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イラク戦争、ブッシュ政権は四面楚歌
持田直武 国際ニュース分析

2006年5月1日 持田直武

ブッシュ大統領が総好かんを食っている。イラク情報担当だった元CIA幹部がテレビに出演し、「ブッシュ政権はイラクに大量破壊兵器が無いとの情報を握りつぶして戦争に突入した」と告発。軍部からは、退役将軍6人がラムズフェルド国防長官の辞任を要求。一方、議会はブッシュ大統領が要求したイラク戦費を大幅削減した。大統領支持率は32%に急落、四面楚歌である。


・イラク外相からの内通を握りつぶす

 CBSテレビは4月23日の報道番組で、「ブッシュ政権はイラクに大量破壊兵器が無いというフセイン政権のサブリ外相からの内通情報を握りつぶして戦争に突入した」と告発する元CIA幹部ドラムヘラー氏のインタビューを放送した。同氏は当時、ヨーロッパに駐在し、対イラク秘密工作の総括責任者だった。1年前に退役したが、同氏のような立場のCIA幹部がブッシュ政権を告発するのは初めてである。

 内通を指摘されたサブリ外相は01年からフセイン政権崩壊まで外相。CIAは開戦の前、同外相をフセイン大統領のインナー・サークルの要人と見て、フランス情報機関の支援を得て工作を開始。その責任者がドラムヘラー氏だった。同氏がインタビューで明らかにした内容によれば、同外相から「イラクに大量破壊兵器はない」という情報を入手したのは、戦争開始半年前の02年秋。当時のCIA長官テネット氏がホワイトハウスにこれを伝達、ブッシュ、チェイニー正副大統領、ライス現国務長官も列席する幹部会議で入手の経緯を説明した。

 当時、ブッシュ政権はイラクが生物、化学兵器を持ち、核兵器の製造計画も推進していると断定、着々と開戦の準備を進めていた。サブリ外相の情報は、その断定を覆す内容のものだった。ドラムヘラー氏は、ブッシュ政権から確認のための追加情報収集の指示が当然くると思った。だが、連絡もない。しばらくして、ホワイトハウスのイラク担当グループから「この種の情報には興味がない」という返事がきた。問いただすと、「焦点は体制転換だ」という答えだったという。


・戦争遂行に都合の良い情報だけ選択

 ドラムヘラー氏は、ブッシュ政権が最初からフセイン政権打倒に目標を設定、それに都合のよい情報だけを選択したと批判した。CBSがこの件で、ホワイトハウスに説明を求めたが、まだ回答はないという。インタビューで、同氏は触れなかったが、CIAはこの情報を入手するにあたって、サブリ外相に10万ドルを払い、亡命の便宜も図ると提案したことが明らかになっている。その約束のためか不明だが、同外相はフセイン政権崩壊の際に姿を消し、今はカタールの大学で教職に就いている。ドラムヘラー氏は同外相から入手した情報を信頼できる内容と見て、ただちにワシントンに報告した。だが、ブッシュ政権が欲しかったのは、「大量破壊兵器がある」という情報だけだったということになる。

 同様のことは、フセイン政権がニジェールから加工ウラン500トンを購入したとの情報についても言える。同情報は9・11事件の1ヶ月後、イタリアの情報機関からブッシュ政権に届いた。事実なら、イラクが核兵器製造を推進している証拠となる。だが、CIA内にも疑問があり、ウイルソン元大使が現地調査を実施。同元大使は調査結果として、事実無根と報告した。CIAはこれをホワイトハウスに伝えたが、ブッシュ、チェイニーの正副大統領はこれを無視し、その後もイラクの核兵器開発の証拠として、この加工ウラン購入情報を引用した。

 ところが、大量破壊兵器が発見できないことが問題になった時、ブッシュ政権は情報機関に問題があったと釈明する。CIA内に不満が高まるのは当然だった。それを背景に、今回ドラムヘラー氏が当時のCIA現場幹部として初めてテレビに登場、同政権の情報操作を告発した。実は、同様の動きは軍内にも生じている。これまでに6人の退役将軍がラムズフェルド国防長官の独断的なイラク政策に反対を表明、辞任を要求した。厳格なシビリアン・コントロールで成り立つ米軍の制服組が、退役した立場からとは言え、文官のトップに叛旗を翻したのだ。


・支持率最低、議会はイラク予算を削減

 4月24日のCNNテレビによれば、ブッシュ大統領の支持率は32%と就任以来の最低になった。3月の調査では36%だった。支持率低下の原因について、CNNはイラク戦争解決の見通しがないこと、石油価格の値上がりが家計に響いてきたこと、ハリケーン被害の対する対策が依然もたついていることなどを挙げている。大統領の支持率低下は、秋に中間選挙を控える共和党議員にとって見過ごしできない重大事。このまま大統領の不人気が続けば、共和党は上下両院の過半数を失うとの懸念も出ている。

 この懸念を反映、上院は26日、ブッシュ大統領が要求したイラク・アフガニスタン戦費から19億ドルを削減、これをメキシコ国境の密入国対策費にまわす決議をした。共和党のグレグ上院議員が削減を提案し、賛成59票、反対は39票だった。ブッシュ大統領は大幅な削減をすれば拒否権を行使すると警告した。しかし、議会の関心は最近急速に高まってきたメキシコ系違法移民問題に移っている。上院内にはこのほか、民主・共和両党議員が共同で、イラク新政権の組閣に期限を切り、達成できない場合、米軍を引き揚げるとの決議案を出す動きもある。ブッシュ政権のイラク政策にしびれを切らした動きと言ってよい。

 ブッシュ大統領は26日、ライス国務、ラムズフェルド国防の両長官を同時にイラクに派遣、新首相に決まったマリキ氏に活を入れた。同氏は規定で、5月22日までに組閣を完了しなければならない。しかし、それには民兵の国軍編入など、各派の死活にかかわる問題の調整が必要だ。マリキ氏は首相指名の際、「15日で組閣を完了する」と強気の発言をしたが、実現の見通しはない。組閣がもたつくことは、各派の対立が深まることにつながり、治安の回復は遅れる。ブッシュ大統領が、中間選挙前に米軍削減の方針を示すためには、この悪循環を断ち切らなければならないが、その見通しはまだ出ていない。


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