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イラン核開発、危機は去るか
持田直武 国際ニュース分析

2006年6月12日 持田直武

米など6カ国がイランに対し新提案を示した。イランがウラン濃縮を中止することを条件に、交渉を開始。軽水炉の提供や航空機部品の売却、WTO加盟支援などを検討する。また、IAEAが査察し、核開発を平和利用と判断すれば、濃縮の再開を認めるという一見、大幅譲歩とも見える内容。だが、イラン大統領は「詐欺的提案」と批判。ウラン原料を補給し、濃縮継続の姿勢を誇示している。


・イラン大統領は詐欺的と不満

 米英仏独中ロ6カ国の新提案は、EUのソラナ外交担当代表が6日、テヘランでイランのモッタキ外相、ラリジャニ国家安全保障最高評議会議長に手渡し、2時間にわたって説明した。このあと、ラリジャニ議長は「提案には積極的な面もあるが、除去すべき曖昧な点もある」と述べ、賛否どちらとも取れる姿勢を示した。提案内容は公表されていないが、欧米のメディアによれば、次のような項目が含まれている。

・ イランがウラン濃縮を中止すれば、米など6カ国は交渉に応じ、軽水炉の提供や米の航空機部品の購入、WTO(世界貿易機関)加盟支援などを検討する。
・ この間、IAEA(国際原子力機関)が査察し、イランの核計画を平和利用と断定すれば、濃縮再開を検討する。
・ また、イランがウラン濃縮を中止すれば、安全の保障をする。

 この提案に対し、アフマディネジャド大統領は8日、テヘラン西方のカスビーンで演説し、「敵は詐欺的な手法を用い、曖昧な立場を取っている」と批判した。8日のIAEAエルバラダイ事務局長の報告によれば、イランはソラナEU代表が提案を渡した6日、これまで縮小していたウラン濃縮活動を拡大、原料の六フッ化ウランの補給をしたという。イランはウラン濃縮の権利を放棄しないという、かねてからの主張をあえて誇示したものと見られている。


・イラン国内では穏健、強硬両派の確執

 7日の英紙ガーディアンによれば、提案をめぐってイラン国内は強硬派、穏健派に割れているという。穏健派はラリジャニ議長やラフサンジャニ元大統領、強硬派は護憲評議会のジャナティ議長など。最高指導者のハメネイ師はまだ意見を表明していない。イラン国営通信は7日、「米がイラン敵視政策を見直したと言える」と評価する穏健派の主張を伝えた。理由は「米が安全の保証や航空機部品売却などの検討に応じる姿勢を見せたから」である。しかし、強硬派の新聞ケイハンは「提案は米欧の譲歩ではなく、あらたな陰謀と見るべきだ」と主張した。

 アフマディネジャド大統領は8日の演説で、「核開発の権利について交渉はしないが、国際社会との間の誤解や懸念についてなら交渉する」と主張した。しかし、交渉の前提となるウラン濃縮の中止には触れなかった。同大統領は5月、ブッシュ大統領に異例の書簡を送って直接交渉を促した手前もあり、交渉には応じようとするだろう。しかし、そのために濃縮を中止することには、国内の強硬派が抵抗するに違いない。同大統領もこの問題では、強硬派と穏健派の間で立ち往生しているようだ。

 イランがウラン濃縮を中止しなければ、米は交渉に応じないことも確かである。米国務省のマコーマック報道官によれば、「濃縮の中止は、主要国の確固たる立場で、妥協することは出来ない」からだ。米の見方では、イランがウラン濃縮に固執するのは、それが核兵器開発への唯一の道だからであり、米国としては、この道を閉ざさなければ交渉には応じられないというのだ。同報道官はまた「濃縮中止は、主要な交渉が続く間は継続して続けなければならない」とも主張している。問題は、この濃縮中止の期間が何時まで続くのかである。


・ブッシュ政権の狙いは濃縮の永久停止

 7日のワシントン・ポストによれば、米はじめ6カ国の提案は、イランがウラン濃縮中止に応じたあと、交渉の成り行き次第で濃縮再開の可能性も残しているという。その条件は、IAEAがイランの核開発は完全に平和目的だと結論を出すこと。イランは同時に、国連安保理に対し、核兵器開発の完全な放棄を確約することだという。同紙は、その手続きに、何年間もの歳月が必要で今後の成り行きも不透明と述べた上でさらに、この提案をしたことによって、ブッシュ政権はイランに核兵器の開発技術を与えないという、これまでの立場を放棄したことになると伝えた。

 一方、ニューヨーク・タイムズは8日、核兵器開発の完全放棄の約束は、日本も手続きに5年かかったという例を挙げ、イランはこれより長くかかることは確実と伝えた。同紙はまた、6カ国の提案では、IAEAがイラン核開発は平和目的と断定したあとも、検証を続けることを決めているが、濃縮再開については何の取り決めもしていないと伝えた。これは、米はじめ6カ国がイランの核を管理し続けることを意味するという。同紙はその結果、ウラン濃縮の再開は「30年後、あるいはイランの現在のイスラム原理主義体制が終わる時になる」とブッシュ政権高官が語ったと伝えている。米は濃縮の永久停止を狙っているのだ。

 米はじめ6カ国の提案は6日にイランに手渡された段階では、イランに大幅な譲歩をした内容と注目された。ブッシュ政権が79年のホメイニ革命以来閉ざしていた対話を再開する決定をした影響も重なった。日頃は強硬な主張をするイラン国営通信も「米がイラン敵視政策を見直したと言える」と伝えた。しかし、その後の動きで楽観論は急速にしぼんでいる。上記のニューヨーク・タイムズに見るように、ブッシュ政権高官が提案の厳しい解釈を示して楽観論を牽制した影響も大きい。イラン護憲評議会の強硬派ジャナティ議長は9日「提案は、彼らには良いが、イランには悪い」と述べ、拒否するよう主張した。危機は遠のいたとは言えないようだ。


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