連内は2分状態

 改革案は、米のスコークロフト元大統領補佐官、ロシアのプリマコフ元首相、日本の緒方貞子国際協力機構理事長など各国の代表16人で構成する高級諮問委員会が立案。 焦点の安保理改革については、次のような2つの案を提案した。

A案、常任理事国を6カ国増やし計11カ国とする。また、非常任理事国を3カ国増やし計13カ国とする。
B案、任期4年で改選のある準常任理事国8カ国を新設。また、非常任理事国を1カ国増やして計11カ国とする。

 アナン事務総長は3月20日、このA、B、両案の検討を加盟国に要請、9月の国連創立60周年記念総会前までの合意を勧告した。また、同事務総長は翌日の記者会見で、加盟国がA案で合意した場合には、「アジア地域を代表して、日本が常任理事国入りをする」との見通しを述べた。日本が米に次ぐ20%の国連分担金を負担していることや、平和維持活動(PKO)への人的貢献などを考慮すれば、当然のこととみられた。しかし、日本の常任理事国入りに対し、好意的な見方ばかりでないことは、まもなく事務総長がこの発言を取り消し「加盟国が決定する権利を封じる意図はなかった」と釈明したことが示した。

 日本はA案を支持することを表明し、同じようにA案を支持して常任理事国入りを表明したドイツ、インド、ブラジルとGー4を結成。4カ国が協力して、支持国の確保や、共同決議案の提出などを進め、9月の記念総会前までの決着を目指し、活発な活動を開始した。しかし、反対の動きも活発になる。4カ国と利害が対立するイタリアや韓国、パキスタンなどが、国連改革は加盟国の全会一致(コンセンサス)に基づいて進めるべきだと主張して、コンセンサス・グループを結成。同グループ主催の会合に100カ国余りの代表が集まるなど、国連世論は2分化の状態になった。


・中国の動きが米の改革慎重姿勢を誘発

 日本などG−4グループは、改革の枠組みを定める共同決議案を作成し、5月に各国に示して共同提案国を募り、6月に国連総会に提案、9月の記念総会前に採択という日程を組んだ。そして、決議案では、常任理事国はA案に沿って6カ国増とし、総会で新理事国を選出することでも合意した。しかし、新常任理事国が拒否権を持つかどうかについては、G−4内にも慎重論があり、まだ決まっていない。インドは現常任理事国と同様、新理事国も拒否権を持つべきだと強く主張しているが、現常任理事国が既得権の維持に固執して、これに抵抗するのは確実。これが原因で改革自体が頓挫しかねないとの懸念もある。

 もう1つ懸念は、中国の反対である。日本外務省の票読みによれば、日本の常任理事国入りを支持する国は80カ国余。現常任理事国のうち、米英仏も公式に支持を表明し、ロシアもアレクセエフ外務次官が「協力は惜しまない」と発言した。しかし、中国は4月12日、温家宝首相が訪問先のインドで、記者団に対して「歴史を重視し、歴史に対して責任を持とうとする国だけが、国際社会の中でさらに大きな役割を果たすことができる」と述べ、日本には安保理入りの資格がないとの見解を表明した。

 中国はまた、9月の記念総会前の合意についても反対している。同国の王光亜国連大使は4月6日、総会本会議の演説で「結論を急がず、全会一致の合意に達するまで協議を重ねるべきだ」と主張、全会一致を主張する韓国やイタリアなど「コンセンサス・グループ」の主張に歩調を合わせた。翌日にはさらに、米のタヒルヘリ国務長官上級顧問も「期限を設定せず、幅広い合意を」と演説し、「コンセンサス・グループ」を喜ばせた。ブッシュ政権は日本の常任理事国入りを支持しているが、次期国連大使に指名されたボルトン国務次官は4月11日、上院外交委員会で、「安保理改革は困難」と指摘。同政権内に慎重論が強いことを示した。中国の動きがその背景にあることは間違いなかった。


・中国が反対する理由、噛み合わない小泉首相の説明

 中国は日本の常任理事国入りに対し、「資格がない」と事実上の反対を表明したが、他の国に対してはそうではない。G―4グループのうち、ドイツ、インド、ブラジルの3カ国には常任理事国入り支持を公式に表明した。日本には資格がないとする理由について、人民日報の日本語電子版は4月20日、唐家?国務委員が先に訪中した共同通信社の山内豊彦社長と会見で、次のように語ったと伝えた。日本の常任理事国入りを留保する中国政府の公式見解である。

「日独両国はともに第二次世界大戦の加害国だが、ドイツはナチズム、ファシズムの復活を禁じる法律をはるか以前に制定している。日本は今なお依然として侵略の歴史を美化する歴史教科書の出版を許している。1970年代にドイツのブラント首相はワルシャワのゲットー犠牲者慰霊碑の前でひざまずいて懺悔した。日本の首相は毎年のようにA級戦犯がまつられている靖国神社を参拝している。両者の差はとても大きい。侵略の歴史を正しく反省できず、被害国の国民感情を正しく理解できない国が、なんと安保理の常任理事国になろうとしていることに、中国の民衆は本当に理解できないのだ。・・日本政府はかつて反省と謝罪の念を抱き、被害国の国民感情への理解と尊重を表した。・・しかし、日本政府は今、首相の靖国神社参拝は民族文化の伝統であり、政府は歴史歪曲教科書に口出しする権利はないとただ強調するばかりで、隣国の国民感情を外部からの干渉だと見なして、すべて排斥している。日本の外交におけるこのような政策は、果たして隣国や国際社会の信用と支持を得るだろうか」

 この中国側の主張に対し、小泉首相は4月19日、記者団が「首相の靖国神社参拝が中国側の感情を傷つけていると云われるが」と質問したのに答え、次のように述べた。
「私はそうではないと思いますね。私は不戦の誓いと戦没者への哀悼の念で参拝している。各々の国に歴史、伝統があり、考え方も違うからだ」
小泉首相の何時もの通りの短い答え。短いなら短いなりの内容があってしかるべきだが、それは見当たらない。安保理改革をめぐって日中が争い、国際社会が関心をもって双方の動きを見守っているときである。この日中当局者の発言を比較して、各国がどう判断するかを考えなければならない。中国がかねてから国際社会に対する宣伝戦に優れているという定評があるが、この小泉首相の発言は国益を損じかねない。


・日中の対立を理由に安保理改革先送りか

 ブッシュ政権の次期国連大使に指名されたボルトン国務次官は上記の上院外交委員会の証言で、「安保理改革が困難」と判断する理由について、常任理事国入りを主張する国が増え、安保理の構成を変えるのが難しいことや、日本の常任理事国入りに中国が消極的で問題が複雑化していることなどを挙げた。また、今度の国連改革案をまとめた高級諮問委員会の委員スコークロフト元米大統領補佐官も産経新聞のインタビューに答え、「国連内部の意見がまとまらないため改革は難しい」との悲観的見解を明らかにしている。

 しかし、同時に米国をはじめ現在の常任理事国が改革に熱心でないことも隠れもない事実だ。アナン事務総長が9月の記念総会を期限として加盟国に合意するよう勧告したのに対し、まず中国、次に米、最近になってロシアも期限の設定に反対。いずれも、「幅広く合意を得る必要がある」という理由だが、これは当面棚上げを図るというのと同じと見られている。日本などG−4が推進するA案の改革は常任理事国を6カ国増やして計11カ国とする。現在の常任理事国5カ国体制でも、米のイラク攻撃時に意見が分裂したが、11カ国となればさらに複雑化し、意思決定が容易でないだろう。

 ブッシュ政権は日本の常任理事国入りをいち早く支持したが、その一方で安保理改革そのものについては、A案、B案のいずれを支持するとも決めていない。建物の設計を決めないで家具を決めたような、不自然さが隠せない。勘ぐれば、日本の常任理事国入り支持はリップ・サービスで、本心は「改革は困難」と指摘したボルトン国務次官の証言にあるという見方もできる。日本と中国の対立は、そのための格好の材料として利用されると考えたほうがよいかもしれない。


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