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6カ国協議、見通しは不透明
持田直武 国際ニュース分析

2005年7月11日 持田直武

北朝鮮が協議の再開に応じたが、進展の保証はない。核廃棄の基本戦略、対話と圧力をめぐって、日米韓中ロ、特に米韓中の足並みが揃っていない。韓国は新提案を仄めかし対話促進に意欲的だが、米ブッシュ政権は北朝鮮に懐疑的。だが、中国が国連安保理上程による制裁に反対。韓国は如何なる場合でも、軍事行動に反対を表明し、米の動きを封じている。


・北朝鮮の協議復帰の意図

 北朝鮮が7月9日、6カ国協議への復帰を発表する直前、同国の金桂寛外務次官と米国務省のヒル次官補が北京の中国外務省付属施設で夕食をともにしながら会談した。ワシントン・ポストによれば、金桂寛外務次官はこの席で「7月25日からの週、北京で開く6カ国協議に参加する」と伝えた。同次官はまた「参加の目的は、朝鮮半島の非核化について話し合うため」とも発言した。これに対し、ヒル次官補はブッシュ政権がこれまで繰り返してきた立場を外交的メッセージとして伝え、交渉するようなことはしなかったという。

 北朝鮮外務省はこのあと、朝鮮中央通信を通じて「6カ国協議に復帰する」という声明を発表し、その理由を次のように説明した。「米側は北朝鮮を主権国家として承認する立場を公式に表明、北朝鮮を侵略しないこと、6カ国協議の枠内で2国間交渉に応じることを約束した。この米国の立場の表明は北朝鮮を圧制の拠点とする見解を取り消したものと理解し、6カ国協議に復帰する決定をした」。

 6カ国協議復帰については、金正日総書記が6月17日、韓国の鄭東泳統一相と会談した際、「米国がわれわれを認め、尊重しようとする意思が確固たるものであれば、7月中にも応じることができる」と条件付ながらも復帰の意思を示した。北朝鮮の今回の復帰声明は、米側がこの条件を満たしたとの判断のようだが、「主権国家」や「侵略しない」などの問題については、ブッシュ政権幹部が前々から繰り返し約束している。また、「6カ国協議内での2国間交渉」も過去の協議の場ですでに実現している。これらの点を考えると、北朝鮮が挙げた復帰の理由は不可解、その意図は不明としか言いようがない。


・韓国は意欲的な提案を連発

 6カ国協議は再開されれば、1年1ヶ月ぶり。この間、北朝鮮は核保有国宣言をし、米国と対等の立場で軍縮交渉を提案するなど姿勢を大きく変えた。ブッシュ政権はこれを無視したが、韓国は北朝鮮に対する新しい動きを次々と見せる。鄭東泳統一相が訪朝して金正日総書記と会談したのも、その1つだ。同統一相はこの会談で、核問題解決のための「盧武鉉大統領の重大な提案」を伝えたことも明らかにした。韓国政府はこの「重大な提案」の内容は明らかにしていないが、鄭東泳統一相は7月初め訪米して、チェイニー副大統領やライス国務長官と会談。この提案と、米国が04年6月の6カ国協議で示した提案内容と合体させるよう求めたが、米側は乗らなかったという。

 韓国の独走だが、盧武鉉大統領はこの動きを止めなかった。同大統領は7月1日、大統領官邸で開かれた民主平和統一諮問会議で、「北朝鮮の核問題が解決した場合、韓国は、IT分野をはじめ、SOC(社会的間接資本)分野、観光協力の面など、いろいろな面で協力する」と演説する。また、統一省も6月28日、「核問題が解決に向かう場合、韓国政府は北朝鮮の経済支援に向けた7大事業の推進を計画している」と述べ、次のような項目をあげた。南北テスト農場の造成、農業用資材工場の建設、ケソン鉱業団地や金剛山地域に対する電力供給、老朽化した火力発電所の補修、京義線や京原線の鉄道近代化、南浦や元山港の拡充などである。

 韓国が核問題を機に、大規模な対北朝鮮投資を計画していることがわかる。それは、これら経済協力面だけではない。盧武鉉大統領は7月7日、大統領官邸で記者団に対し、「(核問題が)どのような状況になっても、米国が軍事力を行使することを韓国は許さない」と語った。同大統領は過去にも何回か同様の発言をしたことがあるが、今のように大規模な経済協力計画と並行して、この発言をする場合、及ぼす影響が違ってくる。ブッシュ大統領は武力行使も選択肢の一つという姿勢をかつて隠さなかったが、最近それが窺えなくなっている。韓国の姿勢がブッシュ大統領の選択肢を狭めていると見ても間違いないだろう。


・ブッシュ政権の手を縛る制約の数々

 現在の核危機が表面化した02年10月、ブッシュ大統領は「外交的手段で核問題を解決する」との方針を掲げたが、同時に最後の手段として、「武力行使」も排除しないとの姿勢を示すことも忘れなかった。しかし、今は同盟国、韓国の反対のほか、武力行使に必要な兵力の工面がイラク戦争のためにつかず、武力行使は選択肢から除外せざるをえなくなってしまった。また、もう一つの圧力、経済制裁には、中国が反対し、国連安保理への提訴の道も閉ざされている。ライス国務長官が訪中して胡錦涛主席と会談したが、この面での中国の姿勢はかわらないだろう。

 中国と韓国はこうして米ブッシュ政権の選択肢を制約する一方で、ブッシュ政権がより柔軟な姿勢を取って北朝鮮と対話をするべきだと主張している。上記のように、韓国はブッシュ政権が04年6月に提案した内容と、先ごろ鄭東泳統一相が金正日総書記に示した「重大な提案」とを合体させるよう主張しているのも、その1つの現れと見てよいだろう。米側はこれに乗らなかったが、ニューヨーク・タイムズによれば、ブッシュ政権は中国からも同じような圧力を受け、抵抗しているという。

 ブッシュ政権が韓国や中国の主張に同調できない背景には、議会の動きも無視できない要因となっている。下院は6月30日、北朝鮮の拉致行為を糾弾する決議案を採択。「北朝鮮が日本人の拉致事件はじめすべての拉致事件を完全に解決するまで、テロ支援国リストから北朝鮮を除外してはならない」と決議した。テロ支援国に対する経済協力や支援は大幅に制限される。ブッシュ政権が北朝鮮に経済支援を計画しても、同国をテロ支援国に指定している限り、実現は難しい。議会が、ブッシュ政権に対して中国や韓国の要求に屈しないよう圧力をかけているのだ。


・ブッシュ政権が困惑する3つの難問

 ニューヨーク・タイムズによれば、ブッシュ政権幹部たちは、核交渉妥結には3つの越えなければならない難問があると見ている。1つは、北朝鮮が交渉によって、すべての核開発計画を放棄するか疑問があること。ブッシュ政権は、北朝鮮はプルトニウム核開発とウラニウム核開発の2つを進めていると見ているが、北朝鮮は前者の存在しか認めず、後者については存在を否定している。北朝鮮がこの立場を変えない限り、問題の解決はあり得ないというのが、ブッシュ政権の立場である。

 第2の難問は、信頼感の欠如から起こる問題である。ブッシュ政権は、北朝鮮がまず核開発を先に放棄し、米国はそれを確認してから補償措置を取るとの立場だ。しかし、北朝鮮は核開発を先に放棄すれば、ブッシュ政権が約束どおりの補償をするのかどうか、疑っている。双方の不信は根強く、この解消も容易ではないだろう。また、第3の難問は、監視の問題である。北朝鮮は03年1月、国際原子力委員会(IAEA)の監視チームを国外追放し、核拡散防止条約(NPT)から脱退したが、国際監視システムをこのように扱った前歴の国を信用するのは難しい。

 ブッシュ政権は上記のような難問の解消が先決と考えるのに対し、韓国や中国は、北朝鮮に核放棄の誘引策を示すことが優先するべきだと主張している。今回、北朝鮮が6カ国協議復帰を決めたのも、韓国が大胆な経済支援計画を打ち出したことが効果を挙げたと解釈している。しかし、ブッシュ政権はこのような見解には同意していない。北朝鮮はこのような米韓中3カ国の確執を十分知ったうえで、今回6カ国協議復帰を決めたことは間違いない。その真意がどこにあるのか、それがわかる状況が来るのか、どうかさえも定かではない。 ただ、ブッシュ政権が6カ国協議を開始した頃に比べ、指導力を失ったことだけは、きわめてはっきりした。


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