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テロ組織、アルカイダを潰せるか
持田直武 国際ニュース分析

2005年5月30日 持田直武

イラク・アルカイダのリーダー、ザルカウイが負傷してイランに逃げたという。同組織のインターネット・サイトも負傷を認める声明を流した。一方、9・11事件の容疑者、ビン・ラディンも、米情報機関とパキスタン軍によって、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯に追い詰められているという。これで、アルカイダを潰すことができるのだろうか。


・肩と胸の中間を撃たれ、イランへ?

 ザルカウイ負傷のニュースが最初に流れたのは5月24日。彼のテロ組織、メソポタミヤ・アルカイダが同組織のインターネット・サイトに声明を発表、負傷を公表した。内容は「我々のリーダーが名誉ある負傷をしたことを皆に知らせる。我々はリーダーの回復を祈り、敵に対する包囲網を一層強化しなければならない」という短いものだった。その後、同組織は何回かインターネット・サイトに負傷関連の情報を掲載したが、負傷した日時や負傷の程度などは明らかにしなかった。

 より詳しい情報が伝わるのは5月29日、英紙サンデー・タイムズがイラク武装勢力の上級指揮官のインタビュー内容を伝えてからだった。それによれば、ザルカウイはインタビューの3週間前、イラク北西部クエイム市近くを車列で移動中、米軍のミサイルが至近距離に着弾。右肩と胸の中間に破片2個を被弾、一個は背中に抜けたが、一個は体内に残った。隠れ家で応急手当をしたが、4日後高熱で意識が混濁したため、バグダッド西110キロにあるラマディ市の病院に移した。その後、国境を越えてイランに逃げたが、必要なら、さらに別の国に向かう可能性もあるという。

 サンデー・タイムズはザルカウイの負傷した日時やインタビューの日付を公表していないため、ラマディの病院に行った日は特定できない。しかし、5月5日のワシントン・ポストによれば、テロ組織がラマディのモスクなど2箇所あてに、「ザルカウイが4月28日、ラマディの病院に行った。米軍が来たが、捕まえることができなかった」という内容の手紙を送ったことがわかっている。また、バグダッドの米軍スポークスマンも「4月28日、ラマディの病院にテロ集団が現れたとの情報があり、捜索した」と認めた。これらの事実から、ザルカウイが負傷したのは、病院に行った28日の4日前で、その後イランに逃げたと見られるのだ。


・ザルカウイがビン・ラディンの衣鉢を受け継ぐ

 ザルカウイはヨルダン生まれで推定39歳。米軍のイラク進攻後、テロ組織メソポタミヤ・アルカイダを結成、人質の首切り事件、要人暗殺、自爆テロなどを操り、斉藤昭彦さんを殺害したアンサール・アルスンナと並んで、イラクでもっとも警戒されるテロ組織をつくりあげた。イラクで最近起きている1日約50件のテロや襲撃事件のうち、20%は両組織が関係していると見られている。9・11事件の容疑者、ビン・ラディンは04年12月に出したビデオテープで、ザルカウイを「アルカイダのプリンス」と称賛、組織をあげて支援すると約束した。

 しかし、そのビン・ラディンは、パキスタンのカスリ外相によれば、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯に追い詰められている。同外相は、「ビン・ラディンのテロ組織アルカイダは、パキスタン軍の攻撃でマヒ状態になり、ビン・ラディンは少数の部下と頻繁に場所を変えて逃げている」と述べた。パキスタン軍はアルカイダ幹部のうち、ナンバー3と言われたモハメッドを03年3月に逮捕、後任のアルリビも今月2日に逮捕。もう1人の幹部、アルイエメニは5月7日、米情報機関が無人偵察機によるミサイル攻撃で殺害した。ビン・ラディンは外部とのコミュニケーションを遮断され、頻繁に出していたビデオやオーディオによるメッセージも去年暮れ以来出していない。

 このビン・ラディンの後退が、ザルカウイの存在を大きくしたことは間違いない。ワシントン・ポストによれば、テロ組織のインターネット・サイトの中には、自爆テロを敢行した若者の名簿を掲載しているものがあり、同紙の計算では、その数は250人にのぼるという。その多くはザルカウイの組織、アルカイダ・メソポタミヤに惹き付けられて活動に入ったとみてよいという。ビン・ラディンを中心とするアルカイダ系のテロリスト第一世代は1979年から10年間、ソ連のアフガニスタン占領に抵抗してゲリラ活動を展開。その過程で過激なテロリストに変身したが、今はイラクで、ザルカウイがその役目を果たしている。


・中産階級出身、高学歴のテロリストたち

 イラクでジハド(殉教)を敢行する過激派テロリストは、米軍の推定では約1,000人とみられている。外国出身者は、サウジアラビアからが最も多い。いずれも、「9・11事件の19人の英雄たちに続け」というスローガンに惹きつけられて参加している。自爆テロの敢行者もイラク出身者より、外国からの若者のほうが多い。戦闘経験がほとんどないまま死んでゆく若者もいる。アフガニスタンの場合、自爆テロはほとんど見られなかったが、この点イラクはまったく違っている。

 米CIAの元エイジェントで作家のマーク・セイジマン氏は5月24日のCNN(電子版)で、テロリストの多くは、高学歴、裕福な家庭出身、信仰心は厚くない、この3つの特徴を持つという調査結果を発表した。これまでは、テロリストは、貧しく、低学歴、原理主義的な宗教環境に長時間置かれていた、などの環境が背景になるというのが一般的な理解だった。しかし、同氏がテロリスト162人のケースを実際に調査した結果では、この考えはまったく当てはまらないという。貧しく、教育の機会の少ないイスラム社会で、テロリストは裕福な家庭に生まれ、大学に行き、宗教面でも自由な雰囲気に慣れた特権階級ということになる。

 このテロリストの傾向が前からのものか、最近現れた特徴かはまだわからない。しかし、セイジマン氏は、今後はビン・ラディンが計画した9・11事件のようなテロはなくなり、04年3月11日のマドリッドで起きた列車爆破事件のようなテロが多くなると警告した。ビン・ラディンに代わって台頭したザルカウイのテロ活動がこれを予告しているという。彼のテロ組織は5月27日、ザルカウイが健在で、今後も活動の指揮を執るという声明を出した。イランで負傷を治す見通しがついたとも受け取れる。ビン・ラディンを押さえ込んでも、ザルカウイのような新手のテロリストが今後も次々と現れる素地があるのだ。


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