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朝鮮半島の危機
持田直武 国際ニュース分析

2006年7月17日 持田直武

国連安保理が北朝鮮非難決議を採択して、ミサイル開発の中止を要求した。中ロをはじめ安保理15カ国の満場一致の支持だった。これに対し、北朝鮮は直ちに拒否。ミサイル発射の継続を主張し、外部の圧力には報復を示唆。国際社会と全面対決の様相となった。


・北朝鮮は決議を拒否、緊張が高まる恐れ

 安保理が15日に採択した決議は、北朝鮮のミサイル発射を非難した上で、北朝鮮に対し次のような要求をしている。
1すべてのミサイル開発を中止する。
2ミサイル発射の凍結をする。
3核開発問題を話し合う6カ国協議に復帰する。

 また、同決議はすべての国連加盟国に対し、次のような要求をしている。
1北朝鮮にミサイルと大量破壊兵器の関連技術や物資の売却を禁止する。
2北朝鮮からミサイルや禁止された兵器、その関連技術を購入することを禁止する。

 この決議に対し、北朝鮮の朴吉淵大使は安保理の議場で直ちに「拒否」を表明。決議は「幾つかの国が、安保理の場を利用して、邪悪な政治的目的を達成しようとするもの」と非難した。そして、同大使は「北朝鮮人民軍はミサイル発射を今後も続ける」と言明、「これは、国を防衛するための抑止力強化の努力の1つで、他の国がこれに圧力をかけるなら、強力な物理的行動を取る」と報復を示唆した。

 今回の決議は中ロを含む安保理15カ国の全員一致の支持で成立した。その過程で、日米は国連憲章7条に基づく強制的制裁を主張し、北朝鮮の立場に配慮する中ロと対立したが、最終的には妥協。第7条は削除したものの、満場一致で採択し、安保理は結束して力を示すことになった。今後も、北朝鮮がミサイル発射を続ける姿勢を続ければ、安保理は次の措置を取ることになり、緊張が高まることは避けられない。


・北朝鮮が中国と袂を分かつ

 中国がこの北朝鮮の動きに不満なのは明らかだった。胡錦濤国家主席は11日、訪中した北朝鮮の楊亨燮最高人民会議常任副委員長と会談、ミサイル発射に反対することを伝えた。その理由として、同主席は「朝鮮半島情勢を悪化させる」ことを挙げた。北朝鮮がミサイル発射を続ければ、日米は安保面の協力を強化し、東アジアの軍事バランスが変化すると懸念しているのだ。しかし、上記のように朴吉淵国連大使は安保理の場で、発射を続けると宣言、胡錦濤主席の要求を拒否した。

 中国はまた、今回のミサイル問題では、武大偉外務次官を北京に派遣、北朝鮮に発射の中止と6カ国協議への復帰を働きかけた。安保理が日米提出の制裁決議案を採決する前、北朝鮮から発射中止の約束を取り付け、決議を阻止する狙いからだった。しかし、北朝鮮は応じず、北朝鮮に対する中国の影響力の限界を露呈する結果になった。安保理が最終的に可決した決議は、中ロの意見も容れた妥協案だが、原案は日米の制裁決議案であり、今後日米の影響が強まるのは間違いない。

 韓国の聨合通信によれば、北朝鮮は在外公館長会議を招集、17日からの週に開催するという。同会議の開催は01年7月以来5年ぶり。開催の理由は明らかになっていないが、多額の費用がかかる同会議の開催は、今回の安保理決議と無関係であるはずはない。決議を拒否し、同盟国の中ロとも袂を分かって、国際社会と対決する、その強硬策を周知するための会議となることは間違いないだろう。日米は、こうした北朝鮮の動きに対応するため、一層の協力強化に踏み切るだろう。


・韓国も日米の動きを警戒

 韓国の盧武鉉政権もこの日米の動きを懸念している。朝鮮日報によれば、盧武鉉大統領は11日、与党ウリ党指導部との懇談会で、ミサイル発射について「北朝鮮の誤った判断は理解できないが、日本の政治家の先制攻撃発言は事態をさらに悪化させる」と日本の動きを批判した。また、同大統領は、米国の対応についても、「ミサイル発射は、米国に譲歩を要求する政治的行為である」と述べ、安全保障面の危機と捉えるブッシュ政権を批判した。

 日米韓3カ国の協力体制はミサイル発射問題に関する限り、崩壊している。日米両政府は、ミサイル発射前から制裁決議案の作成を計画して準備を始めたが、それを韓国政府には伝えなかった。北朝鮮がミサイルを発射した5日、韓国大統領府の宋旻淳安保室長が訪米中だったが、米側当局者は決議案の説明をしなかった。その時、決議案は7日の提出を控え、ほとんど完成していた。今後、北朝鮮と国際社会の対決が強まれば、日米韓の強力体制を調整しなおすことも課題となる。

 現在の状況では、北朝鮮は安保理決議を受け入れることはまずないだろう。訪朝した武大偉外務次官が手ぶらで帰ったことや、朴吉淵大使が決議案を間髪を入れずに拒否したことから見て、この問題に懸ける北朝鮮の決意は固いようだ。北朝鮮はかねがね、制裁には報復すると公言していることも忘れるべきではない。国連安保理で、日本が今度のように中心的役割を演じたことは過去にはなかった。その分、派生する問題に責任もあることになる。


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