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韓国大統領選挙、北朝鮮政策の攻防
持田直武 国際ニュース分析

2007年10月21日 持田直武

韓国大統領選挙は与党大統合民主新党の鄭東泳候補、野党ハンナラ党の李明博候補の2人の対決となった。政策は、与党系の鄭候補は福祉重視路線、野党の李候補は高度成長路線と対称的。選挙戦では、盧武鉉大統領が先の南北首脳会談で合意した北朝鮮に対する経済協力の履行問題が焦点となる。


・世論調査は野党候補が圧倒的に有利

 大統領選挙は、投票日が12月19日、新大統領は来年2月25日に就任する。候補者は、与党系が大統合民主新党の鄭東泳元統一相、野党ハンナラ党が李明博元ソウル市長、それに民主党など3野党の3人、合わせて5人が立候補している。朝鮮日報が16日に実施した世論調査によれば、支持率は野党の李明博候補が55.5%、与党系の鄭東泳候補が16.2%、他の野党3政党の候補はいずれも10%以下。現状では、野党の李明博候補が圧倒的にリードしている。

 支持率トップの李明博候補は65歳。現代グループの中核企業「現代建設」の社長など同グループ系企業の経営者として活躍。92年から国会議員、02年ソウル市長に転進して都市改造に手腕を発揮、下水道同然だった都市の川「清渓川」を清流に復元して評価を高めた。大統領立候補にあたって掲げた経済政策が「7・4・7」宣言。10年間7%成長、10年後の国民所得4万ドル、世界7位以内の経済大国に躍進するという意欲的高成長路線である。

 これに対し、与党系の鄭東泳候補は54歳。文化放送(MBC)の記者、キャスターを経て96年から国会議員。盧武鉉政権下で与党ウリ党の議長、統一相を歴任。統一相時代、大統領特使として訪朝して金正日総書記と会談した。立候補に当たって政策提言はまだ出していないが、15日党候補に選出された際の受諾演説で、「20%が裕福に暮らし、80%が捨てられる弱肉強食経済を是正する」と主張。野党の李明博候補と真っ向から対決する姿勢を打ち出した。


・論争の焦点は南北合意の履行問題

 北朝鮮政策についても、両者の差は大きい。特に、先の南北首脳会談で盧武鉉大統領と金正日総書記が合意した経済協力の履行問題で対立している。野党の李明博候補は、北朝鮮が核を放棄し、開放政策を取った場合、北朝鮮国民の所得3,000ドルを目指して協力するという「非核・開放・3,000」政策を主張。南北首脳会談の合意事項については、11日のMBC放送で「新大統領として、合意を履行するかどうか返答し難い」と態度を留保した。

 これに対し、与党系の鄭東泳候補は18日の政策討論会で、「合意事項を継承する」と約束。鄭候補はその理由として「韓国は経済成長の4大要素である土地、資本、労働力、生産性のすべてで壁にぶつかっている。開城工業団地など北朝鮮との共同事業はこの壁を打ち破り、韓国の製造業を復活させる鍵となる」と強調した。そして、「もし、首脳会談の合意を履行しなければ、南北関係は大きく後退する」と述べて、合意の継承に難色を見せる李明博候補に反論した。

 南北首脳会談の合意事項は、盧武鉉大統領が「持って行った風呂敷に包みきれないほどある」と自慢したほど多かった。朝鮮日報によれば、朝鮮半島の核や平和体制確立問題など包括的に合意した事項が5件、開城工業団地の第2期工事など具体的に合意した事項が8件、合わせて13件もある。北朝鮮もこれに合意するにあたって、それなりの決断をしたことが推測できる。韓国の次期大統領がその履行を渋ったりすれば、南北関係は大きく後退するのは間違いない。


・合意履行費用100億ドル超をめぐる攻防

 首脳会談の合意履行にあたって、最大の問題はそのために必要な経費をどう捻出するかである。合意事項13件のうち、経済面の協力事業は開城工業団地第2期工事や海州経済特区の開発、白頭山観光開発など5件ある。盧武鉉政権はこの経費について今まで何の説明もしていないが、民間の現代経済研究院は総費用10兆2,600億ウォン(約113億ドル)と試算した。国家予算の約4%、韓国が北朝鮮支援のため毎年支出する南北協力基金の約8倍、韓国にとっては大きな負担だ。

 与党系の鄭東泳候補は与党ウリ党の議長や統一相として開城工業団地の1期工事を推進した、いわば南北経済協力の責任者。当選すれば、大統領として合意事項を継承するのは確実だ。しかし、野党の李明博候補は北朝鮮政策として「非核、開放、3,000」を掲げ、北朝鮮が開放体制をとることを協力の条件としている。企業経営者の経験から、協力は開放体制下でなければ不可能という主張だが、北朝鮮が現段階で開放政策に応じることはないとの見方が強い。

 投票日まで残すところ2ヶ月、現状では野党ハンナラ党の李明博候補が圧倒的に有利だが、まだ結論を出すのは早いようだ。与党系の鄭東泳候補が野党3党と候補の一本化に動いているほか、李明博候補の金融スキャンダルが終盤になって表面化するとの観測も流れている。米国に収監されていた関係者が投票日前に帰国するというのだ。過去の大統領選挙では、北朝鮮から「北風」が吹くこともしばしばあった。今回は、どんな風が吹くかも関心の的だ。


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