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6カ国協議は成果なし
持田直武 国際ニュース分析

2006年12月24日 持田直武

6カ国協議は泰山鳴動して鼠一匹も出なかった。北朝鮮は核問題の交渉に入る前提として、米の金融制裁解除を要求。関心は米朝金融制裁交渉に移り、6ヶ国協議は空洞化した。米朝は金融制裁交渉を1月中旬に再開するが、解決には時間が必要。北朝鮮はその間、核保有の既成事実化をねらうに違いない。


・北朝鮮のねらい通り核協議は空転

 北朝鮮の6カ国協議代表、金桂寛外務次官は18日の基調演説で、核保有国としての立場を前面に出して次のような主張した。

1、 核問題の討議に入る前提として、米の金融制裁と国連の制裁解除を要求する。
2、 核問題の討議は、米の核の傘も含む軍縮交渉にする。
3、 制裁を強化するなら、北朝鮮は核抑止力をさらに強化する。

 この北朝鮮の要求は、米の金融制裁や国連の制裁は米の敵視政策の現われだとの主張に基づいている。そして、北朝鮮の核兵器開発はそれに対抗するための正当な主権行為であり、違法ではないという。したがって、核問題は、軍縮交渉として米朝が対等の立場に立って交渉するべきで、制裁を科された立場で交渉はしないという主張だ。この主張自体は、北朝鮮はこれまでにもしばしば表明してきた。しかし、6カ国協議の核交渉に入る前提として金融制裁解除を要求するのは今回が初めてだった。

 米の6カ国協議代表、ヒル国務次官補はこれを聞いて「忍耐の限界を超えた」と反発した。米側は今回の協議で、北朝鮮が共同声明で約束した核放棄の履行手順を決める腹づもりだった。金融制裁問題は、財務省のブレイザー次官補代理が6カ国協議とは別枠で北朝鮮側と協議し、核問題と切り離す考えだった。しかし、北朝鮮は金融制裁解除を核問題協議の前提として要求。この結果、金融制裁協議に焦点が移り、核問題は何の進展もなかった。北朝鮮のねらい通りの結果だった。


・金融制裁の解除の見通しはなし

 米の金融制裁は、マネーロンダリングや偽札製造を禁じる米国内法、それに9・11事件後のテロ戦争の一環として制定した愛国法に基づく措置で所管は財務省。同省は、北朝鮮製造の偽ドルのマネーロンダリングに便宜をはかったとして05年9月、マカオの銀行バンコ・デルタ・アジアを「マネーロンダリング容疑銀行」に指定。香港、シンガポールなど各地の銀行にも警戒を呼びかけた。また、偽ドル流通に関係したとして05年10月、アイルランド労働党のガーランド党首を身柄不拘束のまま起訴、現在も追跡している。

 これに対し、北朝鮮は05年11月の6カ国協議で、米に対してこれら措置の解除を要求。米が応じなかったため、同協議は途中で打ち切り同然になった。米側は、これら一連の措置は「金融システムを護るための国内法の発動」として特に北朝鮮をねらった制裁措置ではないと主張。北朝鮮が要求するなら、米財務省の担当官が北朝鮮側に直接説明すると提案していた。今回6カ国協議と並行して、米財務省のグレイザー次官補代理が北朝鮮の呉光鉄朝鮮貿易銀行総裁と2日間にわたって会談したが、結論は出なかった。米側は説明すること以上に踏み込むことはしなかったと見られる。

 米朝は1月中旬、ニューヨークで両者の会談を再開するが、そこで結果が出ると期待する向きはまずない。米が取った措置は、ガーランド党首の起訴に見られるように犯罪行為として司法当局が最終的に処理する必要がある。北朝鮮関係者の関与もからむことも十分考えられ、当然解決までには時間がかかる。国務省が外交上の配慮で解決を急ごうとしても、財務省が応じるとは限らない。北朝鮮もこれを十分に知って、核問題の交渉開始の前提としたと見ることも出来る。その間、核保有を既成事実として国際社会に認めさせる時間稼ぎが出来るからだ。


・6カ国協議はたがの締め直しが必要

 北朝鮮の金桂寛外務次官は6カ国協議が終わった22日の記者会見で、「米国が北朝鮮に対する敵視政策を放棄し、金融制裁を解除するまで核放棄に関する話合いを拒否する」と念を押した。同次官はまた、「米国は対話と圧力、アメとムチの双方を繰り出そうとしている。我々はこれに対抗して、対話と抑止力の盾を一層強化して備える」と主張した。6カ国協議が不調に終わったため、日米などには制裁の強化を主張する動きがすでに出ている。これに対し、北朝鮮が対決姿勢を取ることを示唆したものだ。当面、北朝鮮の核実験再開など緊張激化は避けられないだろう。

 北朝鮮がこのような強硬姿勢を続けるのは、経済制裁が効果をあげていないからではないかとの見方がある。日米は制裁に厳しいが、韓国や中国は形式的な制裁しか科さない。韓国の中央日報(電子版)によれば、盧武鉉政権の対北経済協力は03年から来年度まで合計4兆1443億ウオンで、金大中政権時代の2.2倍に上る。また、米紙ウオール・ストリート・ジャーナルによれば、中朝国境の丹東市では、北朝鮮の特権階級と見られる人たちが日本の高級車や宝石類などを大量に買い込む姿が目立つという。日米がぜいたく品を輸出禁止にした分を、中国が埋めている。

 6カ国協議参加国の間で、対応をめぐる軋轢があることも北朝鮮を有利にしている。日本の佐々江アジア太平洋局長は18日の基調演説で、「拉致と核、ミサイル問題を包括的に解決するべきだ」と主張した。しかし、韓国の千英宇代表は「核放棄だけを議論し、そのほかの問題は当面提起するべきではない」と主張、拉致問題を重視する日本を牽制した。日本排除を掲げる北朝鮮への援護と見られても仕方のない発言である。次回の6カ国協議が何時になるか分からないが、もう一度たがをはめ直す必要がある。


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