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テポドン2、北朝鮮の狙い
持田直武 国際ニュース分析

2006年6月25日 持田直武

北朝鮮がテポドン2の発射準備と思われる動きを続けている。狙いは、ブッシュ政権を直接対話に引き出すことのようだが、同政権は対話を拒否。代わりに、朝鮮半島周辺にイージス艦を並べ、ミサイル防衛システムを実戦モードに切り替えた。北朝鮮は何かを読み間違えている。


・発射は米を対話に引き込むためか

 北朝鮮がミサイル問題で、ブッシュ政権に対話を要求したのは6月20日である。国連駐在の韓成烈次席大使が韓国の聯合通信に対し、「米国がミサイル実験を憂慮するのなら、米朝交渉を通じ問題解決を図るべきだ」と主張した。テポドン2の発射準備と見られる動きが始まって1ヶ月余り、北朝鮮当局者の最初の対話要求だった。だが、国務省のエレリー副報道官は「米との対話を望むなら、6カ国協議の場で行うべきだ。北朝鮮との直接対話は我々の予定にはない」と拒否した。

 ブッシュ政権内には、今回のミサイルをめぐる動きが始まった当初から、北朝鮮がこれを材料に遅かれ早かれ、米との直接交渉を要求するとの見方があった。韓国の中央日報によれば、テポドン2は平壌近郊の南浦の軍需工場で製造、東北部の発射場まで大型トレーラーで運ばれた。テントで覆っていたが、米の偵察衛星から見れば、ミサイルであることは一目瞭然だった筈だという。米を交渉に引き込むための陽動作戦と勘ぐられてもおかしくない動きだった。

 実は、これには先例がある。北朝鮮が98年8月テポドン1を発射したあと、米クリントン政権は、再発射を抑えるため交渉を開始。翌年9月、米が経済封鎖の一部を解除するのと引き換えに、北朝鮮は発射自粛に応じた。22日の朝鮮日報が韓国情報院の国会報告として報じた内容によれば、北朝鮮側はこの交渉中、テポドンを発射台に据えて発射の構えを崩さなかったという。今回の北朝鮮の交渉要求に対し、ブッシュ政権内の最強硬派ボルトン国連大使は「脅迫下で交渉はできない。容認すれば、また同じことが起きる」と反論し、この記憶を蘇らせた。


・ミサイルはどこに向かって飛ぶか

 発射準備と見られる動きは続くが、それが軍事目的の弾道ミサイルか、衛星打ち上げ用か、実はわかっていない。北朝鮮の技術では衛星は作れないとの見方もあるが、断定はできない。また、発射に必要な燃料も注入したのかどうかも、分からない。韓国情報院は、発射台周辺に燃料タンクが40個余りあるが、これでは必要な燃料65トンに足りないため、注入は終わっていないと判断している。米政府関係者は一時、注入済みと説明したこともあったが、ホワイトハウスのハドリー大統領補佐官は20日、「確定的なことは言えない」と慎重な見方に戻った。

 発射した場合、ミサイルがどこに飛ぶのかもわからない。ロシアのシュワロフ大統領補佐官は20日の記者会見で、「発射させればよい。本当に飛ぶか、標的まで届くのかを見てから対策を考えるべきだ」と述べた。しかし、日本は深刻である。警察庁の漆間長官は22日の記者会見で、「日本国内に弾頭や破片が落下する最悪の事態も想定して対処する」と強調した。人命に被害が出た場合の救難活動、破片に毒性のある物質が付着していないかどうかの検査なども考えなければならない。

 こうした状況下、米国内には、実力行使を主張する強硬意見も出る。クリントン政権の国防長官だったペリー氏と国防次官補だったカーター氏は連名で22日のワシントン・ポストに寄稿、「発射前の破壊」を提案した。両氏は「米に敵対する北朝鮮が、米国に届く核ミサイルを持つのを許すべきではない」として、潜水艦発射のクルーズ・ミサイルによる先制攻撃で破壊するべきだと主張した。これに対し、チェイニー副大統領はCNNで、「軍事行動をとれば、一撃だけでは済まなくなる」と反対。しかし、ブッシュ政権が外交面と並行して軍事面でも対応策を進めていることは明らかだった。


・はずれた北朝鮮の目論見

 北朝鮮に対し、発射の自制を求める動きや、発射した場合の対応措置をとる動きも活発になった。日米は、北朝鮮が発射した場合、国連安保理を持ち込むことを確認、制裁を視野に非公式協議を開始した。一方、ロシア政府は22日北朝鮮の朴義春ロシア駐在大使を外務省に呼び、「地域の安定を脅かし、核問題解決のプロセスをこじらせる」として、発射の自制を要求。また、中国外務省の姜瑜副報道局長も22日、「関係国が北東アジアの平和と安定に寄与する行動をとるよう希望する」と発言、北朝鮮と日米双方の動きに懸念を表明した。中国が北朝鮮に対して公式に懸念を表明したのはかつて無いことだった。

 この外交面の動きと並行し、日米は発射した場合の軍事面の対応も進めている。日米とも公表はしていないが、イージス艦を日本海に派遣。また、米メディアによれば、米国防総省はこれまで実験モードだったミサイル迎撃システムを初めて実戦モードに切り替え、万一の場合、北朝鮮が発射したミサイルを飛行段階で撃墜することも計画しているという。ハワイ沖では22日、日米共同の弾道ミサイル迎撃実験を実施、イージス艦発射の迎撃ミサイルで、飛行中の弾道ミサイルを撃墜することに成功。北朝鮮のミサイル発射を軍事面からも牽制した。

 北朝鮮の韓成烈国連次席大使は20日、米との直接対話を要求した際、「北朝鮮は主権国家として、ミサイルの開発、配備、実験、輸出の権利もある」と主張。北朝鮮のミサイル発射に違法性はないと強調した。しかし、今回の動きに、長年の同盟国ロシアは自制を要求、中国も初めて懸念を表明した。太陽政策で南北交流の基礎を築いた金大中前大統領は訪朝計画を取りやめざるを得なくなった。ブッシュ政権は北朝鮮との直接対話に応じないこともはっきりした。北朝鮮が今回の動きで、何を狙ったのかはわからないが、得るものは何もないのではないかとしか思えない。


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