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北朝鮮が核実験を予告
持田直武 国際ニュース分析

2006年10月8日 持田直武

北朝鮮が外務省声明で核実験を予告した。「米の制裁によって、我が民族は生か、死かの境目。生き延びるには、核抑止力の強化しかない」と主張し、制裁で追い詰められた様子も窺わせる。実験すれば、制裁はさらに強化されることも確実。しかし、北朝鮮は実験に踏み切るとの見方が強い。


・米朝の主張は噛み合わず

 北朝鮮外務省の声明は、核実験をする理由として「米国による核戦争の威しと制裁によって、我が民族は生か、死かの境目に立った。もはや核抑止力を強化するしか生き残る手段はない」と主張。対決の相手を米国だけに絞っている。この声明を3日から4日にかけて、海外と国内向けに繰り返し流した。国内にも伝えたのは、北朝鮮指導部が今後の事態の緊迫化を予測しているからだろう。声明は実験の時期については触れていないが、早い時期に実施するとの見方が強い。

 これに対し、米は3日強い調子のメッセージを平壌に直接送った。6カ国協議の米代表ヒル国務次官補の説明によれば、メッセージは、「核実験をすれば、米は断固とした行動を取る」と警告。北朝鮮がかねてから要求している米との直接交渉についても「6カ国協議の場で交渉する」と述べ、北朝鮮の要求を拒否した。北朝鮮の核実験の脅しに屈しないとの強い姿勢を示し、話合いの場は6カ国協議しかないとの従来からの姿勢を繰り返したものだ。

 国連安保理も6日、北朝鮮に実験の中止と6カ国協議への復帰を要求する議長声明を満場一致で採択した。国際社会は6カ国協議に期待をかけるが、北朝鮮の見方は同じではない。今回の北朝鮮外務省声明は、明らかに6カ国協議を指して、「現在、ブッシュ政権は期限を切って我々に屈服を要求、応じなければ懲罰をするという最後通牒を突きつける状況になった」と主張。6カ国協議への復帰要求を最後通牒に例えている。米朝がこの立場に留まる限り、局面の打開はなく、北朝鮮は実験に進むだろう。


・核実験実施後の緊張激化は必至

 国連安保理は6日の議長声明で、「北朝鮮が国際社会の呼びかけを無視して、行動すれば、安保理は国連憲章に基づいて行動する」と述べ、制裁の発動を示唆した。その場合、日米はじめ欧米各国は国連憲章7条に基づいた強制措置を含む制裁を念頭に置いているが、中国やロシアは必ずしも同じではない。安保理内の調整が難航すれば、日米など強硬派は有志連合を組んで制裁を実施することになるだろう。

 ニューヨーク・タイムズは6日、ブッシュ政権が、北朝鮮の核実験に備え、新たな制裁リストを作成していると伝えた。その中には、韓国と中国が北朝鮮との貿易を中止するよう説得すること、特にエネルギー供給の中止を説得する。これは、過去にも試みて成功しなかったが、再度試みるという。また、北朝鮮に出入する全船舶の臨検など、武力対決覚悟の措置も検討している。同紙は触れていないが、韓国が進めている開城工業団地開発や金剛山観光の中止も対象になる。

 これらの措置を実施すれば、北朝鮮が窮地に陥ることは間違いない。北朝鮮はすでに米の金融制裁によって外貨を遮断され、追い詰められた。これに加え、中国からの原油や金剛山観光からの外貨の停止は、金正日体制には死活の問題。北朝鮮国内は混乱し、軍部の暴発や脱北者が大量に中国に押し寄せることもあり得る。今のところ韓国と中国は核実験後の対応について触れていないが、両国がどう出るかが、今後の地域の状況を大きく左右することになる。日本も、万景峰号の入港禁止を手始めに制裁を拡大しており、万一の場合、対岸の火事では済まない。


・核開発のドミノ現象が起きるか

 北朝鮮が核実験をした場合、もう一つの懸念として挙げられるのが、核兵器開発のドミノ現象が起きることだ。米下院情報委員会は9月25日、「北朝鮮の脅威」を分析した報告書をまとめ、「北朝鮮の核実験が、日本、韓国、台湾の核兵器開発を触発し、地域の安保状況に深刻な影響を及ぼす恐れがある」と指摘。「米情報機関は今後もこの件について厳重な監視を続ける」と強調した。北朝鮮が核実験の予告をする1週間前の報告だが、核実験をすれば、こうした見方はさらに広まるに違いない。

 日本では、世界唯一の被爆国として核廃絶の世論が圧倒的、核兵器開発は問題外だ。しかし、日本は世界有数の核技術を持ち、プルトニウムも原子力発電の副産物として大量に抱え込み、短時日で兵器化は可能である。世論がその気になるかが問題だが、これも変化しないとは言い切れない。拉致問題の表面化が、日本国内の安保意識を逆転させ、偵察衛星を3個も朝鮮半島上空に打ち上げたからだ。海外からみれば、米下院情報委員会の報告書を疑う理由はないことになる。

 韓国も1970年代、当時の朴正熙政権が核兵器開発に乗り出し、米と確執の挙句断念した経緯がある。その後も、プルトニウムの抽出など核兵器開発につながる行動が何度か表面化した。北朝鮮の核実験予告のあと、5日付けの朝鮮日報は「安倍首相が02年5月の講演で『日本が核兵器をもつことは憲法上何ら問題ない。決心すれば1週間以内に持つことができる』と語った」と伝えた。そして、韓国の核問題専門家の「韓国だけがじっとしているわけにはいかない」という発言を引用、最近はこうした主張に共感する人が増えていると指摘した。韓国の世論も流動している。


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