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6カ国協議 米中が鍵を握る
持田直武 国際ニュース分析

2006年12月10日 持田直武

北朝鮮が予想どおり核保有国の立場を宣言。金桂寛外務次官は「一方的な核の放棄には応じられない」と主張した。核放棄の見返りに経済支援という日米韓の提案を拒否し、北朝鮮の核放棄には、米も核放棄で答えるべきだという主張だ。協議を再開しても、北朝鮮がこの主張を続けるかぎり、進展はないだろう。政権転覆も視野に入れる米、交渉重視の中国、両国の今後の出方が鍵となる。


・北朝鮮の核放棄は米の核の傘撤去が条件

 6カ国協議再開をめぐる交渉の過程で、北朝鮮は2つの強気の立場を鮮明にした。1つは、核保有国の立場。もう1つは、核兵器の一方的放棄を拒否する立場である。6カ国協議代表の金桂寛外務次官は11月27日、米のヒル国務次官補と会談のため北京入りした際、空港に待ち受けた記者団に対し、「堂々とした地位で話が出来る」と胸を張った。核保有国として米と対等の立場で交渉するという姿勢の誇示だった。

 また、同次官は28−30日、ヒル次官補や韓国の千英宇朝鮮半島平和交渉本部長と会談したあと、核放棄についての記者団の質問に対し、「朝鮮半島の非核化は偉大な指導者の遺訓であり、我々は6カ国協議の共同声明で約束した核放棄を履行する準備がある」と答えた。しかし、同次官は同時に「現段階では、一方的な核の放棄には応じられない」とも付け加えた。核放棄には条件が付くとの主張だが、問題はその条件がどのようなものかだ。

 これに関連して、ロシアのインターファクス通信は12月6日、香港の北朝鮮外交筋が同通信に対して「北朝鮮が核放棄をするには、米国が韓国とその周辺諸国から核兵器を撤去しなければならない」と語ったと伝えた。北朝鮮の核放棄は、米が日本や韓国に提供している核の傘を撤去することが条件というのである。同外交筋はまた「ヒル次官補の提案はこの点に触れていない」と不満を表明した。同外交筋は北朝鮮のミサイル発射や核実験の際にもしばしば発言し、北朝鮮首脳の意向を代弁した。今回の発言も、北朝鮮首脳の意向を反映したものと見てよいだろう。


・北朝鮮国内で「援助に騙されるな」のキャンペーン

 ヒル次官補は11月28、29の両日、15時間にわたって金桂寛次官と会談し、米側の提案を説明した。ニューヨーク・タイムズが12月6日、米政府高官の話として伝えた内容によれば、米の提案は、北朝鮮が核兵器と核技術を放棄すれば、経済とエネルギー支援をすると約束し、具体的内容を詳細に示している。その中には、米国だけでなく日本や韓国も食糧支援をすることや、米が科している金融制裁の解決方法を米朝両国で協議することも含まれている。そして、経済支援は、北朝鮮が核兵器の製造施設の破壊に同意した時点で開始するという。

 米側の説明によれば、北朝鮮側はヒル次官補の説明を熱心に聞いた。このため、米代表団内には、前向きの回答を期待する楽観論も生まれた。しかし、これまでに北朝鮮側が示した反応は前向きとは言えない。上記のように、金桂寛次官はヒル次官補と会談した翌日「現段階では、一方的な核放棄には応じられない」と主張。12月6日には、香港の北朝鮮外交筋が米の核の傘撤去要求をした。また、北朝鮮国内では、これに並行して朝鮮中央通信や労働新聞が核兵器保有の意義を強調し、「帝国主義者の援助に騙されるな」と警告するキャンペーンを始めた。

 朝鮮日報によれば、その1つ、12月1日の労働新聞の「死と隷属、亡国の道」という署名入り論説は、「西側諸国は東欧の社会主義国が資本主義を選択すれば、大規模な援助を与えると騒いだが、受け取った援助は僅かだった。また、アフリカの国家元首が大量破壊兵器を放棄する代償として、米など西側諸国が補償を与えると約束したが、約束はまったく実行されていない」などの具体例を列挙。「帝国主義者が振りまく甘言、すなわち援助のエサに惑わされるのは破滅の道」と主張した。


・今後の鍵は米中が握る

 6カ国協議が近く再開されるとの見方もあるが、北朝鮮がこの立場を続ければ、再開しても進展は見込めない。米が北朝鮮の核放棄と引き換えに、東アジアの核の傘を撤去することはあり得ないからだ。北朝鮮もそれを十分知って要求しているのも明らかで、本音はそれを理由に、核保有を続けることだろう。北朝鮮の核交渉責任者、姜錫柱第一外務次官は11月22日、ロシアからの帰途立ち寄った北京空港で、記者団が核放棄について質問すると、「どうして放棄できるのか。放棄するために核を作ったのか」と反論したが、これが本音だと見るべきだ。

 米の新聞ワシントン・タイムズは11月3日、「国防総省が北朝鮮の核施設攻撃の立案を急いでいる」と報じた。攻撃対象は使用済み核燃料棒の再処理施設などで、10月の核実験のあと作業が加速したという。同紙は保守強硬派の主張を反映することで知られ、この記事もブッシュ政権内の強硬派が北朝鮮への圧力を狙って漏らしたようだ。同政権は制裁と交渉の両輪で、問題の解決を図る方針を変えていない。政権転覆も視野に制裁をさらに強化する可能性もある。しかし、それが功を奏すには、中国の協力が不可欠であることも間違いない。

 中国は北朝鮮のミサイル実験、核実験と続く一連の過程で、ブッシュ政権と協調関係を強めた。しかし、石油の供給を依然続け、日用品の流入も続いている。ブッシュ政権が制裁を強化しているのに対し、中国は現状維持優先で交渉重視の姿勢を依然変えない。しかし、今後北朝鮮が核放棄をしない姿勢を鮮明にしたとき、中国がどう出るか。米と歩調を合わせて行動するか、どうかが、問題に決着をつける鍵になるだろう。


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